読書のあしあと

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書評196 アラン・ベネット

『やんごとなき読者』

市川恵理訳(白水社、2009年)

2009年度の各紙年末特集「この3冊」に取り上げられていた中の一冊。
小説は普段ハードカバーで読まないのだが、偶然古本で見つけたので読んでみた。


【著者紹介】
Alan Bennett (1934年―) イギリスの劇作家、脚本家、俳優、小説家。
リーズに生まれ、オックスフォード大学で学ぶ。数多くの演劇、テレビ、ラジオ、映画の脚本を執筆し、2006年にはThe History Boysでトニー賞受賞、同年のBritish Book AwardsでAuthor of the Yearに選ばれた。他受賞多数。風刺的でありながら温かみもあるコメディを得意とする。


【本書の内容】
飼い犬が縁で、読書に目覚めた女王エリザベス二世。読書は彼女に喜びと、ひとつの疑問をもたらした。女王ではない、「わたし」の人生とは、何……? 英国ベストセラー小説、各紙誌書評絶賛!


お薦め度:★★★☆☆

【本書の感想】
英国女王エリザベス二世が、80歳を前にして読書にハマった。
奇想天外な設定だが、英国の十八番である王室風刺の中にも爽やかな味わいのある、良質なコメディ小説である。

まずタイトルが良い。「高貴な読者」ではなく「やんごとなき読者」、訳者のセンスの良さが光る。


エリザベス二世は、ある日ひょんなことから本を読むことになる。それまで読書には格別の興味などなかったが、しばらく本を読んでいくうちに、読書が習慣となり、パーティーでも本のことを話題にすることが多くなっていく。

ある日女王は考えた。なぜ自分はこうも読書に惹かれるのか?

本は読者がだれであるかも、人がそれを読むかどうかも気にしない。すべての読者は、彼女も含めて平等である。文学とはひとつの共和国なのだと思った。……それは無名の人間になれる経験、人々と共有できるもの、共同のものだ。ふつうの人と異なる生活を送ってきた女王は、いま自分がそうしたものを渇望していることを知った。本のページの中に入れば、彼女はだれからも気づかれない存在になれる。(41項)

このくだりには世界中の読書家が膝を打つに違いない。本の前では、女王も一人の人間なのだ。
それに気づいてからというものの、女王は今までの人生を――「普通だったかもしれない」人生を取り戻すべく、ますます読書にハマっていく。


何とか読書をやめさせようと奮闘する周囲の側近たちをよそに、やがて女王は読者としても成長していき、読書の効果を実感するようになる。
読書は、他人の身になって考えることを促す。自分の人生を客観的に振り返る視点を提供する。
そして女王自身が80歳の誕生日パーティーを迎えたとき、人生を振り返って下した驚くべき決断とは…


以下は英『オブザーヴァー』紙の書評から。

『やんごとなき読者』はすばらしい物語だが、それだけではない。人生を変え、視野を広げ、他人の身になって考えさせ、育ちや階級や教育の束縛から人を解放する、読書の力の大真面目な宣言でもある。(166項)

読書の力を信じる人に、いや信じない人にも、是非読んでもらいたい一冊。
 

閉じる コメント(12)

今晩は、
又読みたい!本が増えてしまいました、困ったものです(笑)
でもありがとうございます。

2010/4/21(水) 午前 0:25 凛さ

私も読んでみたいです^^
ご紹介ありがとうございます♪

2010/4/21(水) 午前 6:30 [ ソフィー ]

とっても楽しい作品でした。女王がイアン・マキューアンも、カズオ・イシグロも、読んでしまうんですからね。個人的には、いかにも「女王好み」のように思われたジェーン・オースティンがイマイチだったというのがツボにきました。「女王以外はすべて臣民」というお立場からは、身分の微妙な差異が生みだす悲喜劇は理解しにくかったというのですからね。^^

2010/4/21(水) 午前 6:37 りぼん

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>しぐれさん:短くて読み易いですが、イギリス的なウィットと王室風刺と読書の楽しさを同時に味わえる、お得な作品になっています。文庫化の可能性は低いでしょうけれど、機会があればお薦めします。

2010/4/22(木) 午前 2:11 大三元

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>ソフィーさん:この本は本国イギリスでもベストセラーになったそうです。実際にイギリスに住まれている方の感想も是非聞いてみたいので、読まれたら感想を教えて下さいね。

2010/4/22(木) 午前 2:15 大三元

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>りぼんさん:トラバありがとうございました。
女王が現代英連邦の作家たちを読みまくり、時に難癖とつけたりするのは楽しかったですね。
私は記事引用文の中の「文学とはひとつの共和国なのだ」がツボでした。女王なのに、そこに惹かれるとは!

2010/4/22(木) 午前 2:27 大三元

面白そうなお話ですね♪
これまでのご紹介本と少し違う雰囲気ですね。。。

ブログをするようになり、読書量がかなり減ったというか、、本を読まなくなりました。。。(笑)
大三元さんの記事を読んで、、本を読みたいなぁ。。。と、思うのですが、、なかなかです。。。やりたいことがいっぱいで、、、困ったもんです。。。(笑)
(*^-^*)/~

2010/4/22(木) 午後 10:37 さ ん ぽ

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>さんぽさん:そうですね、いつも深刻な本ばかり書評していますから(笑)。
インターネットって、本当にあっという間に時間が経ってしまいますから、ちょっとした中毒になっちゃいますよね^^;

2010/4/22(木) 午後 11:45 大三元

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週刊ブックレビューで大分前に推薦されてましたが・・・
読書の魅力を伝える目的で書かれた本なのですね。

2010/4/23(金) 午後 11:58 [ pilopilo3658 ]

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面白そうな本ですね♪
たしかに、なぜ読書に惹かれるか・・・と考えると、
自分がいろいろなものになれるから(もしくは、何ものでもない存在に・・・)
かもしれないと思いました*

2010/4/24(土) 午前 11:55 mie**tro*e

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>あおちゃんさん:読書の魅力を伝えること自体が目的だったのかどうかはわかりませんが、結果的にそれに成功していることは確かですね。
短いですし、機会があればどうぞ。

2010/4/24(土) 午後 5:15 大三元

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>mielさん:この本の新鮮なところは、「読書は“今、ここ”から開放してくれる」という言い古されたことを、女王の視点から切り取ってみせた点にあります。まさに英国ならではのセンスだと思います。

2010/4/24(土) 午後 5:18 大三元

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