読書のあしあと

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書評120 柴田元幸編著

『ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち』

(アルク、2004年)

りんご図書館放出本フェア第四弾。
しかも今回はCDつきです。


【著者紹介】
しばた・もとゆき (1954─) 翻訳家、小説家、東京大学教授。専攻はアメリカ文学。
1985年イェール大学大学院修士課程修了。東京学芸大学教育学部助教授などを経て現職。現代アメリカ文学、特にポストモダン文学の翻訳に尽力している。自身も文学や翻訳を題材にしたエッセイを執筆しており、2006年には初の小説集『バレンタイン』も刊行した。
『生半可な学者』で講談社エッセイ賞、『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞を受賞。


【目次】
1 小説を書くとは、決して起きなかったことを思い出すこと――シリ・ハストヴェット
2 僕に関心があるのは、コミックスにできてほかのメディアにはできないことだ――アート・スピーゲルマン
3 阿呆にある程度喋らせておけば、そいつが阿呆だってことはいずれ見えてくる――T.R.ピアソン
4 シカゴ出の青二才が書いたものを読んでくれる読者が日本にいると思うと本当に感動する――スチュアート・ダイベック
5 僕にとって“心”と“頭”は対極ではありません。心の知と頭の知のどちらかを選ぶ、なんて必要は感じない――リチャード・パワーズ
6 頭のなかで、音楽か呪文のように聞こえてくる感覚から作品がはじまる――レベッカ・ブラウン
7 つねに、どの時点でも、そのつど新しい声を見つけなくちゃいけない――カズオ・イシグロ
8 現実が持っている、不思議で、意外な本質に、我々は本当に向きあってはいないんじゃないか――ポール・オースター
9 今この表層、地上レベルとは違う、オルタナティブがあるんだということは、肉感的に感じさせたい――村上春樹


【本書の内容】
9人の作家(シリ・ハストヴェット、アート・スピーゲルマン、T・R・ピアソン、スチュアート・ダイベック、リチャード・パワーズ、レベッカ・ブラウン、カズオ・イシグロ、ポール・オースター、村上春樹)のインタビューを掲載。自作、文学、そして人生について語っています。CDには8人(村上春樹を除く)のインタビューを収録。左ページに英文、右ページに日本語訳の構成。各インタビューの後ろには作品リストを付しています。(Amazonより)


お薦め度:★★★★☆

【本書の感想】

<全体の感想>
とても豪華な本だ。現代アメリカを代表する作家たちの、日常の素顔から文学観までを柴田元幸が聞き出して翻訳している。しかも、作家たちの肉声つき。

さすが柴田元幸と言うべきか、聴き所が奸に要を得ていて、作家たちの文学観を見事に引き出している。のみならず、インタビューを聴いていると、話が進むにつれ作家たちが柴田を信頼していく過程がよくわかる。“Yes, absolute!”といった反応が何度も作家の口から漏れるのである。柴田は名翻訳家であると同時に、素晴らしい読者でもあるということだと思う。


私自身は収録されている作家9人のうち3人(レベッカ・ブラウン、カズオ・イシグロ、村上春樹)の作品しか読んだことがないので、この本のインタビューも3人分+スチュアート・ダイベックで計4人分しか読んでいない。
しかしそれでも十分面白かった。特にカズオ・イシグロの回は、私自身思い入れのある作家だけに何度も読み返した。


<“Most of us are butlers”>
イシグロのインタビューは2001年に行われていて、代表作『日の名残り』(The Remain of the Day)と、その後の『充たされざる者』(The Unconsoled)、『私たちが孤児だったころ』(When We are Ophanes)に至るまでのイシグロ作品の変化が話題の中心になっている。

『日の名残り』についてイシグロが語っていることで一番印象に残ったのは、「私たちは皆、何らかの意味で執事なのではないか」という発言だ。

Most of us are butlers in one sense or another. (我々の大半は、何らかの意味で執事ではないか。)[202項]
We learn to master some skills. And we offere up our little contribution to some large body――we offere our little contribution up to one person, a boss, or perhaps to a cause, a political cause, or perhaps to a nation. (私たちは何らかの技術を身に付け、マスターする。そのささやかな貢献を、もっと何か大きな存在に――会社とか、あるいは一人の人物、上司に、または政治上の正義に、国家に――捧げるわけです。)[同項]
wether our lives and our enegies are wasted or not ultimately depends on this other person upstairs. (私たちの人生、私たちの努力が無駄に終わるか否かは、最終的には、そういった上の人間に左右されると思うのです。)[204項]

実にイギリス人らしいリアリズムだと思う。書評54:『日の名残り』におけるスティーブンスの社会的貢献は、彼が執事としての人生を捧げたダーリントン卿にかかっていたのである。
そしてその後悔は、決して他人事ではない。会社勤めであれ、公務員であれ、自営業であれ、自分自身の努力がストレートに社会に貢献することなんてごく稀なのである。大抵の場合、それは「上の人次第」だ。
私が『日の名残り』を読んだときにはこういう視点はなかった。今読み返したら、また新しい発見がたくさんありそうだ。


イシグロ作品は『日の名残り』以降読んでいないが、『充たされざる者』『私たちが孤児だったころ』についての話も面白い。巷の評判では『日の名残り』とは全く違う作品らしいが、イシグロ自身それを意識したのだと言う。イシグロはブッカー賞を受賞した『日の名残り』を敢えて離れて、新しい自分を表現し続けている。


<村上春樹のコロッケ>
レベッカ・ブラウンの作品では、以前書評20:『家庭の医学』を取り上げたことがある。思いがけない現実を受け入れる過程を淡々と描いた作品だった。
インタビューを読むと、レベッカ・ブラウンの作品は英語が非常にシンプルで、韻を踏んだような文章が多いそうだ。レベッカ自身、自分にとってストーリーやキャラクターよりも文章のリズムが大事だと言っている。
そう聞くと、いかに柴田元幸の訳が上手くても、やはり原書で読んだ方が魅力的なのだろう。今度書店で探してみよう。


そしてちょっと興味深かったのが村上春樹の回。
実は私は村上春樹が苦手である。読書ブログをやっている人にはたくさんのハルキストがいるので言うのも憚られるが、私にとってはどうもピンとこないタイプの作家だ。
ところが、このインタビューを読んで、一つだけ共感したことがあった。それは物語の有効性について、あるいは人間の理解の仕方についてである。

「例えば、柴田さんがここにあるコロッケについて原稿用紙10枚書くとする。柴田さんはただコロッケについて書いているわけであって、柴田さん自身について語っているわけじゃないんだけれども、そのコロッケについての文章を読めば、柴田さんの人柄というか、世界を視る視点みたいなものが、僕にもある程度わかるわけじゃないですか。……でも柴田さんが僕に向かって直接、柴田元幸とは何か、如何なる人間存在か、というような説明を始めると、逆に柴田元幸を理解することは難しくなるかもしれない。むしろコロッケについて語ってくれた方が、僕としてはうまく柴田元幸をうまく理解できるかもしれない。それが僕の言う物語の有効性なんですよね。(279─280項)」

私が共感したのは、何かを媒介にした方が人間を理解するには有効だということだ。この部分では物語がコロッケに例えられているもの。私自身、それが食べ物であれ、音楽であれ、文学であれ、仕事であれ、何でもいいのだけれど、コロッケ的なものを媒介にして人間を理解することが大好きである。

村上春樹が物語に託すものが、ちょっとわかったような気がした。


<おわりに>
本書を読んで、無性に洋書を読みたくなってきた(笑)。今の自分の語学力でどこまで魅力を感じられるかわからないが、イシグロやレベッカの文章は是非原文で読んでみたいと思った。
彼らの文章は簡単な英語を使っているらしいし(もちろん柴田基準だが笑)、イシグロの文章の深みやレベッカのリズミカルな英文は原著でしか味わえないものだろう。本書も読み返しながら原著も読めたらいいなと思っている。

他では、スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』は、訳した作品の中で柴田自身が最も好きな作品なのだと言う。
柴田がそれだけ言うなら、短編集だしちょっと読んでみようかなぁ。

閉じる コメント(12)

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う〜洋書かあ・・・。あつぴも読めたらいいな〜とは思いますが、
ドリッピー(英語習得のCD)でつまづいてるからな〜(><)
文章のリズムは、原文でしか読めませんからね〜。
あつぴが挑戦しようと思ってるのは、枕草子などの古典を考えてます。
もちろん、訳付きですけどね〜(><)

2008/5/12(月) 午前 11:39 ビール大好きあつぴ

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>あつぴさん:日本の古典もいいですよね〜!私だって訳がなきゃ無理ですけど(笑)。体力があれば挑戦したいのですが…。個人的には、今興味があるのは『源氏物語』と『徒然草』ですね。

2008/5/13(火) 午前 0:57 大三元

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これ、今読んでいます。とても面白く刺激的なインタビューですよね。CD付きというのもユニークです。まだ読了していませんが、たしかに柴田氏の質問が非常に巧みです。読み込みの深さは並大抵ではないと思いました。当然でしょうけれど(笑)

2008/5/13(火) 午後 8:56 XXcXiX

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>きいちごさん:お〜、きいちごさんと読む本がタイムリーにかぶってるって珍しいので嬉しいです。
柴田元幸は素晴らしい読者だと書きましたが、よく考えてみれば、「本を読む」という行為自体がある意味翻訳ですから、それさえ上手くできない人間は二つの言語の間を翻訳するなんて到底無理なんでしょうね。

2008/5/14(水) 午前 0:38 大三元

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いまちょうどダイベックを読んでいる最中なので、とてもタイムリーでした!
コロッケのお話し、おもしろいですね。うんうん!と思わず頷いてしまいました^^大三元さんの書評を読んで「やっぱりこの本は買おう!」と決心しました^^
『シカゴ育ち』いいですよ^^オススメです。

2008/5/16(金) 午後 9:05 ang*1jp

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>あんごさん:ダイベックを読まれているのですか。ほんとタイムリーですね!読了されたら、是非あんごさんの感想を聞いてみたいです。
でもこの本もいいですよ。好きな作家がいればなおのこと買いです!私はこの本で村上春樹をちょっと見直しました(笑)。

2008/5/17(土) 午前 0:53 大三元

柴田さんの『夜の姉妹団』というアンソロジーが最高でした。。それ以来唯一のそそられる翻訳者さんです!!!!この本もCD付きとういうことで凄く凄く気になってました!!!
カズオ・イシグロはぜひ原著で読もうと延ばし延ばしにして、未読のまま今に至ってます。。。。もういい加減読みたーい!!です!!!彼の言葉の"other person upstairs"というのがイギリスの現実をしみじみ感じさせますね。。。。
ミステリ等の娯楽小説やノンフィクションは背伸びしてペーパーバックで読んだりしますが、ブンガクとなると、、、味わいまくったり、?だったり、立ち止まりすぎて迷子になってしまいます。。。。でも懲りずにトライしてます。。

2008/5/17(土) 午前 2:44 花椿

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実にいい本ですねぇ〜。いやお目が高い(笑)。私も村上春樹の小説はよくわからないのですが、彼がごくたまに新聞などで小説以外の文章を書いているものを読むと、「上手いこと言うな」と思うことがよくあります。「小説より小説以外の文章の方が面白い作家」として私の中では橋本治と双璧をなしています。

2008/5/17(土) 午後 1:54 [ - ]

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>花椿さん:『夜の姉妹団』は、ミルハイザーが表題作のアンソロジーでしたっけ。柴田元幸は、短い文章は読んでいましたが、この本を読んでますます信頼を強めました。イシグロは翻訳で読んでもあれだけの感動でしたから、原著なら世紀の傑作なのだと思います。読了されたら是非感想をお聞かせ下さい!他の洋書の感想も楽しみにしています。

2008/5/18(日) 午後 10:34 大三元

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>Ringoさん:りんご図書館放出本フェアの消化書評は、まだまだ続きます(笑)。
村上春樹の小説以外の文章ってあまり読んだことなかったのですが、これなら私も面白く読めそうです。そういえば橋本治もそんな感じがしますね。

2008/5/18(日) 午後 10:36 大三元

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いまごろになって……という感じですよね(汗)。
『ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち』の
編集を担当した者です。

この本をつくった狙いはひとつ。
登場する作家たちの作品にぜひ触れてもらいたい
(=読んでもらいたい)ということです。
そしてできれば原書、英語のままで。

その想いが伝わったようでとてもうれしいです。

それが伝えたくてコメントさせていただきました。

ありがとうございました。

2010/7/1(木) 午後 0:59 [ marco ]

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>marcoさん:初めまして、ご訪問&コメントありがとうございました。まさか担当の編集者の方にコメントをいただけるとは・・・恐縮です、ありがとうございます。
この本を読んでから、何冊か洋書を読むようになりましたが、残念ながら語学力の問題から、本書で紹介されていた本は購入にとどまっています。お恥ずかしい。
でも、読んでみたいという気持ちは変わらず、洋書は買い続けています。
そのうち、洋書の書評も載せていきたいと思っています。よろしければ、またお立ち寄り下さいませ。

2010/7/3(土) 午後 9:05 大三元


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