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そんな中、先般休刊した月刊誌『月刊現代』の編集長が、ありったけのノンフィクションへの情熱を注ぎ込んだ渾身の一冊が本書である。発売日から各所で話題になっているムック本であるが、なるほど執筆陣は豪華であり、特集も保存版と呼ぶに相応しい。 【著者紹介】 さとう・まさる (1960年─) 外交官、作家。 1985年同志社大学大学院神学研究科修了。同年外務省に入省、在露日本大使館、国際情報局分析第一課主任分析官等を歴任。2002年背任容疑で逮捕され有罪判決、現在最高裁に上告中。 『国家の罠──外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社、2005年)で毎日出版文化賞、『自壊する帝国』(新潮社、2006年)で新潮ドキュメント賞・大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。 【本書の内容】 ノンフィクションの逆襲が始まる──。一流の「書き手」でありプロの「読み手」でもある10人が、知的好奇心を刺激し、心を揺さぶる名品を1000冊厳選。佐藤優の深層レポート「封印された高橋洋一証言」なども掲載。 お薦め度:★★★☆☆ 【本書の感想】 <全体の感想> 佐藤優を責任編集に据え、ノンフィクションの可能性を追求した鼎談や思い出深いノンフィクションが綴られるエッセイなど、盛りだくさんの内容である。 中でも最も興味深いのは、加藤陽子、佐藤優、佐野眞一、魚住昭ら錚々たる面々が傑作ノンフィクションを100冊選んでいる、延べ1000冊のノンフィクション・リストだ。これは紹介し始めると長くなるので後日の記事に回すとして、今回は面白く読んだ対談やエッセイの内容を2つ紹介する。 藤原帰一「ボブ・ウッドワードの功罪──『信頼』の条件とは何か」 雨宮処凛、武田徹、中村うさぎ、野口悠紀雄ら著名人がお薦め作品について語る目玉企画の中で、藤原帰一のエッセイが目にとまった。 アメリカ・ノンフィクションの寵児ボブ・ウッドワードは、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ『大統領の陰謀』以来、数々の政治ドラマを著してきた。藤原帰一が問題視するのは、その報道の“揺らぎ”である。 イラク戦争に関してウッドワードの書いた本を読んで、疑問は深まるばかりだった。同時多発テロ後のブッシュ政権を描いた『ブッシュの戦争』では冷静沈着な大統領が、わずか2年後の『攻撃計画』では必要な情報に耳を閉ざす人物に変わり、『ブッシュのホワイトハウス』になると、現実から離れた妄想にとりつかれた愚か者になっている。アメリカも世界もブッシュをそう捉えていたといえばそれまでだけど、当時の「気分」によって同じ人が異なる色に染め上げられるのを見れば、染める人への疑問が浮かぶのは避けられないだろう。(169項) 藤原は、ウッドワードに欠けている「時流から離れた視点」こそ信頼に足るノンフィクションの条件だと述べている。 ごもっともなのだが、藤原自身も指摘するように、タイムリーな政治ノンフィクションでは情報ソースに気を配るのは常であり、だからこそウッドワードは父ブッシュ時代からの人脈(典型例はコリン・パウエル)を通じた政権舞台裏の描写が可能だったとも言えるだろう。その結果、ウッドワードが時流におもねっているようにも見えるのかもしれない。 要は、読者としてもノンフィクション作家の政治色をわきまえながら読むべきだ、というところに落ち着きそうだ。 佐藤優「封印された高橋洋一証言──官僚無能論と窃盗事件」 恥ずかしながら、高橋洋一が窃盗容疑で書類送検されていたとは知らなかったが、言われてみれば最近高橋の名前を聞かない。巷ではこの稿で佐藤優が展開している「国策捜査」説と、植草一秀的なハレンチ「自爆」説の2種類に分かれるらしい。竹中平蔵元総務相のブレーンだっただけあって、世論的には後者の方が多いようだ。 その真相は知る由もないが、この佐藤論文では、高橋自身が財務省から睨まれていることを相当警戒していて、身辺に過剰とも言える注意を払っていたことがわかる。 いずれにせよ、高橋の窃盗容疑事件によって一番喜んだのは財務省だろう。財務省の政策に対抗できる数少ない論客だっただけに残念だ。 次回は、本書に掲載された「ノンフィクション 傑作・名作セレクション 100冊×10人」をとりあげる。
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書評 いろいろ
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『解釈と鑑賞』とならぶ老舗の研究誌『国文学』も休刊に追い込まれました。厳しい時代ですね。仕事を失った編集者たちが,新しくて創造的な仕事を生み出し,何か新しい波が生じることを期待するしかありません。そういう意味で,こういう企画には,注目したいです。
それにしても,佐藤優さんって,外務省をやめてから大活躍ですねぇ。
2009/5/31(日) 午前 7:14
>NONAJUNさん:読者のニーズを捉えられない閉塞的・自己満足的な雑誌はともかくとして、良心的で質の高い雑誌が休刊するのはとても残念なことです。中央公論社を読売が買収して『中央公論』の存続に手を差し伸べたことを山崎正和が評価していましたが、まさに「利益の出ない教養」に利益を再分配する仕組みが求められる時代なのだと思います。佐藤優なんかもあれだけの人気作家ですから、これを気に協力してもらいたいもんです。
2009/6/1(月) 午前 0:40
立ち読みでパラパラ見ただけど「国策捜査」であるという少なくとも
状況証拠の痕跡のようなものは書いてありましたか?
状況証拠の痕跡でもあれば、そう主張するのもいいと思いますよ。
2009/6/2(火) 午前 1:22 [ nagata ]
>龍作さん:残念ながら状況証拠らしきものは書かれていませんね。むやみな陰謀論には走りたくありませんが、それにしてもこのタイミングで…と思わずにはいられません。佐藤優も書いていますが、もし罪が本当なら、きれいに償ってまた財務省と闘ってもらいたいものです。
2009/6/2(火) 午後 11:09
佐藤優さんには一時はまりました。その後出版の世界で佐藤優の名を掲げた書籍がたくさん出て、佐藤さん自身の著作も含めると相当な数出版されたので、やはりあの生き方がビジネスマン等にも支持されてるのかな、なんて思っていたものです。
私は残念ながら大三元さんのように言論として読める知力がないので、大三元さんの記事で満足させてもらうことにしました。スミマセン。
2009/6/5(金) 午後 9:01 [ booklover ]
>bookloverさん:そんなに謙遜なさらなくても…。
佐藤優の著作は読んだことがおありですか。この人のまとまった単著ってどうなんでしょうか?対談やジャーナリズムで活躍する豪腕家的なイメージがありますが。
2009/6/7(日) 午前 2:03