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書評 歴史小説

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書評124 司馬遼太郎

『竜馬がゆく』その2

(文春文庫[新装版]、1998年)全8巻

書評122:『竜馬がゆく』その1に続き、2回目の書評。今回は第3〜4巻までを扱います。


【著者紹介】
しば・りょうたろう (1923─1996年) 作家。
大阪生れ、大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960年『梟の城』で直木賞を受賞し、以後歴史小説を一新する話題作を続々と発表。“司馬史観”とよばれる自在で明晰な歴史の見方が絶大な信頼をあつめる。1991年文化功労者、1993年文化勲章を受章。
他に『国盗り物語』『竜馬がゆく』で菊池寛賞、『殉死』で毎日芸術賞、『世に棲む日日』で吉川英治文学賞、『ひとびとの跫音』で読売文学賞小説賞、1986年『ロシアについて』で読売文学賞随筆紀行賞を受賞。
本ブログで取り上げた作品に書評106:『燃えよ剣』がある。


【本書の内容】
志士たちで船隊を操り、大いに交易をやり、時いたらば倒幕のための海軍にする―竜馬の志士活動の発想は奇異であり、ホラ吹きといわれた。世の中はそんな竜馬の迂遠さを嘲うように騒然としている。反動の時代―長州の没落、薩摩の保守化、土佐の勤王政権も瓦解した。が、竜馬はついに一隻の軍艦を手に入れたのであった。(文春文庫版第4巻カバーより)


【本書の感想】

<勝海舟との出会い>
第3〜4巻最大のハイライトは、何と言っても竜馬と勝海舟の出会いだろう。
たぎるエネルギーを何に向けていいかわからなかった竜馬に、勝は世界の情勢を説き、竜馬に「船」という夢を追いかける足がかりを作った。

特に勝が竜馬に仕込んだ欧米の知識は相当なもので、何とイタリア統一運動のガリバルディやカヴールのことまで話していたようである。
竜馬はその知識を、狂信的攘夷主義に染まっている志士たちにこんこんと教え諭した。

「ガルバルジも、また米国を興したワシントンも、家康ではないぞ。国家を自家の所有物にしようという考えはないぞ。坂本竜馬は、日本のワシントンになるんじゃ。お前らもそうなれ。みんなでそうならぬと、日本はつぶれるわい」(第3巻、283項)

誰もが各々の藩の財政や名誉に汲々としている江戸時代にあって、竜馬は故郷である土佐を脱藩し、初めて“日本人”という感覚で物事を考えるようになった。それは危機の時代に対する嗅覚のなした業にも思える。
またガリバルディびいきの私としては、こんなところで明治維新にイタリア統一史が影響を与えていたと知り、ちょっと意外でもあり嬉しかった。


もう一点、勝海舟との出会いは竜馬に「船」という夢を掴ませたという意味でも決定的であった。

船。
これのみが、生涯の念願である。船を持ち軍艦を持ち、艦隊を組み、そしてその威力を背景に、幕府を倒して日本に統一国家を作り上げるのだ。(第3巻、296項)

船への情熱が芽生えたのは、竜馬が初めて土佐から江戸に出る時だった。しかし勝と出会わなければ、それはただの夢想で終わっていただろう。一脱藩浪士の夢想は、やがて私設海軍・海援隊へと結実することになるが、それはまた後の話。


<竜馬は女を幸せにできたか?>
竜馬はどうも一人の女性に惚れ込むということがなくて、3人の女性を好いた。土佐の名家の娘お田鶴さま、千葉道場の長女さな子、京で出会った町娘おりょうである。

竜馬が自分を“狩猟型”と規定し、家庭を幸せにするタイプではないと自己分析していたことは前回の書評で書いた(書評122:『竜馬がゆく』その1)。しかし3人ともそれぞれ好きで、竜馬が嫌いとも言わないものだから始末が悪い。

さな子に至っては結婚してくれねば自害する、とまで迫ったのだから相当の覚悟だったはずである。それに対し竜馬は、天下の志士はいつ死ぬとも知れぬから結婚はできないが、「感激のシルシ」だと言って片袖をちぎってさな子に渡した。それをさな子が「事情あってすぐさま夫婦にはなれぬが気持ちだけは互いに通じ合ったシルシだと解した」(第4巻、382項)のだそうだ。これほど可笑しな、幸福なすれ違いも珍しい。さな子は後年まで自分は「坂本竜馬の許婚です」と言い続けたという。

竜馬も罪な男である。


<おわりに>
その他雑感。

以前「不平等条約を追体験する」という駄文で、現代日本のビジネスマンが直面する課題は、幕末期の列強が日本のサムライに感じた恐怖と酷似しているのではないか、と書いたが、本書を読んで、ますます私はその意を強くした。
司馬は攘夷志士たちの凄まじい殺気が日本を植民地化から救った点も指摘しているが(第3巻、136項以下)、それも頷ける。競って外国人を斬りつけるような国民がいる国で、商売などできるはずがない。
現代の途上国で異人斬りはないにしても、グローバル化が云々されて久しい現代でも同じような拒否反応は起こりうる。今やっと「開国」し始めた国家もたくさんあるのだ(書評105:『途上国のグローバリゼーション』参照)。


感じたことを雑多に並べてきたが、本編はいよいよ竜馬が軍艦を手に入れ、これから台風の目にならんとしているところだ。
まだまだ半分。山場はこれからである。

閉じる コメント(10)

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当時は植民地化と背中合わせだったので、両陣営も外国の介入には注意を払ったでしょうね。

2008/6/20(金) 午後 8:26 CAVE

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とうとう、りょうさんが勝せんせいに会ったところまできましたか。
司馬遼太郎は、絶対勝せんせいが大好きだったと思うんです。描き方に愛を感じます。

2008/6/20(金) 午後 11:20 miffy_toe

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>CAVEさん:しかし、植民地化を避けるために何をすべきかということまで考えが及んでいた日本人は少なかったように思います(まさに司馬が竜馬をその数少ない一人として描いたように)。異国に対する生理的な拒否反応はそれほど強かったのでしょうね。

2008/6/22(日) 午後 8:48 大三元

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>すてさん:そうですね、『竜馬』の中の勝は人間的魅力で溢れています。しれっと竜馬に倒幕を促すあたり、並の人間じゃないと思いました。

2008/6/22(日) 午後 8:50 大三元

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なるほど、友人が某書展に奇抜な作品を持ち込み、大先生(N姓は竜馬と関係があるのか?)のO.Kが出た筈…。でも、女性に救いが欲しいな(・・;)

2008/6/23(月) 午前 0:59 [ ESC ]

私はこの本を、「志士活動の発想は奇異であり、ホラ吹きといわれた」竜馬の革命的な進取性と、信長のそれを重ね合わせながら読み進めました。そして時代を切り開く人たちに共通する、同時代人から見ると「狂人的なおかしさ、面白さ」に写る進取性の資質を学びました。

2008/6/23(月) 午前 11:01 Mine

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>chi*c*im*oveさん:初めまして、コメントありがとうございます。

そんなエピソードがあったんですか?
…と言いつつ、N姓のことがよくわかりません…(笑)。

2008/6/26(木) 午前 0:33 大三元

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>Mineさん:そうですね、竜馬も進取性にかけてはピカイチでしたからね。型にはまらないところもちょっと信長とかぶります。でも竜馬が信長と決定的に違うのは、人になつかれる人間性だったでしょうね。

2008/6/26(木) 午前 0:36 大三元

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勝海舟との出会いで、やっと物語が動いてくる感じですね。特に4巻は、竜馬にかんしては軍艦を手に入れるというぐらいで、長州やら半平太やらのお話が多かったように思います。これらの伏線が、クライマックスにつながっていくのでしょうね。後半四巻が楽しみです♪こちらの記事にTBさせていただきますね。

2008/9/26(金) 午後 11:01 mepo

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>mepoさん:トラバありがとうございました。『竜馬』はもちろん竜馬を中心に物語が進んでいくのですが、脇役たちもそれぞれキャラが立っていていいですよね。いずれ脇役特集(?)の記事を書くつもりです。すてさんは勝海舟、中岡慎太郎、桂小五郎なのだとか。mepoさんもお気に入りのキャラ、できましたか?

2008/9/27(土) 午後 8:41 大三元

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