読書のあしあと

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書評2 ジョージ・F・ケナン

『アメリカ外交50年』

(岩波現代文庫、2000年)



先日、ケナンが亡くなった。享年101歳だったが、最後までイラクなど国際問題に対する関心を失わず、精力的に発言してきた。色々なところで特集が組まれていたりするが、この機会にケナンの最も有名な著作である本書の内容を改めて読み返してみたい。


【本書の内容】
本書は1950年にシカゴ大学で行った、アメリカ外交史の連続講演(第一部)、かの有名な「X論文」を含む二つの‘Foreign Affairs’掲載論文(第二部)、第一部収録の講演を振り返って再び行った講演(第三部)で構成される。「X論文」は言うまでもなく重要な論文であるが、今回はアメリカ外交あるいは国際政治一般をケナンがどう考えていたのかを考えるために第一・三部に焦点を当てて感想を述べる。

お薦め度:★★★★☆

【本書の感想】

<米西戦争に見るアメリカ外交>
米西戦争は今までしっかりと考えたことはなかったが、ケナンの指摘は非常に面白い。本書のエッセンスのほとんどが米西戦争の章に既に出てしまっているのではないかと思うほど、その記述は濃密であるので、少々詳しく見ていきたい。
ケナンは、米西戦争は不必要な戦争であったという。なぜこんな戦争をやってしまったかというと、当時のアメリカ人たちが、その安全は多くの歴史を通じてイギリスの地位に依存してきたこと、そのイギリスの地位はヨーロッパの勢力均衡に依存していたことを忘れてしまったからである。

彼らはあまりにも安全な地位に慣れすぎていたため、それがアメリカ大陸以外のものになんらかのかたちで依存していることなど忘れてしまった。(7項)

それだけではない。当時、それほどアメリカの安全は危機にさらされていなかったのに、キューバにおける暴虐と惨状にアメリカの世論は憤激を覚えたのだった。さらに、当時の政策決定者の間では帝国主義的考えが広まり始めていた。一方で、開戦の契機となったメイン号事件にしても、スペイン外交官の無分別にしても、それだけでは開戦の理由にはなりえなかった。ケナンの結論はこうである。

開戦および軍事行動の性格の決定などを左右した諸般の理由に対して、厳粛かつ慎重な考慮が払われず、国家的利益について細心かつ系統的な評価が充分行われなかったということである。(28項)

ここに見られるように、ケナンは軍事力については極度に慎重である。軍事力は使わないことに越したことはないし、実際使うとなれば「厳粛かつ慎重な考慮」と「国家的利益について細心かつ系統的な評価」が必要だとする。核兵器による安全保障戦略に対する反論や、「X論文」において提起した軍事的ではなくて政治経済的な「封じ込め政策」でもそうだった。当たり前のことだが、あまり論じられることのない米西戦争からもこういった教訓が得られるのは非常に面白く感じた。


<法律家的・道徳的アプローチ>
ケナンがアメリカ外交には伝統的に「法律家的・道徳的アプローチ」存在すると指摘し、それを批判したのは有名である。本書では具体的に門戸開放主義が例に挙げられ、それが政策としては全く効果がなかったこと、にもかかわらず国内では賞賛の的になっていること、時にはそういった国内からの圧力があるために政治指導者も道徳的な宣言を掲げて外交に臨む場合もあることなどが指摘される。

この「法律家的・道徳的アプローチ」というのは米西戦争の場合のように、政治の現実を分析する場合に目を曇らせてしまう場合が多い。一方で、村上泰亮が指摘するように、20世紀のパクス・アメリカーナを支えたのはアメリカの軍事力・経済力もさることながら、それ以上にその理念の力だったという側面もある(『反古典の政治経済学』上)。また、人道的介入などの場合、アメリカが「法律家的・道徳的アプローチ」を捨てて介入に消極的になってしまうと有効な介入が不可能になる惧れがある(田中明彦『ワード・ポリティクス』など)。実際、ケナン自身も本書の「1985年版への序文」でこう述べている。

最近の何年か、実際に私の周囲に見出す以上に、何が適法であるかというわれわれの観念にもう少し多くの道徳性があり、何が道徳的であるかというわれわれの観念に適法性に対するもう少し多くの配慮があればと思うことが多くなった。(「1985年版への序文」項)

つまるところ、「法律家的・道徳的アプローチ」というのもバランスであって、それを欠いてしまうのも人間的な秩序を形成することができないということなのだろう。


<おわりに>
古典と言われるだけあって、色々示唆に富む記述が多かった。ケナンの著作の邦訳は回顧録以外には本書の他に『レーニン、スターリンと西方世界―現代国際政治の史的分析』があるが、アメリカ外交や国際政治一般の多くの著作が訳されていないのが残念である。第一次・二次大戦の部分の記述はよく聞くもので、それほど新鮮でもなかったので、この時期についてケナンのより詳細な見解を知りたいと思った。

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