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書評205 ニッコロ・マキアヴェッリ

「君主論」

佐々木毅訳(『マキアヴェッリと『君主論』』講談社学術文庫、1994年所収)

先日前半部だけ書評したが(書評204:『マキアヴェッリと『君主論』』)、今回は本編の方。
この本の前半に詳細な解説がついていることも魅力だが、佐々木毅の訳が一番信頼できる。


【著者紹介】
Niccolò Machiavelli (1469―1527年) イタリア、ルネサンス期の政治思想家。
少年時代より独学で古典教養を身につける。外交・内政・軍事の官僚政治家となり国内外で活躍、様々な型の君主と身近に接する機会を持つ。政変にともなって追放処分を受け、失意の日々に『君主論』を執筆、没後出版された。危機的状況を踏まえた激しい内容から権謀術数に長けた非道な思想家と呼ばれたが、19世紀になって、人間を冷徹な目で観察し科学的に認識した人物として高く評価される。


【本書の内容】
近代政治学の古典として名高い『君主論』。その著者マキアヴェッリは、都市国家が並び立つルネサンスのイタリアにあって、共和政のフィレンツェ市書記官として活躍。国際政治の荒波のなか、軍事、外交にわたり東奔西走の日々を送った。その豊かな体験を生かして権力の生態を踏まえた統治術として執筆した名著を、政治学の第一人者が全訳し解説する。


お薦め度:★★★★☆

【本書の感想】
マキアヴェッリの主著「君主論」の全訳だが、ポイントで佐々木毅の解説が挿入されているので、非常に理解しやすくなっている。
概要は前回の書評で触れたので、今回は本文を引用しながら、感じたことを書き留めておきたい。


まずは、世に有名な「マキアヴェリズム」の典型的な例から。

それにつけても注意しなければならないのは、人間は寵愛されるか、抹殺されるか、そのどちらかでなければならないということである。何故ならば、人間は些細な危害に対しては復讐するが、大きなそれに対しては復讐できないからである。それ故、人に危害を与える場合には、復讐を恐れなくて済むような仕方でしなければならない。(第3章、184項)

マキアヴェッリの、合理的で極端な考え方がよく表れている主張である。


それにしても、同朋市民を殺害したり、友人を裏切ったり、信義や慈悲心、宗教心を欠いていた人物を有徳であったと呼ぶことはできない。そしてこのような手段によって権力を得ることはできるが、栄光を得ることはできない。(第8章、220項)

『君主論』は倫理的な是非の視点から切り離して読むべき著作であるが、マキアヴェッリが全く倫理を欠いた人間ではなかったことを示す一文。


残酷な行為を行った君主が、その後市民に支持されるか否かは、「残酷さが濫用されたか上手に用いられたかによる」のだという。

上手に用いる場合とは――もし悪についても上手にということが許されるならば――自らの地位を安全ならしめる必要からそれを一度用い、その後はかかる行為を常用せず、可能な限り臣民の利益の擁護へと統治方針を転換する場合と言えよう。これに対して濫用とは最初残酷な行為は少ないが、時とともにそれを止めるどころかますます増大させる場合である。(第8章、221項)


またマキアヴェッリは、国民皆兵制(≒徴兵制)を唱えた近代最初の思想家であった。

今日のイタリアの破滅の原因はほかならぬ傭兵隊に長い間にわたって頼ってきた点に求められる。(第12章、239項)
ローマ帝国の破滅のそもそもの始まりを考えてみるならば、それは実にゴート人を傭兵にし始めたことにあったのである。……それゆえ次のような結論が導き出される。自己の軍隊を持たない限り、いかなる君主権も安泰ではなく、逆境にあって自らを防衛する能力に欠けるため完全に運命の意のままに引きずり回される、と。(第14章、250項)

マキアヴェッリは、傭兵が無責任かつ扱いにくい軍隊であり、君主が自分の軍隊(=国民軍)を編成することを強く主張している。それはそのまま、軍事には無関心で傭兵に任せきりにすることでイタリアの混乱を招いた、ルネサンス期の君主たちへの批判となっているのである。


それにしても、君主は仮に好意を得ることないとしても、憎悪を避けるような形で恐れられなければならない。……仮に誰かの血を流すことが必要な場合には、適切な正当化と明確な理由の下に行わなければならない。しかしなによりも他人の財産に手を出さないようにすべきである。(第17章、265項)

君主たるもの、市民の扱い方を心得るべき、ということだろう。


君主、特に新しい君主は、人間が良いと考える事柄に従ってすべて行動できるものではなく、権力を維持するためには信義に背き、慈悲心に反し、人間性に逆らい、宗教に違反した行為をしばしばせざるをえない、ということを知っておかなければならない。(第18章、271項)

この文章がマキアヴェッリの思想を最もよく表しているかもしれない。
マキアヴェッリは政治を宗教・倫理から切り離したことで近代政治思想のパイオニアと呼ばれるが、マキアヴェッリ自身に倫理感がなかったわけではなく、権力者たるもの、良い統治を存続させるためには、ある状況下では倫理に反した行為も辞さない覚悟を持つべきだ、と言っていたのだ。
 

閉じる コメント(16)

はじめまして

大変興味深く読ませて頂きました。

マキャベリを改めて読む事は多分一生ないと思うので、このblogを読まなければ受験期の知識のまま、軽く流していたことでしょう。

ありがとうございます。

2010/7/23(金) 午前 6:00 みこぴょん

これ、非常に読みたいんですよね〜(><)
・・・でもまだ、「論語」関連の本が終わってないので、
手をつけられません・・・。
あ〜!!!非常に読みたくなってきちゃいました〜!

2010/7/23(金) 午前 10:49 ビール大好きあつぴ

マキャベリのいろいろな面を垣間見れました。
この時期にあって、宗教とそこから派生する倫理感のくびきに縛られることなく自由な発想ができ、それを表現できたという点で稀有な存在だったということでしょうか。
当時にあっては、宗教オンチの現在の日本人の感覚では理解できない程センセーショナルな内容だったのでしょうね。

2010/7/24(土) 午前 11:53 オブ兵部

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マキャヴェリを再読したような気持ちになりました!ポチ!
古い記事ですが、TBさせてくださいませ。
次に読むときは佐々木毅訳ですね(笑)

2010/7/25(日) 午前 5:16 KING王

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>みこぴょんさん:初めまして、ご訪問&コメントありがとうございました!
私も学生時代には宿題のまま放置してしまっていたので、何らかの機会に読まなければ、と思っていたところです。
また遊びにいらしてくださいね^^

2010/7/26(月) 午前 0:42 大三元

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>あつぴさん:え、『論語』読んでらっしゃるのですか!そっちの方がよほどすごいですね^^;
是非是非、そちらの感想もお聞きしたいです!感想記事お待ちしています^^

2010/7/26(月) 午前 0:45 大三元

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>内緒さん:学生時代に読まれたのですか、さすが!
私は今回が初読でした。確かに、現在の私たちが置かれている日本の状況からすると「う〜ん」と思うところはありますけれど、佐々木毅の述べているように、群雄割拠のイタリア戦国時代にあって、倫理観を保ちながら君主の成すべきことを主張したマキアヴェッリはやはりすごかったと思います。

2010/7/26(月) 午前 0:52 大三元

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>オブ兵部さん:おっしゃる通りだと思います。現代の日本人からしたら疑問符がつく部分であっても、近代政治の本質を突いている主張も多く、結構ハッとさせられる部分も多いです。
ブレまくっている民主党にも、権力の何たるかを勉強してもらいたいものです。

2010/7/26(月) 午前 0:58 大三元

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>KING王さん:トラバ&ポチありがとうございます!
佐々木毅訳としては、同じ講談社学術文庫版でただの全訳版と佐々木による解説つき版がありますので、断然本書の解説つき版の方をお薦めします!

2010/7/26(月) 午前 1:09 大三元

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ぼくも最近読みましたけれど、学識のあるひとは目の付け所も違うし、それについての見解にも深いものがあるものだ、と大げさに言えば厭世的になりました。

2012/12/9(日) 午後 4:59 蓮

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>蓮さん:古い記事にコメントありがとうございます。
マキアヴェッリを読まれたとのこと、私と読書範囲がかぶる人を見つけるのはなかなか難しいので、嬉しいです。
私など到底及びませんが、佐々木毅などの解説・分析は非常に面白いですので、佐々木やその弟子の新書なんかもオススメです。

2012/12/9(日) 午後 9:42 大三元

こちらにも同様にTB致します。
こちらも同様に、内容が直接的に関連してないので恐縮ですが・・・・(ーー;A)。



懐かしいですね。これらの名言は前ブログで全て網羅してましたよ。誤ってブログを消してしまったのが悔やまれます・・・・・(T_T)。


そうなのです。もっとマキアヴェリの思想の深い根底の部分を捉えるべきなのですが。

マキアヴェリズムと言うと、決まって「目的の為には手段を選ばない考え方」「目的がどんな汚い手段をも正当化する」などと言った、捻じ曲がった認識をされています。

マキアヴェリはどんな時でも、のべつ幕なしに、人を騙したり、残酷な事をしても構わないなんて、一言も言ってないのにね・・・・・(ーー|||)。

2013/11/7(木) 午前 11:47 ZODIAC12

これらの他にも、

「君主はライオンの腕力と、狐の狡猾さを併せ持っているべきである。」

「君主はあらゆる美徳を本当に全て具えている必要はない。
ただ、具えていると思わせるように振る舞うべきである。」

「君主は何が何でも、絶対に信義を守り通さねばならない事はなく、それを固守しようとすると、却って不利益となってしまう場合には、必ずしも守り通す必要はない。
信義を破る口実などいくらでもある。」

とか。

2013/11/7(木) 午前 11:47 ZODIAC12

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>ZODIACさん:トラバありがとうございました。マキアヴェッリの箴言は、切れ味鋭くわかり易いのですが、『君主論』がそうであるようにある前提を置いている場合が多いので、塩野七生の『語録』のように部分部分を切り取って文脈を省いてしまうのはちょっと微妙ですよね。

2013/11/10(日) 午後 6:46 大三元

先ほど私も『君主論』についての記事を投稿いたしました。

近代において騒がれたほど過激でないな、というのが私の印象でした。もちろん、現代の常識からすれば、ですが。

追伸
友だち登録をしていただけますでしょうか。大三元様のブログに「友だち登録欄」が見当たらないので。

2014/2/16(日) 午後 3:36 [ - ]

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>Solomonさん:おっしゃる通り、マキアヴェッリのすごさは、あの時代において最初に政治を宗教・倫理から切り離したことだと思います。今読むと当たり前に感じることも、時代背景を考えながら読むと全然違いますね。
登録もしておきましたので、よろしくお願いします。

2014/2/17(月) 午前 2:38 大三元

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