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書評 歴史小説

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書評122 司馬遼太郎

『竜馬がゆく』その1

(文春文庫[新装版]、1998年)全8巻

今年の読書のテーマの一つである歴史小説の第二弾に選んだのは、やっぱり司馬遼太郎です。

今回はシバリョーの代名詞とも言える大作、『竜馬がゆく』全8巻。
何しろ8巻もあるので、どういう記事の書き方にしようか迷ったんですが、2巻読み終わるごとに一本の記事を書き、計4つくらい書こうかなと思います。でも予定は未定。とりあえず今日は一本目の記事で2巻目までの感想を書きたいと思います。


【著者紹介】
しば・りょうたろう (1923─1996年) 作家。
大阪生れ、大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960年『梟の城』で直木賞を受賞し、以後歴史小説を一新する話題作を続々と発表。“司馬史観”とよばれる自在で明晰な歴史の見方が絶大な信頼をあつめる。1991年文化功労者、1993年文化勲章を受章。
他に『国盗り物語』『竜馬がゆく』で菊池寛賞、『殉死』で毎日芸術賞、『世に棲む日日』で吉川英治文学賞、『ひとびとの跫音』で読売文学賞小説賞、1986年『ロシアについて』で読売文学賞随筆紀行賞を受賞。
本ブログで取り上げた作品に書評106:『燃えよ剣』がある。


【本書の内容】
「薩長連合、大政奉還、あれァ、ぜんぶ竜馬一人がやったことさ」と、勝海舟はいった。坂本竜馬は幕末維新史上の奇蹟といわれる。かれは土佐の郷士の次男坊にすぎず、しかも浪人の身でありながらこの大動乱期に卓抜した仕事をなしえた。竜馬の劇的な生涯を中心に、同じ時代をひたむきに生きた若者たちを描く長篇小説。(文春文庫版第1巻カバーより)


【本書の感想】

<全体の感想>
第1〜2巻では、竜馬の生い立ちから土佐藩を脱藩するまでを扱っている。

まだまだ序盤という感じで、竜馬が剣を磨きながら一人の大人になっていく過程が描かれる。ペリー来航や桜田門外の変などにも触れているものの、世の中の九割九分は倒幕など頭にもない頃だ。そもそも、そんな雲の上のことは竜馬にはまだ絡まない。竜馬はまだ一介の郷士であり、世間に名を知られているとしても北辰一刀流の剣客としてであった。ただ、何をやればよいのかはわからなくとも、何か大きいことをやってやるという情熱は桂小五郎に出会った時から芽生えていた。それが倒幕・開国の青写真に固まるのは第2巻も終盤に入る頃である。


<竜馬は“狩猟型”である!>
物語の山場までにはまだまだあるので、ここではストーリーにはあまり触れずに、のちに竜馬の敵側となる新撰組・土方歳三を扱った書評106:『燃えよ剣』との対比で考えたことを書いてみたい。

歳三と竜馬は強烈な個性を持つことこそ共通しているものの、その性格は対照的である。歳三は根っからの武士であり、一度決めたことは絶対に曲げない。周りが何と言おうと、納得できないことはしない。
対して、竜馬はどこか飄々としているところがある。坂本家には商人の血が混じっているらしく、それも竜馬の性格に影響しているのではないか、と司馬は推測している。

ただ、人間的魅力で溢れているところは歳三と似ている。
桂小五郎(のち木戸孝允)が初めて竜馬に出会った時の印象は、「とほうもない大人物」であった。

こういうのを人物と言うのかもしれない。おなじ内容の言葉をしゃべっても、その人物の口から出ると、まるで魅力がちがってしまうことがある。人物があるかないかは、そいうことが尺度なのだ。(第1巻、204項)

そうそう、そういうもんだよなぁと共感しながら読む。

それからちょっと面白いなと思ったのは竜馬の自己認識である。
竜馬は、自らを“農夫型”ではなく“狩猟型”の人間だと考えた。

竜馬の考え方では、男には、農夫型と猟師型がある。野の片隅に安住して作物を植え、女房を愛し、子を育てることによろこびを見出す型と、山野を踏み分け、山から山へと獣を追い、ついには家郷を忘れる型のふたつである。(第1巻、370項)

幕末の風雲の主役になるくらいだから、竜馬の“狩猟型”っぷりは並はずれていたに違いない。激動の時代が強烈な個性を要求するのは、チャーチルであれ、小泉純一郎であれ、いつになっても変わらないのだろう。
ちなみに私は“農夫型”です(笑)。


<本心が読めない?>
二人の性格の違いは上に書いたが、次に二人の描かれ方についての印象を書きたい。第2巻までを読んで全体的に感じるのは、『燃えよ剣』の歳三よりも竜馬の内心がわかりにくい、ということだ。司馬は歳三を書く時には、その心情まで踏み込んで仔細に書いていた記憶がある。それに比べると本作の竜馬は何を考えているかわからない。そのため、私は竜馬に共感しながら読むのは難しかった。

それもそのはず、司馬自身がそう言っているのである。司馬が様々な資料を当たってみても、竜馬の考えていることがわからないことなどたくさんあったという。「晩熟、という言葉がある。この竜馬を、そう言うしか仕方がない。」(第2巻、22項)のだそうだ。

晩熟、ということは、成長するにつれて何を考えているかわからないなんてことはなくなってくるのだろうか。竜馬の人生は脱藩によってやっと幕を開けたと言ってもよく、今後読み進めるうちに感じ方も変わってくるのかもしれない。
第3巻以降が楽しみである。

閉じる コメント(24)

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私も竜馬は何者なのかつかめませんでした。どうして多くの人が激賞しているのか今も解りません。司馬遼太郎自身が竜馬の存在に懐疑的だったんじゃないかと思います。この時代は他に肩を並べる大人物が多すぎているのも一因でしょう。その意味で他の時代(源平時代や戦国時代)に比べ、描くのが難しい時代だと思います。

2008/6/1(日) 午後 1:41 [ kohrya ]

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全8巻。自分が読んだ本の中でいちばんの長編ですが、まったく苦にならずぐいぐいと読破できた覚えがあります。竜馬は茫洋とした、つかみどころのないところが魅力的ですよね。規格外の日本人、という感じで。続きの書評も楽しみにしています。

2008/6/1(日) 午後 9:00 ぼやっと

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いよいよ読み始めましたか。仲間が増える、うれしいな♪
私は、勝海舟や中岡慎太郎が好きなのですが、
『竜馬がゆく』の中の桂小五郎って好きなんです。
なんだか憎めないのです。
そのあたり、大三元さんはどう思うのか興味があります。

2008/6/1(日) 午後 10:44 miffy_toe

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>はるかさん:今後ともよろしくお願いします。

2008/6/1(日) 午後 11:19 大三元

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>あつぴさん:『竜馬』、読まれたことがあるんですね。私の拙い感想でも何かしら感じていただけたらと思います。再読された時にも感想を聞かせてください。

2008/6/1(日) 午後 11:22 大三元

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>花椿さん:奇遇にも同時期に読んでいたということで、嬉しく思います。花椿さんは“狩猟型”なんですね!それなら竜馬にも色々と共感できたのではないでしょうか。今歴史のうねりが動き始めているところで、わくわくしながら読んでいます。

2008/6/1(日) 午後 11:27 大三元

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>gakiさん:私も今まではずっと歴史小説を避けてきたんですけどね〜。何事もやってみなければわからないので挑戦してみました。
続きの記事もいくつあるかわかりませんが、お楽しみに!

2008/6/1(日) 午後 11:29 大三元

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>こーりゃさん:おっしゃる通り幕末には英傑が多いですね。でもこの作品には他の英傑との違いは結構書かれているので、客観的な人物評価の違いはわかりやすいです。むしろわかりにくいのは竜馬の本心ですね。司馬遼太郎もそこに苦心していたようです。

2008/6/1(日) 午後 11:35 大三元

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>ぼやっとさん:ぼやっとさんも読まれたことがおありですか。やはりこれだけ有名になると読んでいない私のような読書家の方が少ないんでしょうね。
竜馬は文字通り規格外だったんだと思います。だからこそ描き方も茫洋となってしまうのかな、とも思いますが。これからどんな成長を見せるのか、楽しみです。

2008/6/1(日) 午後 11:41 大三元

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>すてさん:遅くなりましたが、やっと読み始めることができました。今勝海舟との運命的な出会いを果たしたところです。中岡慎太郎や桂小五郎の活躍はまだまだこれからですね。
今までの登場人物で私が特に気に入ったのは、竜馬に船の乗り方を教えた船頭・七蔵です。かなりマニアックですが(笑)。竜馬ほどの大人物の運命を変えたのがそういう市井の職人さんだったことに、胸が熱くなりました。

2008/6/1(日) 午後 11:50 大三元

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竜馬を描いた作品は結構読みましたが、やはりこの作品の竜馬が一番魅力があり、司馬先生の力量を再認識しました。
最後はは泣けますよ(笑)

2008/6/5(木) 午前 4:25 CAVE

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>CAVEさん:今、竜馬の人生の歯車も歴史のうねりも動き始めたところです。これからの竜馬の成長が楽しみです。

2008/6/6(金) 午前 0:16 大三元

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こんばんは!始めまして、貴方様のブログ、ご立派で、これから勉強させて戴きたく存じます。
幕末から近代へと活躍した人達の時代小説には、その資料も豊富に現存しており作品化しやすいきらいがあるように思いますし、あの時代の醍醐味は、庶民感覚をどう表現するにあるのではないでしょうか。ただそれをどのように料理していくかは作者の腕次第。司馬遼太郎(先生)さんは読ませる筆力のある方ですね。
今後とも宜しくご指導程、お願い申しあげます。

2008/6/8(日) 午前 3:18 [ 和紙戯 宙 ]

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>和紙戯 宙さん:初めまして、ご訪問&コメントありがとうございます。私はまだまだ司馬遼太郎初心者ですので、こちらこそ色々と教えて下さい。よろしくお願いします。

2008/6/8(日) 午前 7:17 大三元

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大三元さんの記事読んで、私も「燃えよ剣」を読もうかなと思っています。
「竜馬がゆく」は、5年前に没頭して読んだ思い出があります。
竜馬のセリフで好きな文句あったんですが、忘れました。
6巻目か7巻目に。
今は、「翔ぶが如く」を読んでいます。
傑作!
ところで前にE.H.カーの「歴史とは何か」にコメント書いた記憶があるんですが、私の記憶違いか…

2008/6/8(日) 午後 10:52 [ nagata ]

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>りゅうぜいさん:私の記事から新しい本に手を伸ばしていただけるのは、この上なく嬉しいです。ありがとうございます。竜馬の好きな台詞、思い出したらまた教えて下さい!
『翔ぶが如く』、私も次の課題に控えています。面白いですか?
それと『歴史とは何か』ですが、たぶんmepoさんの記事だと思います。実際りゅうぜいさんのコメントもありますよ。

2008/6/15(日) 午後 6:39 大三元

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とうとう「竜馬が行く」ですね^^「本心が読めない」という大三元さんのご指摘に読んだ時の事を鮮明に思い出しました。その底知れなさと途方もない人物の大きさにえらい惹かれた記憶が…。
書評の続きを楽しみにしています〜♪

2008/6/25(水) 午前 1:46 ang*1jp

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>あんごさん:そうなんです。底が知れないんです。まだ完読ではないのですが、まだまだわかりません。読み終わってもわからないのかもしれません。司馬もどこか雲をつかむような感触で書いている部分があって…。そこがまた魅力なんでしょうか。

2008/6/26(木) 午前 0:38 大三元

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あ〜、やっと大三元さんの書評が読めます。まだ1と2だけですけど(笑)。
「こういうのを人物と言うのかもしれない。……」のくだりは、とても印象に残っています。司馬氏が描く人物は、みな人間的な魅力にあふれているのでしょうか。まだ「最後の将軍」と「坂の上の雲」しか読んでいませんが、歴史上の人物なのに共感を覚えてしまうのは、それだけ人物を描くのが上手なのでしょうね。「燃えよ剣」もありましたか。私は次の作品は「世に棲む日々」にしようと思っています。

2008/9/26(金) 午後 10:58 mepo

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>mepoさん:お〜、ついにmepoさんも読まれたのですか!感想もアップされているのでしょうか?
司馬作品の人物が魅力に溢れているのは、彼の文章力のせいもあるでしょうが、何と言っても司馬自身がその人物に惚れ込んでいるかどうかが決定的だと思います。慶喜なんかは、司馬はその欠点をも魅力に感じていたのではないかと思われる節がありますよね。
『世に棲む日々』って、吉田松陰の話でしたっけ。私は時代を下って『菜の花の沖』〜『翔ぶが如く』〜『坂の上の雲』と読むつもりですので、それからになっちゃうかもしれません。

2008/9/27(土) 午後 8:34 大三元


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