読書のあしあと

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書評160 大内伸哉

『雇用はなぜ壊れたのか──会社の論理vs. 労働者の論理』

(ちくま新書、2009年)

以前書評91:『経済学的思考のセンス』を取り上げた大竹文雄が薦めていたので読んでみる。
筑摩はこういう新書を出すのがうまい。


【著者紹介】
おおうち・しんや (1963年─) 神戸大学法学部教授。専攻は労働法。
1995年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。ミラノ国立大学留学、神戸大学法学部助教授などを経て現職。
主著に『労働者代表法制に関する研究』(有斐閣、2007年)、『雇用社会の25の疑問』(弘文堂、2007年)など。


【目次】
法と道徳―社内不倫はイケないこと?
男と女―女だって働きたいの
仕事と余暇―男だって休みたい
敵対と協調―ユニオンって何をしてくれるの?
エリートとノン・エリート―たかが学歴、されど学歴
会社人と職業人―君は仕事のプロになれるか?
「使える」社員と「使えない」社員―クビになるのは誰?
アメとムチ―人を働かせる秘訣
ベテランと新人―世代間戦争の行方は?
正社員と非正社員―政府のやるべきことは何?
雇用と自営―本当の自由とは?


【本書の内容】
会社では毎日のようにトラブルが起きている。セクハラ、長時間残業、内定取消、期間工の解雇、正社員リストラ――。こうした問題が生じる背景には、「労働」そのものの激変が横たわる。それだけに、根本的な解決は一筋縄ではいかない。本書では、会社と労働者の対立軸をシャープに浮き上がらせ、労働法学の考え方を導きとしながら、雇用社会の根本にある11のテーマについて考えなおす。誰もが「働ける」社会をつくるために、新たなルールを模索する。(「BOOK」データベースより)


お薦め度:★★★☆☆

【本書の感想】

<全体の感想>
平易な労働法入門といった印象。雇用関係をめぐる会社と労働者の言い分を具体的な事例に即して説明し、それを調停するルールとしての労働法の考え方を解説している。
その意味で言えば、本書のタイトルの「雇用はなぜ壊れたのか」という問いは全くマッチしていない。むしろサブタイトルの「会社の論理vs. 労働者の論理」の方が内容をよく表している。

叙述の平易さは評価できるが、内容は労働法の基本的な論点を扱っており、それほど目新しさはない。
著者の明確な主張があるわけでもないので、若干間延びする印象はあるものの、一つ面白い視点があってので書き残しておく。


<「労働者」と「生活者」>
第3章「仕事と余暇」では、長時間労働をめぐる会社の論理と労働者の論理が紹介される。
日本人はその勤勉性のためか、残業が極端に多いと言われる。サービス残業も珍しいことではなく、一人平均で約29時間/月のサービス残業が行われているという統計もある。しかしこれを本当に“勤勉性”で説明できるのだろうか。

会社としては社員に勤勉に働いてもらわなければ困るが、残業が多すぎてもコストばかりかさんでしまう(=会社の論理)。他方、会社の都合で残業させられた対価はきちんともらいたいというのが労働者の論理である。ここでは、労働法は労働者に軍配を上げているが、現実には日本は残業社会だ。なぜか。
著者によれば、そこには「会社の論理」「労働者の論理」のほかに「生活者の論理」が働いているからだという。日本では欧米と比べてもトップクラスの社会インフラ、充実したサービスが揃っているが、それはサービスを提供する労働者がいて初めて成り立つ。日本人は労働者の論理より生活者の論理を優先させ、暮らしやすい社会をつくってきたのである。

「お客様は神様」的な日本人気質も影響しているのかもしれないが、この「生活者の論理」というのは大切な視点だ。
ワークライフ・バランスが叫ばれて久しいが、高いクオリティの生活を失うことなく労働時間を減らせるのか、社会全体で見ると案外単純ではないことがわかる。

このあたりの視点を掘り下げればもう少し面白くなったと感じた。
 

閉じる コメント(8)

これは興味のある分野ですね〜(^^)
あつぴもぜひ読んでみようと思います!

2009/5/25(月) 午前 10:09 ビール大好きあつぴ 返信する

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私は最近「日本はあまりにも短期間で成熟社会を形成した国なんだ」とつくづく思います。これは擬似的な成熟社会だったのかと・・
産業形態、労働形態、労働条件、インフラ等は確かに整備され生活様式も豊かになったはずですが・・
しかし今、その成熟した社会も閉塞感が漂っている。
今、私には先が読めない世の中です。
私個人は「明るく・楽しく・美しく」生きていこうと思ってますけどね・・。

2009/5/25(月) 午後 6:03 [ ケビン ] 返信する

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>あつぴさん:労働法の解り易い入門書というのはあまりないので、そういう意味では手にとってみるのもいいかもしれません。内容はごくオーソドックスなので、これをステップに次に進みたいですね。

2009/5/26(火) 午前 0:49 大三元 返信する

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>スマイルさん:たしかに閉塞感は漂っていると思いますが、それも比較の問題で、ヨーロッパの方がもっと重苦しいし、日本の方が日常生活もはるかに暮らし易いと思います。もっとも、これがベストだとは思いませんが…。
「明るく・楽しく・美しく」、素晴らしいですね。私もそんな人生を送りたいものです。

2009/5/26(火) 午前 1:01 大三元 返信する

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「明るく、楽しく、美しく」は理想ですね、夢ですね。
だからそう生きられるように、様々な努力をしていかなければ!周りに働きかけ、自分も周りも少しずつ良くなっていくように・・・障害や軋轢がたくさんありますね、それでも
夢を持って生きられるだけの根気と体力を維持できたらと
願います。

2009/5/28(木) 午前 9:56 [ pilopilo3658 ] 返信する

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>あおちゃんさん:おっしゃる通りです。言うは易く、行うは難い事が世の中には沢山ありますが、これはその典型例でしょうね。周りの人が如何に楽しく生きられるのか?最近そればかり考えています。

2009/6/1(月) 午前 0:35 大三元 返信する

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「生活者の論理」って面白いです。なるほど〜と思いました。宅急便は指定時間に来てくれるし、今朝とりたての産直野菜が都会で手に入るし、日本はそういうサービスはすごいですよね。でも、それらは結局労働者の長時間労働につながっているんですね。
いつだったか、NHKで長崎の長距離トラックの会社を特集していました。長距離は仕方がないにしても時間短縮、速度制限、荷おろしまでやらなくちゃいけない、「生まれ変わったら、長距離トラックの運転手はやらない」って言っていました。

2009/6/9(火) 午後 5:30 mepo 返信する

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>mepoさん:そうそう、宅急便の例は本書でも取り上げられていました。トラック運転手やバイク便だけでなく、インフラ関係の職業については概ね共通する問題ではないでしょうか。
日本はヨーロッパに比べると、文化レベルは相対的に低い一方文明レベルはかなり高いと言えると思います。

2009/6/10(水) 午前 5:14 大三元 返信する

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