読書のあしあと

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書評4 ヘミングウェイ

『老人と海』

福田恒存訳(新潮文庫、1981年改版)


固い本ばっか読んでると肩がこるので、ちょっと海外文学でも取り上げてみる。以下、話のスジをばらしてしまっているので、読む前に内容を知りたくない人は読まないで下さい(笑)


【本書のあらすじ】

キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。四日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけられた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。(新潮文庫裏表紙の紹介より)
本書は福田恒存訳。


お薦め度:★★★★☆

【本書の感想】

<全体の感想>
私は、あまり文学は読まなかった。高校の教科書で漱石の『こころ』を読んだ程度。それが、2年前くらいから読むようになった。やはり最初は慣れないと面白く読めるようにはなれない。それでも最近は好きな日本人作家も何人かできるようになったが(これはおいおい取り上げていこうと思う)、海外文学というのはどうも読みにくい。訳が悪かったり、そもそも日本人の人間観、文化観に合わないせいもあるのだろうと思う。ということで、どうしても短編に走ってしまいがちで、いわゆる大作の類は当分取り上げることができそうもない。お恥ずかしい限りです……。

今回取り上げるのもヘミングウェイの短編。本書の第一の感想は、まず読みやすいということ。訳もいいのだろうけど、文がすっきり、しっかりしていて、無駄がない。文章だけでなく、登場人物も人間味を滲ませながらもすっきりと描かれる。訳者の福田恒存はこの点を非常に巧みに表現している。

ヘミングウェイは、いっさいの善意や正義や理想に対して否定的でありましたが、否定だけではどうにもならない。かれの人物は「たとえ自分が悪人でも、自分の情念をだれも認めなくとも、自分はなんとしてでも生きてみせる」といっているようでありますが、それならそれで、この掟を積極的に肯定する方向が必要であります。(福田恒存「『老人と海』の背景」、132項)

……そこにはなんの感傷的な抒情もなく、ハードボイルド・リアリズムは手堅く守られており、眼に見える外面的なもの以外はなにも描くまいと決心しているようです。(同上、133項)

さらに心理描写も外面的行動に直結していて、それがいい意味で単純明快、爽快で力強い作品になっている所以なのだろう。


<アメリカ人としてのサンチャゴ>
福田恒存は、上記のような文学の手法を「アメリカ的」だという。考えてみればその通りで、雄大な自然の情景、単純明快な原理、ハードボイルド・リアリズムな肉体的描写、「自分はなんとしてでも生きてみせる」といった信念などは、非常にアメリカ的である。豪快な自然との格闘、捕らえた大魚に語りかける老人サンチャゴの優しさと孤独感。
サンチャゴは、捕らえた獲物を目がけて寄って来る鮫を懸命に撃退しながら、舟の上で、大声に出して言う。

「けれど、人間は負けるようには造られてはいないんだ」……「そりゃ、人間は殺されるかもしれない。けれど負けはしないんだぞ」(94項)

非常に力強い、老人の信念である。サンチャゴは、結局、獲物をほとんど鮫に食われてしまって帰還する。あれだけの死闘を勝ち抜いたのに、結局獲物は頭と背骨と尾だけになってしまった。
しかし、彼は負けなかったのである。
…かっこいい。こういうじいさんになりたいなぁ。


<少年の眼差し>
本書でもう一つの伏線になっているのが、老人を慕う少年の存在である。少年は不漁の老人を見限った親にサンチャゴと別の舟に乗るよう言いつけられる。しかし少年は老人を気遣うことをやめなかった。一人前の漁師同士として、コーヒーもおごってやる。サンチャゴも、大魚との根比べの間何度も「あの子がいたら…」と呟くほどに、少年を信頼し、愛していた。
サンチャゴが帰還してからの二人の会話は、胸を打つ。

だれか話し相手がいるというのはどんなに楽しいことかが、はじめてわかった。……「お前がいなくて寂しかったよ」と老人はいった、「なにをとったかね?」
「はじめの日に一匹、それから二日目に一匹と三日目に二匹とった」
「大出来だ」
「また二人で一緒に行こうよ」
「だめだ、おれには運がついていない。運に見放されちゃったのさ」
「運なんてなんだい」と少年は答えた、「運はぼくが持っていくよ」(114項)

少年は運が問題ではないことを知っている。あれだけの大魚と闘える老人の精神力に──もっともこの漁の前からだろうけれど──少年がほれこんでいるのをひしひしと感じた箇所だった。


<おわりに>
本書は、英米文学の中では自分の中でかなり高評価だった。福田も指摘しているが他のヘミングウェイ作品にしろアメリカ文学は無味乾燥なものが多くて苦手だったが、これを機に克服していきたいなぁ。

閉じる コメント(10)

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こんにちは。履歴から来ました。解説(感想?)が詳しくてわかりやすいですね。また読みたくなりました。また読んでみたら違う感動がありそうな気がします。

2005/7/6(水) 午前 10:59 [ - ]

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コメントありがとうございます。こういう場を通じて、本のこと、考えたことなどを話し合えたらなと思います。またお越し下さいね〜。

2005/7/6(水) 午後 0:58 大三元

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こんにちは。「老人と海」は、人生でも海でも孤独を飼いならす術を心得る老人にいたく感銘を受けてしまいました。記事にあるとおり、そんな老人が「お前がいなくて寂しかったよ」というところがとてもよかったです。トラックバックさせてくださいね。

2006/6/26(月) 午後 5:57 mepo

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トラックバック&お気に入り登録ありがとうございます。『老人と海』以外のヘミングウェイ作品も読みたいんですが、訳者の福田恒存が『老人と海』を「他の作品と違って名作だ」という言い方をしているので足踏みしています。。

2006/6/27(火) 午前 3:41 大三元

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mepoさんとこにも書きましたが、老人はかっこいい男です。それが分かれば難しいことは考えなくてもいいと思います。男が惚れる男です。

2006/11/24(金) 午後 9:11 [ kohrya ]

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>kohryaさん:初めまして、コメントありがとうございます。難しいことばかり考えてしまうもので、すみません。

2006/11/25(土) 午前 0:13 大三元

初めましてこんにちわ☆履歴から着ました♪
老人と海、最近再読したんですがやっぱり何度読んでも素晴らしく感じます。
海外文学は訳者によってガラッと雰囲気が変わりますよねw

2007/12/16(日) 午後 6:07 チルネコ

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>チルねこさん:ご訪問&コメントありがとうございました。『老人と海』はよかったですね。福田恒存の訳も名訳だと思いました。よろしければまたお越しください。

2007/12/16(日) 午後 7:25 大三元

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海外というのは、日本文学以外という意味でしたら、中国なんかも入るとオモイマスガお読みになりませんか。

莫言、オススメなのですが。

不思議な世界です。

2013/5/8(水) 午前 3:29 [ ]

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中国の古典は読みたいと思っているのですが、なかなか手が出ません。とくに『史記』はいずれ読まないといけないと思っています。

2013/5/9(木) 午前 11:05 大三元

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