読書のあしあと

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書評156 木村晋介監修

『激論!「裁判員」問題』

(朝日新書、2007年)

今年5月から始まる裁判員制度について、正直他人事のようにしか思っていなかったが、裁判員に選ばれる確率を耳にすると意外に馬鹿にできないことに気づいた。
実際に選ばれたらどうすればよいのか、そもそもどういう意図で作られた制度なのか、どういうメリット・デメリットがあるのか、わかり易く説明した入門書は少ない。特にその是非となると感情的な議論が多く、どうも信頼できる議論が見当たらない。
そこで裁判員制度に賛成・反対の論者を真っ向から対論させた本書を手に取ってみた。


【著者紹介】
きむら・しんすけ (1945年─) 弁護士。木村晋介法律事務所所長。
1967年中央大学卒、70年に弁護士開業。消費者問題、犯罪被害者救済、プライバシー問題などにかかわり、著作やテレビ・ラジオ出演など幅広く活動。カンボジアの弁護士養成にも携わる。


【目次】
第1部 なにが問題か
 裁判員制度とは
 賛成派の主張
 反対派の主張
第2部 激論、裁判員!
 市民生活と裁判員
 あなたが裁判員に選ばれたら
 日本の裁判はどう変わる
キムラ弁護士の補足意見


【本書の内容】
休んだ仕事を気にしながら延々と証言を聞かされるのか。官の暴走にストップをかけ、正義を実現するのか。体験を話してはいけないのか。そもそも辞退できるのか。裁判官の誘導に乗らないコツはあるのか…。賛成派も反対派も納得、徹底討論でズバリ解説。あなたが知りたかった、裁判員のホントのところ。(朝日新書カバーより)


お薦め度:★★★☆☆

【本書の感想】

<全体の感想>
期待通りの本だった。
まず第一部で裁判員制度の基礎知識の概論が提示され、次に裁判員制度に賛否それぞれの立場から、賛成派の高野隆(弁護士)と反対派の西野喜一(新潟大大学院教授)による基本的な立論がある。そして第二部で弁護士・木村晋介の司会のもと、この二人が主要な論点について議論する、という構成。
裁判員制度の基礎知識や長所・短所まで賛否両方の立場から論じられており、裁判員制度を立体的に理解できる。
以下、主要な論点について私自身の見解も交えながら要約していきたい。


<裁判員の負担は正等か>
裁判員に選ばれた国民は、仕事やプライベートに関わらず数ヶ月間の裁判に付き合わされ、しかも有罪・無罪の判定、量刑判断を求められることになる。ここでは〃法上規定された良心・思想の自由に対する侵害には当たらないのか、違憲ではないにせよこれだけの負担に値する制度なのか、という点が問われよう。

^齋性の問題については、賛成派の高野は有罪・無罪の合理性を判断してもらうだけなのだから違憲にはならないと主張するが、そもそも「他人を裁きたくない」という信条を持つ人にどう答えるのか、説得力に欠けるように思う(141─142項)。また裁判官と裁判員、合計9人の前で、被告人や証人がプレッシャーを感じずにありのままを証言できるかどうかも懸念される(特に強姦などの場合)。この点も賛成派と反対派の見解は平行線である(192─193項)。
負担の問題に関しても高野は楽観的であり、裁判の迅速性と正確性を高めることに努めれば問題はないという。私はどちらかといえば懐疑派。ただ、辞退条件の緩和については両者意見が一致している。


<「公正な裁判」を求めて>
裁判員制度導入にあたって、マスコミの影響も懸念されている。裁判員は職業裁判官よりマスコミの影響を受けやすいため公正な裁判ができないのではないか、というのが一般的な見解だろう。だが高野はむしろその逆で、自分が扱った裁判の評価を後々まで気にしなければならない職業裁判官の方がマスコミの反応を気にしていると言う(81項)。
実際映画『それでもボクはやってない』では、被告人に有利な裁定を進める裁判官が左遷させられるシーンがある。プロとして裁判所に留まらなければならない立場故の難しさもあるだろう。
マスコミの影響については、実際のところはやってみないとわからない、というのが私の実感。


そもそも裁判員制度導入の大きな背景に、官僚的な裁判所に対して世間の“常識”を持ち込もうという空気があった。ただしそれは逆に言えば、社会で一貫した正義を体現するべき司法の領域に、移ろいやすい大衆の感情が侵入するということでもある。
そこでは、牽制し合うべき法と政治が絡み合う。本来司法は、その時の暫定的な国民の意思を代表する立法府の暴走に歯止めをかけるべき権力である。他方で民主政治は一度誤っても修正できる、その暫定的な性格に真骨頂がある。今回の裁判員制度の導入は、日本社会の「法と政治」の関係にも変化をもたらすことになろう。
(なお、このあたりの問題については以前記事にしたことがある。「裁判員制度の政治思想」参照。)


<おわりに>
全体としては、賛成派の高野弁護士にやや感情的な発言が目立つ(「日本の裁判官は世界一有罪好きだ」的な)。長年弁護に携わってきた当事者の実感だけに、当然尊重すべき意見の一つだとは思う。実際『それでもボクはやってない』のような事は今もどこかで起きているのだし。

しかし西野教授の言うように、だから裁判員制度導入、というのは一足も二足も飛び過ぎているような気がする。いずれにせよ5月の導入以降、よりベターな形を求めて修正していくことになりそうだ。
 

閉じる コメント(5)

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個人的には興味ある本ですね。買って読んでみます。

裁判員制度とはちょっと違うのかもしれませんが・・

私は過去に人を裁いたことがあります。会社の就業規則に沿って・・

「業務怠慢・放棄」「横領」が理由でした。
数回の注意・2度の謹慎処分(一度は自宅待機)を課したにもかかわらず更正が見られませんでした。

「懲戒解雇」に相当する事案でしたが「諭旨解雇(退職金の減額)」の裁定をしました。そこに至る経緯では労働組合(企業内組合)の意見を取り入れました。
幼い子供を持つ人間であった事と次なる就職活動に支障が無いようにという配慮です。

極刑、禁固刑や罰金刑などに対しても必ず減刑(情状酌量)を求める声が出てきます。
問われる「罪」が「社会悪」だとしても、極刑に相当する裁定を下すのは辛く・難しい事でしょうね。

2009/4/12(日) 午前 11:59 [ ケビン ]

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裁判員制度については、なにがなんだか分からないうちに決まっちゃった、というのが正直なところです^^;。この本を読めば少しは事情が分かるかな?
監修の木村さんのファンなので、ちょっと読む気になっています^^;。

2009/4/13(月) 午前 8:09 Cutty

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>内緒さん:裁判員問題については、メディアも扱いが小さすぎたし、国民も関心がなさすぎたと思います。司法への国民参加にはメリットもあるのですが、そこらへんがまともに理解されずに負担感だけ高まって数年後に廃止…というシナリオが見えてきてしまいます。
とはいえ、5月からは私たちも当事者になることを覚悟せねばなりませんね。

2009/4/16(木) 午後 10:52 大三元

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>Smile(スマイル)さん:そんな経験をお持ちですか、辛いというか、苦しいというか、複雑なご心境だったのでしょうね。
私も一時期法曹を目指そうかと思ったこともありましたが、結局人を裁く立場になることに自信を持てませんでした。
極端な話、死刑という判断を下す裁判員には、「自分は死刑を宣告した」という事実を一生胸に抱え込んで生きていかねばならないはずです。それに耐えられない人に対し、「それも社会の一員としての仕事なのだ」と説得できるだけの論理を、裁判員制度は持っているでしょうか…。

2009/4/16(木) 午後 11:03 大三元

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>Cuttyさん:私も正直今まで無関心だったのですが、現行の裁判員選定率で行くと、誰もが少なくとも一生に一度は経験する確率のようです。他人事ではありませんね。
木村弁護士は、この本では司会役に徹しながらもうまく自分の意見を織り交ぜていたように思います。読み易くてコンパクトなので、立ち読みでも手にとってみてはどうでしょう?

2009/4/16(木) 午後 11:06 大三元


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