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【著者紹介】 よしだ・しゅういち (1968年―) 作家。 長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞し、デビュー。2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で第127回芥川賞、2007年『悪人』で第34回大佛次郎賞、第61回毎日出版文化賞を受賞。 本ブログで取り上げた作品に書評166:『ひなた』がある。 【本書のあらすじ】 福岡市内に暮らす保険外交員の石橋佳乃が、携帯サイトで知り合った金髪の土木作業員に殺害された。二人が本当に会いたかった相手は誰だったのか? 佐賀市内に双子の妹と暮らす馬込光代もまた、何もない平凡な生活から逃れるため、出会い系サイトへアクセスする。そこで運命の相手と確信できる男に出会えた光代だったが、彼は殺人を犯していた。彼女は自首しようとする男を止め、一緒にいたいと強く願う。光代を駆り立てるものは何か? その一方で、被害者と加害者に向けられた悪意と戦う家族たちがいた。誰がいったい悪人なのか? 事件の果てに明かされる殺意の奥にあるものは? 毎日出版文化賞と大佛次郎賞受賞した著者の最高傑作、待望の文庫化。 お薦め度:★★★★☆ 【本書の感想】 <全体の感想> 重いのか軽いのか、サスペンスなのか純愛小説なのか、不思議な読後感を残す作品である。 とにかく、ページを繰る手を止めさせない筆力だけでも一級品だ。 あらすじはワイドショーで取り上げられるような、ありきたりな殺人事件。実際に佐賀で起きた事件をモデルとしているらしい。 出会い系サイトで知り合った男女の関係は、やがて殺人事件に発展していく。しかし、この作品のテーマは殺人でも謎解きでもない。描かれるのは、事件に関わった様々な人々の心理であり、置かれた状況であり、苦悩であり、矛盾であり、想いであった。 <祐一は「普通」か?> 吉田修一らしく、物語は淡々と進んでいく。 事件自体はありきたりでも、読者はその背後に隠れた多くの登場人物の人生を垣間見ることになる。 本書の登場人物はみな「普通」だ。適度に良心があり、適度に俗物で、適度に欲がある。 そんな普通な人間関係の網の中で、不幸な事件が起こったときの心理描写がこの作品の読みどころだ。 ところが、主人公の一人・清水祐一だけはよくわからない。 親友に言わせると、祐一の行動には結論しかないから、何を考えているのかわからないのだという。 祐一って、本当に昔からそういうところがあるんですよ。起承転結の起と結しかないっていうか、承と転は自分勝手に考えるだけで、その考えたことを相手に告げもせん。自分の中では筋道が通ってるかもしれんけど、相手には伝わらんですよ。(180―181項) よくよく考えてみると、こんな人って結構いるんじゃないかな。 そう考えれば、祐一も現代の普通な若者の一人なのかもしれない。 <誰が「悪人」なのか?> 本書のメインテーマは、誰が「悪人」なのか?ということ、そしてその「悪人」を許すべきか?ということだ。 本当の悪人は、ふとしたきっかけで殺人に手を染めてしまった素朴な青年なのか。その青年を愛するが故に逃避行に誘う女なのか。あるいは、青年の好意をあっさりと踏みにじった女の方か。はたまた殺人のきっかけを作った醜悪なチンピラ大学生なのか…。 自分なりに色々考えてみたが、結局は皆が少なからず色んな意味で「悪い」のだという結論に達した。 でも、それは私たち読者も一緒だ。「悪い」登場人物の気持ちがわかってしまうのは、私たち自身も少なからずその要素を持っているからに違いない。 祐一が「結局、どっちも被害者にはなれんたい」と呟いたのも、そういう意味ではないだろうか。人が人と関わる以上、ある意味で皆が加害者だ、と祐一は考えたのではないか。 ただ、「皆が加害者」なんていう結論のままでは救われないことは祐一もわかっていたはずだ。祐一は光代の加害者意識を振り払うため、光代の首を絞めて「被害者」に仕立てようとした。自分の母親から金をせびり、愛する女の首を絞めることで、自分だけが加害者――「悪人」になろうとした。祐一は、それで周りが救われると考えたのだ。 だが、そんなことで人は救われるのだろうか。誰かが過剰にマイナスを背負って「悪人」になったところで、周りの人間がプラスになることなんてありえないはずだが…。 皆さんに薦めたい、というより、皆さんの感想を聞きたくなる小説でした。
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書評 日本文学
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ちょっと重そうですが、、、映画化になるようだし、、、探して読んでみます♪
(*^-^*)/~
2010/7/10(土) 午後 10:17
>さんぽさん:テーマだけだと重いように思われるかもしれませんが、吉田修一の文章が淡々としているので、重いのか軽いのかわからないような感じです(笑)。
読まれたら感想もお聞かせ下さいね。
2010/7/11(日) 午前 0:03
読みました〜
苛々するくらい面白かったです(*^_^*)
人間の善意と悪意、愛と嫉妬、色々なものが紙一重で重なり合っている様が的確に描かれていて、読み応えがありました。
ただ、私は(いわゆる過失を除いては)「あいつ、殺してやりたい」と思うことは多いでしょうが(私だって思ったことがあります)それを実行に移す人と移さない人の間には「決定的な線引き」があると思っています。雰囲気に呑まれてというのもあるかもしれませんが、やはり殺せない人は殺せないのでは・・・と思うのです。
主役を熱望したといわれる妻夫木さんがどう演じるのか、是非観たいと思いました。
2010/7/25(日) 午後 4:59
もう一度お邪魔します。映画が今から楽しみで仕方ありません。予告編を観ましたが「究極の純愛もの」という感じですね。それはそれで、もの凄く感情移入しそうなんですが、やはり原作のニュアンスはもう少し違う気がします。大三元さんも言われていた「人の本当の心は分からない」ところがこの作品の肝かな、と。
2010/7/25(日) 午後 5:51
>AKIKOさん:おっしゃること、全く同感です。「皆ある意味で悪い」のは事実だと思うんですけど、増尾のような「悪さ」と、祐一が犯してしまった「悪さ」には、客観的な基準で目に見える線があります。本書のメッセージは、世の中には色んな「悪さ」あるけどあなたはどう思いますか?ということだったのではないでしょうか。
2010/7/26(月) 午前 0:24
>ぼやっとさん:映画、楽しみですね。今話題になっている『告白』の映画も評判ですし、最近の純文学作品を映画にしたもので興味深い作品が多いです。
この作品を「純愛もの」として捉える方も多いみたいですが、でもそれだけじゃない、もっと深いものが(純愛が深くないとは言いませんが)この作品にはあるような気がするんですよね。
2010/7/26(月) 午前 0:26
本当にこれは一気読みさせられますね。
祐一という人間は何を考えているのかわからりにくいんだけど、こういう人って結構いるな〜と思わさせられるキャラでした。実際私の知り合いにもこういうタイプ(ってもちろん殺人なんてしませんけど^^;)の若者がいるんですよね。
いろいろな意味で現代社会の闇のようなものを感じさせられました。
このところ話題の不明になっている老人問題などとも被るような気が・・・
私もTBさせてくださいね♪
2010/8/19(木) 午後 1:07
>Choroさん:トラバありがとうございました。
そうなんですよ、祐一の心理は読者にはわからないようになっているんですが、それでも「こういうヤツいるな」って思わせるんですよね。
現代的な暗さも感じますけど、逆に祐一みたいな若者は昔もいたんじゃないか、と思ってしまいます。
2010/8/21(土) 午前 7:11
大三元さん、TBありがとうございました!
祐一は、光代を被害者にして救おう思ったというより、理屈ぬきでそういう言動しかできない人なんだろな〜って思います。他人から見たら、「どうしてそんな馬鹿なこと…」って思えることでも、自分の型でしか動けない。打算とか計算ができない人間ってことなんですかね。ただ、人を求める気持ちは人一倍ある人。
なんだか、今の自分が読んだら、どんな風に感じるか考えてしまいます。
映画、楽しみですね♪私もTBさせてくださいね。
2010/8/27(金) 午後 2:11
>mepoさん:トラバありがとうございました!
なるほど〜、「理屈抜きで」ですか。そう言われてみると、祐一には理屈なんてなかったのかもしれません。
妻夫木が祐一役っていうのは私はまだ違和感があるんですけれど(笑)、深津絵里の光代はしっくりきます。映画、楽しみですね。
2010/8/29(日) 午後 3:11
下巻だけ、、、読みました。。。(笑)
祐一も光代も、、わかるなぁ。。。ありえる感情だなぁ。。。
普通ではありえない殺人の設定だけど、、主人公達の感情は普通にありえる気がしました。。。
吉田修一作品、、2冊目だけど、、、登場人物の気持ち、、、結構納得いきます。。。もう少し、他の作品も読んでみます♪
(*^-^*)/~
2010/9/5(日) 午後 10:27
>さんぽさん:え〜なぜ下巻だけ(爆)!
確かに下巻の方がスピード感はありますけど、上巻なしでよくストーリーがわかりましたね。
吉田修一はまだ2冊目ですが、これからちょっと追いかけてみようかな、と思いました。
2010/9/5(日) 午後 11:17
映画を見ました、妻夫木君のファンということもあって(笑)。確かにまわりのベテラン俳優さんに比べたら彼の演技はまだまだですが、
監督に要求されたという目の演技である程度は裕一の微妙な心の変化を出せていたのではないかと思います。
2010/9/18(土) 午後 0:22
>しぐれさん:ご無沙汰しております。映画、ご覧になったのですね!評判もいいですし、楽しみにしている映画のひとつです。
妻夫木ファンとしては、妻夫木らしい役柄の方がよかったですかね?
2010/9/19(日) 午前 1:14
いえいえ、ああいう役もどんどん挑戦して行って欲しいと思っています!
2010/9/19(日) 午前 1:19
>しぐれさん:そうなんですか、ファン心理とは複雑ですね(笑)。
2010/9/19(日) 午前 1:35
大三元さん、コメントとトラバをありがとうございました。
正直、面白い作品だと読み進めていき、ラストに肩すかしをくらった気がした作品でした。
「愛する女の首を絞めることで、自分だけが加害者――「悪人」になろうとした。」私もそうだと思うのです。それを、光世よ、わかってあげなさいよ!とツッコミを入れたくなったのでした。
「やっぱり、あの人は悪い人だったのかなあ」というつぶやきは、他の人に譲って、光世は彼を信じてあげなさいよ、と。
作者は、意図してそうしたのでしょうけど、ちょっと光世という人物を描くには、失敗だったなあと思います。
2010/12/11(土) 午後 9:52
>すてさん:そうですよね、本当に祐一が光代を救おうとして手をかけたのだとしたら、光代こそ信じてあげないと祐一も報われないんですよね。
でも、映画を観て、祐一はそこまで深く考える余裕なんてなくて、ただ単にああいう行動しかできない弱さを抱えた男だったのかも、とも感じました。
いずれにせよ、結局他人の心はわからない、と何度読んでも(観ても)考えさせられる作品です。
2010/12/13(月) 午前 0:46
古い記事にコメントすみません。
話題の本を読まないものでいつごろの作品かも知りませんでした。
大三元さんの感想や他の方のコメントを拝見して、読後ずっと頭の中にモヤモヤ漂っていたものが整理された気がします。自分ではまとまりませんでした。
それにしても多くの読者にこれほど考察をさせる人物や物語を描き出すってすごいですね。
作者の他の作品も読んでみたくなりました。
2013/5/22(水) 午後 6:09 [ cotton ]
>cottonさん:古い記事にコメントいただけるのは大変嬉しいです。ありがとうございます。
おっしゃる通り、この本は読んだ後に人の感想を聞いてみる、自分の感想にフィードバックする、そしてモヤモヤが少し晴れるけど全部はやっぱり晴れない、そういうプロセスを読者に残すのが最大の特徴であり面白さだったと思います。
2013/5/22(水) 午後 8:06