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裁判員制度の政治思想

裁判員制度の政治思想

今、木村晋介監修『激論!「裁判員」問題』(朝日新書、2007年)を読んでいる。5月に始まる裁判員制度を前に、そのメリット・デメリットを知っておきたいという程度の軽い動機で読み始めたのだが、読み進むうちにもっと深刻な思想的問題にぶち当たった。

詳しい書評は後々書くとしても、まず裁判員制度を云々する前の思想的前提は書いておかねばならないと思った。


それは、裁判員制度を支える「国民の意思」の問題である。
かつて19世紀アメリカを訪れた思想家トクヴィルは、アメリカのデモクラシーを支える制度として、地方自治、アソシエーションとともに陪審制を挙げた。アメリカでは国政以外でもそういった回路を通じて個人が社会にコミットしていけるし、またそれがデモクラシーを育む「学校」になっているというのである。

日本における国民の司法参加は、そのような効果をもたらすのだろうか。5月から、裁判員を務めることは国民の義務となる。それは職業裁判官に司法を任せきりにせず、国民一人ひとりの手で社会的正義を達成するためのものである。裁判員制度に賛成派の弁護士・高野隆はこう述べている。

「自由や秩序はわれわれにとってかけがえのないものです。これを裁判官という専門家だけに任せておくのは危険すぎます。『われわれがこの国をつくる。われわれ自身がそのコストを払うのだ』という覚悟を持つべきです。そういう覚悟を持つ大きなきっかけが裁判員制度なのです」(『激論!「裁判員」問題』、128項)

建前からすればごもっともだ。国民にそれだけの責任感があればとてもいい国家になるだろう。
しかし現実はどうだろうか。それだけの合意が日本人にあるのだろうか。裁判員制度の導入にあたって、司法を支えようという「国民の意思」は議論されたのだろうか。
この問題は憲法改正と同じ構造を持つ。自衛権を認め「普通の国」になるということは、原理から言えば徴兵制のコストを払うということである。憲法改正論者の思惑に反して、残念ながら今の日本人にそれだけの覚悟はない。

安全保障であれ「法の支配」であれ、そういう公共を支えるという意思が日本人には蓄積されていない。
もっとも、「裁判員制度を導入することで公共の精神を育てる」という強引なトクヴィル解釈もありうるけれども、そんな荒療治的政策は国民がさらに納得しないだろう。

閉じる コメント(9)

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はじめまして!
私は洞察力がありませんが、普段からイデオロギーに対する「日本人の意識」について疑問をもっています。
今回の「裁判員制度」に対する考え方で・・「国民にそれだけの責任感があれば・・」という考え方に同感です。
「日本人は真実を見極められるのか?本当に罪を裁けるのか?」という疑問があるからです。

2009/3/15(日) 午後 1:52 [ ケビン ]

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昔から私は「西欧民主主義のルールをそのまま日本にもってくるのは何か間違っている気がする」と言っていました。理論的裏付けをするほどの知識はありませんが、ずっとそう思っていました。それを誰彼なしにぶつけたけど私の考えをひっくり返す説明をしてくれた人がありません。

2009/3/15(日) 午後 2:08 [ kohrya ]

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裁判員制度を始める理由として、裁判に民意を反映させる・裁判への関心が高める、などと基本的に言われていますが、正直不安ですね。
民意、つまり国民の一般常識を反映させるものだと考えると、法知識はいりませんが、裁判官がその事件に近い事件を具体的に提示する際の公平性も、黙秘義務に対する取り組みも、まだまだだと思います。
関心が高まらないことも、世論調査での意欲の低さでわかることですし。
完璧な状態で新たな取り組みが始まることなんてないでしょうが、どうも目的は達成できないと思います。
まだ、○○の予算が減るとかのほうが素直でいいです。

2009/3/15(日) 午後 3:08 [ 兼清俊太郎(猿脳) ]

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>スマイルさん:初めまして、ご訪問&コメントありがとうございました。司法に無関心な国民性がいけないのも理解できますが、日本社会の成熟度はまだ司法への国民参加ができる程ではないと思っています。こんな状態で裁判員制度を導入しても果たしていくのかどうか…。しかし実際始まってしまうわけで、始まる以上は何とかしないといけないですね。

2009/3/16(月) 午前 1:24 大三元

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>こーりゃさん:日本人も同じ人間ですし、一応は近代民主主義社会に達しているわけですから、安易な日本特殊論は無意味だと思います。しかしそれにしても、色々と問題の多い制度であることは間違いないですね。

2009/3/16(月) 午前 1:26 大三元

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>内緒さん:特に裁判員制度については、議論が煮え切らないまま導入されてしまった感じが強いですね。国民にこれだけの負担を求める制度なのに、国民の側もそれほど関心を示さなかったのが不思議といえば不思議です。
国民の意思が反映されないまま様々な事が決められていくのはよくないことでしょうけれど、国民の側からももっと声をあげ、意見を反映させようとするべきでしょうね。

2009/3/16(月) 午前 1:32 大三元

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>猿脳さん:おっしゃる通りですね。ちょっと拙速というか、見切り発車的な感じは否めませんね。司法制度改革はその柱の一つである法曹人員の増加については早くも見直しの動きがあります。裁判員制度も戦前の陪審制のように、数年間やってそのうち中止、というお粗末なことにならなければいいのですが。

2009/3/16(月) 午前 1:35 大三元

今のところ様子見、といったスタンスです。というのも国民の関心は経験者が増えるにしたがって増えると思うし、なにより専門バカの揃った司法制度に風が入ることはいいことではないかと、楽観して期待しています^^;信じられないほどの純粋培養で育ってきた裁判官の中には非常識で偏った判決を連発する困ったチャンが多くなってきました。せめてふつうの人の感覚で決定をくだしてほしいですね。

2009/3/16(月) 午後 4:52 しろねこ

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>しろねこさん:おっしゃる通り、「専門バカの揃った司法制度に風が入ることはいいことではないか」というのが今回の裁判員制度導入の最大の理由のようです。一見単純ですが、それだけに説得力のある論理だと思います。もっとも、賛成派からしても改善点は多々あるようなのですが、とりあえずは新制度をより中身のあるものにしていくため努力するしかないでしょうね。

2009/3/18(水) 午前 1:10 大三元

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