読書のあしあと

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My Best Books

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「My Best Books 2009」文学・随筆部門

先日の人文・社会科学部門に続き、文学・随筆部門のランキング記事です。


今年の文学関係の読書は、とても豊穣な成果に恵まれました。
第一に、海外文学に大きな収穫があったこと。特にブッカー賞作家の作品(第1・4・9位)にはやはり名作が多かったですね。
第二に、現代日本文学でも新たな発見がありました。恩田陸、堀江敏幸、吉田修一、伊坂幸太郎ら、最前線で活躍する作家さんたちの作品に触れ、そのうち何冊かは今でも心に残っています。

また、映画とセットで読書を楽しむのも今年のテーマでした。第9位『イギリス人の患者』と映画『イングリッシュ・ペイシェント』 、ディケンズの原作と映画『オリバー・ツイスト』

近代日本文学は漱石2冊、太宰と安吾が1冊ずつと控えめだったので、来年の宿題ですね。



第1位 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』土屋政雄訳(ハヤカワepi文庫、2008年)
現代イギリスを代表する作家・イシグロの最新長篇。色々と賛否両論があるようだけれど、あの書評54:『日の名残り』を超える最高傑作の呼び声も高い。実際、それだけの感動と余韻が残る作品だと思う。
カズオ・イシグロ独特の端正な文章と静謐な世界観はそのままに、これまでのリアリズム小説から完全なフィクションにぶっ飛んでしまっている。徹底的にフィクションを貫いているのに、これだけの重さを読者の心に残すイシグロの筆力に改めて感嘆した。
書評はネタバレになっているので、読み終わってからご覧ください。


第2位 司馬遼太郎『草原の記』(新潮文庫、1995年)
私は司馬の作品を1割程度しか読んでいない不勉強な読者だが、その中でも随一の光彩を放つ作品ではないかと思う。文庫本で200ページ足らずの短い随想で、モンゴルの歴史と民族への司馬の深い羨望が鮮明に伝わってくる。もともとモンゴル語を専攻していた司馬にとってモンゴルは心の故郷とも言うべき土地だった。なぜ司馬がモンゴルを愛したのか、その魅力をこれほど熱く爽やかに記した文章を、私は他に知らない。
山崎正和による新潮文庫版解説も秀逸。司馬はこの山崎の評をたいそう気に入ったという。


第3位 恩田陸『光の帝国──常野物語』(集英社文庫、2000年)
恩田陸の本は初挑戦。皆さんの評判が良かったので「常野」シリーズを選んでみたが、これが予想外の大当たり!読んでいてとても心地の良い作品だった。現代の女性ファンタジー作家なんてブログをやっていなかったら絶対読まない分野だった。ブログ仲間の皆さまに感謝。
常野シリーズは to be continued らしく、すでに続編2冊が文庫化されている。個人的には春田一家の話の続きを読んでみたい。


第4位 ブルックナー『秋のホテル』小野寺健訳(晶文社、1988年)
現代に生きる真摯な女性は、幸福を掴むことはできないのだろうか?
若干酷にも見えるこの問いに対し、ブルックナーは決して夢想的なハッピーエンドを用意しているわけではない。その代わり読者に与えられるのは、自分の人生をまじめに生きていくことへの決然とした意思である。
前半よりも後半を読んでいる時、読んでいる間よりも読み終わった時、読み終わり直後よりも一ヶ月経った今の方が、この本のことが心に沁みてくる。ブルックナーの本とは今後も付き合って行こうと思わされた一冊。


第5位 ベルンハルト・シュリンク『朗読者』 松永美穂訳(新潮文庫、2003年)
言わずと知れたベストセラー、遅ればせながら読了。面白さは評判通りで、大衆受けを狙っていないのも好印象。ミステリ全盛の時代にあって、こんな純文学がよくこれだけ売れたものだ。
『秋のホテル』もそうだけれど、人生を丁寧に、まじめに生きている人を描いた本というのは読んでよかったと思う。本書も、二人の人柄が誠実だからこそ読者の心を打つのであろう。
映画版も評判がいいので観てみたい。


第6位 伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』(新潮文庫、2003年)
この売れっ子作家の作品を読むのは初めてだったが、予想より好印象だった。文章の読み易さや淡々とした語り口は現代っぽいが、作品の底流にある“考え方”はシンプルで力強く、案外古典的かもしれない。
どうも周りの話を聞いていると、この処女作が一番いい、という感想が多いような気がする。逆に言えば、これからが楽しみな作家ということか。多作な作家さんだけに、今後に期待したいところだ。


第7位 堀江敏幸『雪沼とその周辺』(新潮文庫、2007年)
これも初挑戦の作家だった。本書は谷崎賞を受賞している通り、円熟味のある短篇集で、読むほどに味が出てきそうな作品が並ぶ。
印象的だったのは、本書の世界観と著者の文章が見事にマッチしていること。ひっそりとした山村に暮らす篤実な人々の生活が、淡々とした、しかし奥行きのある文章で綴られていく。
短篇のお手本のような本だが、今度は長篇も読んでみたい。


第8位 司馬遼太郎『翔ぶが如く』全10巻(文春文庫、1980年)その1その2その3
岩倉使節団派遣から西南戦争終結までを描いた司馬の大長篇。足掛け4ヶ月もかかった読書になったが、何とか読了することができた。
重複が多くたまに平坦な記述が続くのが司馬の長篇の唯一の悪癖だと私は思っているが、この作品は特にその傾向が強いように思う。中盤は読むのが苦しくなった読者も多いことだろう。
それでも随所にさすが司馬と思わせる記述がある。特に明治六年政変の際の西郷と大久保の遣り取りには圧倒される。あの迫力は司馬だからこそ出せたんだろうなぁ。
来年は明治六年政変前後の客観的な研究も読みたいと考えている。


第9位 マイケル・オンダーチェ『イギリス人の患者』土屋政雄訳(新潮文庫、1999年)
昨年から楽しみにしていたブッカー賞受賞作。過去と現在が交錯する緻密な物語展開と流麗な文体で描かれるのは、叶わなかった二つの恋愛である。情熱的な砂漠の恋と、廃墟での爽やかな恋愛。
「異なる文明の遭遇」というイギリス文学の伝統的なテーマを受け継ぎながらも、一枚の美しい水彩画のような印象を受ける、新鮮な作品であった。
ちなみに、私としてはアカデミー賞を受賞した映画よりも原作の方が好みである。


第10位 坂口安吾「桜の森の満開の下」(『坂口安吾全集5』ちくま文庫、1990年、所収)
安吾は久しぶりに読んだ。
あまりにも有名なこの短篇は実は読んだことがなかったが、イメージとは違って怖い作品だった(読む前は花見のピクニック的な先入観を持っていたので…笑)。今や「日本の春」の象徴的存在となっている桜だが、一昔前までは恐怖の対象だったのかもしれない。
目の前に満開の桜の花びらが舞う情景がありありと再現されるラストシーンは圧巻。安吾の筆力が光る異色の掌編である。


閉じる コメント(32)

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>さんぽさん:『秋のホテル』は、文字通り晩秋がよく似合う傑作長篇でした。読まれたら是非感想をお聞かせ下さい!

2009/12/25(金) 午前 7:15 大三元

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>NONAJUNさん:堀江敏幸、挫折されましたか…。確かに、ドラマティックな出来事があるわけでもないですから、読み方によってはちょっと退屈かもしれませんね。
イシグロの著書は全て面白いです。是非NONAJUNさんの感想もお聞きしてみたいです。

2009/12/25(金) 午前 7:18 大三元

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残念ながら、この中で読んだものはないのですが、これを機会に坂口安吾氏の作品あたりを読んでみたいと思います。そして大三元さんの「味覚」と自分の感覚を比較してみたいです。こういうのっていいですね。

2009/12/25(金) 午前 7:47 [ グーピタ ]

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TBありがとうございました^^こちらからもぜひTBさせてくださいね^^

2009/12/26(土) 午前 9:29 ang*1jp

最近読書量が減っていて不安でしたが、読んだことのある作品が3作もランクインしていて(しかも一冊は輝く第1位!)嬉しいです(*^_^*)
来年は一冊も入って無かったということが無いように、もう少し読書量を増やさなければ(^^♪

2009/12/26(土) 午後 2:30 AKIKO

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>グーピタさん:安吾は私も久しぶりに読みました。と言っても読んだことがあるのは「堕落論」「日本文化私観」くらいですから、読後の印象は「意外」でしたね。
他人と本の感想を共有するためにブログをやっているようなものなので、読まれたら是非感想もお聞かせいただけると嬉しいです。

2009/12/27(日) 午前 2:13 大三元

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>あんごさん:トラバありがとうございました!

2009/12/27(日) 午前 2:14 大三元

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>AKIKOさん:『わたしを離さないで』はとても重く、切なく、心に残る作品でしたね。カズオ・イシグロの最新短篇集の文庫化も心待ちにしています。AKIKOさんの読書感想もたまにお聞かせ下さいね。

2009/12/27(日) 午前 2:15 大三元

6、7位のみ既読です。
『雪沼とその周辺』は高校の担任の薦めで読んでいました。大人っぽいなぁという印象が強かったですが、いろいろ深読みで感じられるところがあって面白かったのを覚えています。
1位のカズオ・イシグロの作品を読んでみたいと思います。

2009/12/29(火) 午後 4:00 いち

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>いちさん:そうなんですよ、堀江敏幸は老成した文章とその世界観の奥行きにあると思います。若輩者としては憧れますよね。
カズオ・イシグロは是非読んでみて下さい。特に『わたしを離さないで』は切なさと静かな迫力に圧倒されます。

2009/12/29(火) 午後 6:24 大三元

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。^^
「わたしを離さないで」は私も昨年のベスト10に入れた作品です。非常に美しく印象的な文章でした。
「オーデュボンの祈り」は、一番好きな伊坂作品です。登場人物も魅力的だし、心に残る言葉がたくさんあります。次は「ラッシュライフ」はいかがでしょうか。

2010/1/1(金) 午後 8:30 ねこりん

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>ねこりんさん:明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!
『わたしを離さないで』をはじめ、イシグロの作品は素晴らしいですね。今年も一冊くらいはイシグロの作品を読みたいものです。
伊坂幸太郎は『アヒルと鴨』をいちさんから薦めていただきましたが、『ラッシュライフ』も面白いんでしょうか。今年の読書目標リストに入れておきますね!

2010/1/2(土) 午後 2:31 大三元

ランクインした中で、読んだ事があるのは『翔ぶが如く』だけでした。
「愉快なギャング・・・」を読んで、イマイチ作家のレッテルを貼ってしまった伊坂は、大三元さんの書評に触発され、何冊か読んでみて華麗に復活を果たしました(笑)
それと、実は安吾も「堕落論」しか読んでいないので、「桜の森の満開の下」も読んでみたくなりました。
ボクが読んだ複数の他の作品に引用で出て来たので、気にはなっていたので。
それと1位のカズオ・イシグロ、恥かしながら今日初めて聞いた名前です。
これは読んでみなければね。

2010/1/6(水) 午後 8:13 オブ兵部

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>オブ兵部さん:『オーデュボン』は期待以上でした。伊坂でオブ兵部さんのお薦め作品があれば教えていただけるとありがたいです。何しろ多作なもので…。
「桜の森の満開の下」は今まで読んだことのないタイプの小説でしたね。「こんな小説があるのか!」と思いました。「堕落論」とはまた違った安吾が見れると思います。カズオ・イシグロはどれを読んでも面白いですよ!

2010/1/7(木) 午前 0:09 大三元

カズオ・イシグロはいいですよね。『夜想曲集』は2009年に読んだ短編集では、1、2を争うほどの水準でしたし。恩田さんには『光の帝国』で騙されました。あたしもこの本から入って、期待していろいろ読んだのですが、良かったのは『チョコレートコスモス』くらいだったかしら。あとはちょっと・・。4位と7位が未読本でした。

2010/1/15(金) 午後 11:12 りぼん

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>りぼんさん:イシグロの『夜想曲集』は面白くないはずがないと思っているんです。文庫化が待ち遠しい限りです。
恩田陸の常野シリーズ二作目『蒲公英草紙』は読み終え、記事にしてみました。やはり常野世界は健在でしたが、やはり『光の帝国』の方が好きでしたねぇ。『チョコレートコスモス』も読んでみますね。

2010/1/16(土) 午前 11:40 大三元

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おお〜っ、今読んでる「わつしを離さないで」が2009年のベスト1なのですね〜っ。
まだ半分くらいなのですが、静かな語り口ながら物語へ引き込む吸引力がすごい。映画を見てるので、より細部が明らかにされてきてゾクゾクしてしてしまいます。

2011/11/22(火) 午後 9:19 [ わかめ ]

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>わかめさん:カズオ・イシグロ『日の名残り』は、私の海外文学苦手意識を徹底的に叩きのめしてくれた名作でした。『わたしを離さないで』もそれに匹敵する傑作だと思います。私は映画をまだ観ていないのですが、評判もいいので観てみたいですね。

2011/11/24(木) 午後 4:38 大三元

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わっ、恥ずかしい。
「わつしを離さないで」になってますぅぅぅ。
「日の名残り」映画はとても有名ですけど、観たことないんです。
まずは小説から〜。私も徹底的に叩きのめしてほし〜いでっす。

2011/11/24(木) 午後 8:46 [ わかめ ]

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>わかめさん:『日の名残り』は、映画より原作の方が段然よかったですよ。『わたしを離さないで』の映画版は、その二の舞になっていないのか若干心配なのですが、皆さんの評判はいいみたいなので楽しみにしています。

2011/11/26(土) 午後 9:53 大三元

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