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以前漱石の代表作『三四郎』を書評した際に、漱石が小説を「ストーリーと俳味」に区分し、自身の『草枕』を“俳味”に分類していることを取り上げました。漱石の言う俳味とは何か。 私の『草枕』は、この世間普通にいふ小説とは全く反対の意味で書いたのである。唯一種の感じ──美しい感じが読者の頭に残りさへすればよい。それ以外に何も特別な目的があるのではない。さればこそ、プロットもなければ、事件の発展もない。 漱石の言う通り、文学には2種類あります。 “ストーリー派”=ストーリーの起伏やタネ明かしで読者を楽しませるタイプ。 “俳味派” =あらすじには重きを置かず、文章の雰囲気や世界観で読者を魅了するタイプ。 ミステリなどは典型的な“ストーリー派”であり、詩文の多くは“俳味派”に属するでしょうね。 そこで皆さんに宿題。 “ストーリー派”と“俳味派”にはそれぞれ違った面白さがありますが、ではそれぞれの中でも秀逸な作品は何だと思いますか?
─────………・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ 参考までに、これまでこのブログで書評してきた中から、私が思いつく作品を挙げてみましょう。 まずはお気に入りの“ストーリー”派の作品群たち。 太宰治もストーリーテラーとしては稀代の天才でした。 「畜犬談」、『太宰治全集1』、『太宰治全集3』、『太宰治全集4』、『太宰治全集5』と、これまで全集を読んできましたが、よくもまあこれだけの引き出しがあるものだと感心します。 ミステリの中では福井晴敏『亡国のイージス』が圧巻。二転三転のストーリーと、圧倒的な文章の迫力に押し潰されてしまいそう。 そしてこれは個人的な好みですが、リュドミラ・ウリツカヤ『ソーネチカ』も自分にとって大切な一冊です。 かたや“俳味派”にはどんな作品があるでしょうか。 最近読んだものでは、やはり谷崎純一郎『細雪』が印象に残っていますね。谷崎は、地の文に会話文を埋め込んで流れるように書くのが滅法上手くて、本から目を離してもまだ谷崎の文章を読んでいるような感覚になる。 その谷崎の名を冠した賞を受賞した山田詠美『風味絶佳』も、文章に極上の味わいがあって好きです。谷崎賞受賞作は決まって文章が上手いそうで、これも例に漏れません。 雰囲気がとても好きなのは、恩田陸『光の帝国』をはじめとする「常野物語」シリーズ。ストーリーの完成度がそれほど高くないのがタマにキズですが、作風はすごく好きですね。 違う言語で「読者にイメージを残す」というのはすごく難しいと思うのですが、アリステア・マクラウド『冬の犬』やオンダーチェ『イギリス人の患者』は、映像喚起力とでも言うのか、読んでいて頭の中に絵が浮かんでくるような文章です。 小説ではありませんが、司馬遼太郎『草原の記』は文章がモンゴルの世界観とシンクロし、さらに司馬の想い入れも感じられて、実に味わい深い作品になっています。 ─────………・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ もっとも、ストーリーも面白くて文章も良いという本もあるでしょう。 むしろ名作とは少なからずそういうものですよね。 皆さんに、そんな作品を教えて欲しいと思っています。
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読書を語ろう!
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ストーリー派に入れて良いのか判りませんが、ドストエフスキーは衝撃的な殺人や突如のどんでん返しがあちこちにあってストーリーを如何に理解するかがおもしろさの一端を担っています。
向田邦子「あ・うん」宮尾登美子「櫂」は「細雪」と同じ昭和初期の時代を流れるように描写し、俳味派といえるでしょう。この三作品、並べて読むことをオススメします。日本が日本であった時代を上から下まで感じられます。
2010/4/17(土) 午前 1:40 [ kohrya ]
同じ宮尾登美子の「自伝四部作」なのに「岩伍覚え書」は純粋にストーリー展開が面白い作品です。この辺、やはり宮尾登美子の力量は素晴らしい。
2010/4/17(土) 午前 1:45 [ kohrya ]
好きな作家はたくさんいるので、考え始めたら絞りきれなくなるのはわかってます。ですから、瞬間の思いつきで名まえを挙げてみましょう。ストーリー派ならジョン・アーヴィング、俳味派ならジュンパ・ラヒリでいかが?
2010/4/17(土) 午前 8:47
井上ひさしさんではありませんが、宿題はゆっくり時間をかけて提出させていただくとして、まずはポチッ!
タイムリーな記事をありがとうございます。
m(_ _)m
2010/4/17(土) 午前 11:24
谷崎と芥川の論争を思い起こさせる記事ですね^^私はむかし断然ストーリー派でいわゆる「徘味」を「自己愛・自己満足」とムキになって攻撃しておりました^^;てへへ。ある友人に「だったらTVドラマのシナリオでも読んでいれば?」と言われてはっとした青い思い出が…^^;
ストーリー派だとドストエフスキーの「カラマゾフの兄弟」俳味派だと芥川の「或阿呆の一生」を挙げさせていただきます^^
2010/4/17(土) 午前 11:53
大三元さんとは感覚が似ているのかなぁ

私の好きなミステリーは上げられてしまいました(笑)
あえてあげるなら、宮部みゆきさんのミステリーですかね
今は写実的なものは求めてないので
今ありませんが
課題にさせていただきたいです
2010/4/17(土) 午後 4:29
>こーりゃさん:ドストエフスキーは何冊か読みましたが、まだ真の面白さを理解できた気がしませんので、これは長年の宿題になっています。向田邦子の『あ・うん』は私も好きですが、これはストーリー派として読みました(笑)。
宮尾登美子は読んだことがなかったのですが、面白いんですね。読んでみたいと思います。
2010/4/17(土) 午後 4:43
>りぼんさん:ジョン・アーヴィングとジュンパ・ラヒリ!
まさに今年中に制覇しようと思っていたアメリカ文学の二大巨頭ですね。これはますます楽しみになってきました!
2010/4/17(土) 午後 4:46
>しぐれさん:もともとしぐれさんのコメントで思いついた記事です。たまにはこういう記事もいいのではないかと。またゆっくりお聞かせ下さい。
2010/4/17(土) 午後 4:47
>あんごさん:TVドラマのシナリオ(爆)!確かに〜!
でも意外とテレビの脚本も馬鹿にできなくて、向田邦子『あ・うん』なんかは小説のあらすじとしても一級品だと思いました。
“俳味”は確かにある程度の読書経験を積まないとわからない部分もあって、個人の感性によるところもありますから、なかなか良さを伝えるのは難しいですね。芥川「或阿呆の一生」はずっと気になっている作品です。
2010/4/17(土) 午後 4:59
>あつぴさん:そうですね、お互い太宰が大好きですし(笑)。宮部みゆき『レベル7』も挙げようかと思ったんですが、このブログでは★3つにしていたのでやめました。
またあつぴさんのお薦めも教えて下さい!
2010/4/17(土) 午後 5:01
こんばんは(^^)
とりあえず、瞬間的にパッと思いついたのは、モンテ・クリスト伯でした。
高校の時に読んで凄い衝撃受けて今でも覚えてます。
恩田陸作品の雰囲気が好きなのわかります!
確かに最後のまとまりが結構あやふやな物が多いですよね。
でも話の発想だとか世界観が好きです(*^^)v
2010/4/20(火) 午前 2:37
>Spicaさん:おお、デュマの古典ですね!私も最初だけ読んだような記憶がありますが、…ということは挫折したのか?(笑)
恩田陸は、『光の帝国』がすごくよかったのですが、『蒲公英草紙』を読んで、「この人の本はストーリーじゃなくて雰囲気を楽しむものなんだ」と悟りました。でも、そういう文章を書ける作家さんてすごいですよね。いずれ教科書に載るんじゃないでしょうか。
2010/4/20(火) 午後 5:43
以前は完全 “ストーリー派”でした。マルタン・デュ・ガール、ロマン・ロランなど。
でも「渡辺淳一」でうんざりしました。
今は“俳味派” しか読む意味を感じません。
春樹さん、カズオ・イシグロさんはもちろんですが「柴田翔」という作家をご存知でしょうか?
かなり前に「されど我らが日々」で芥川賞を受賞したかたで、今はあまり書いていません。
とても文章がお上手な方で一行・一行に「読み飛ばしてはいけない」という「力」がありました。
両方なら、やはり、ドストエフスキーでしょうか。
2010/4/23(金) 午後 11:14
>AKIKOさん:ロマン・ロランてストーリー派なんですね。逆かと思ってました。恥ずかしながら、私は未だに村上春樹とドフトエフスキーはわかりません(笑)。
柴田翔という作家は知りませんでしたが、「力」がある文章というのはいいですね。最近の小説では滅多に出会いませんが、法哲学者・井上達夫の著作群はどれも「力」が漲っている力作揃いです。最近の若者はこういう本を読まないんでしょうねぇ。
2010/4/24(土) 午後 1:52
>内緒さん:ありがとうございます!早速伺いますね。
2010/4/24(土) 午後 1:53
大三元さん、『あ・うん』よかったです〜^^お勧めいただいてありがとうございました☆読めて本当によかった!とても大切な一冊になりました。
2010/5/23(日) 午後 6:10
>あんごさん:こちらこそ、気に入っていただいてよかったです!
今度は私が「或阿呆の一生」を片付ける番ですね(笑)
2010/5/23(日) 午後 7:29