「My Best Books 2010」人文・社会科学部門さあ、今年もこの季節になりました。2010年に読んだ本を、「小説・評論部門」と「人文・社会科学部門」のそれぞれで10冊ずつランキングする恒例企画、「My Best Books 2010」です! 正直、今年はちょっと物足りなさが残る年でした。 ブログを始めてから読了冊数が最も少なくなり、★5つの本は一冊もありませんでした。もっとも、★5つの基準はそれだけ厳しくしているのですが。 それでも、積年の宿題であった谷崎潤一郎『細雪』やマキアヴェッリ『君主論』を読み終えることができたのは大収穫でしたね。 今日は人文・社会科学部門の10冊を発表します。 第1位 F.A.ハイエク『市場・知識・自由――自由主義の経済思想』田中真晴・田中秀夫編訳(ミネルヴァ書房、1986年) リバタリアニズムの祖とされ、何かと毀誉褒貶の激しいハイエク。しかし彼の著作をまともに読んでみると、一般にイメージされる市場原理主義者としての側面だけではなく、視野の広い思想家であったことがわかる。 理性の限界を認識する謙虚な姿勢、市場システムが反人間的な性格を持つことへの自覚、「現場の知識」を尊重するための市場経済…などの論点を含む本書は、今改めて市場の意義を考えてみる時に格好のテキストと言えよう。 第2位 佐々木毅『マキアヴェッリと『君主論』』(講談社学術文庫、1994年) 政治学の古典中の古典、マキアヴェッリ「君主論」を読むことができたのは大きな収穫だった。特に本書は、現代政治学の碩学・佐々木毅が訳した「君主論」とともに、佐々木による解説及びマキアヴェッリ小伝が収録されているのがありがたい。 本書を読んで新鮮だったのは、「マキアヴェリズム」に象徴される冷酷な君主主義者というイメージが強いマキアヴェッリが、ある特定の状況下では君主制よりも共和制を選ぶべきだ、と主張しているエピソード。マキアヴェッリの真髄が徹底した現実主義だったことの証左である。 第3位 坂本多加雄『明治国家の建設1871-1890』<日本の近代2>(中央公論社、1999年) 4年間も書評をほったらかしていた本。再読を機に残りを書評してみたが、やっぱり坂本多加雄は面白い。“ヒストリーはストーリーである”という格言を、「ストーリーの競合がヒストリーなのだ」と発展的に解釈し、実践してみせた功績は大きい。明治創成期の通史としては3本の指に入るであろう名著である。 坂本の著書はほとんど読了してしまったが、もう新作を読めないのが寂しい。 第4位 松本仁一『アフリカ・レポート――壊れる国々、生きる人々』(岩波新書、2008年) 長年アフリカと付き合ってきた記者による、良質なルポタージュ。アフリカの現状を冷静に見つめ、等身大のまま文章に書き起こす手腕は、さすがベテランと思わせるものがある。 アフリカの破綻国家をめぐる問題は根が深過ぎる問題だけに、ミラクルを起こせるような抜本的解決策はない。アフリカの人々が、自分たちの手で地道な努力を重ねるしかないのだ。是非続編も期待したい。 第5位 池内恵『中東 危機の震源を読む』(新潮選書、2009年)その1/その2 気鋭のイスラーム研究者による時評集。昨年度のサントリー学芸賞を受賞した『イスラーム世界の論じ方』は、イスラーム問題を考える際の分析枠組みを提示したものだったが、本書では池内がそれを使って実際の情勢を分析してみせている。 日本人は歴史的にイスラームや中東地域との接触が少ないため、どうしても先入観で考えてしまいがちだ。池内は色眼鏡を通さずに現実を把握し、そこに潜む構造的な問題を鮮やかに炙り出すことに成功している。今後のイスラーム世界を考える上で、今や池内の著作は必読と言っていいだろう。 第6位 堂目卓生『アダム・スミス――『道徳感情論』と『国富論』の世界』(中公新書、2008年) これもサントリー学芸賞受賞作(08年)で、経済学の始祖アダム・スミスの思想を再構成した新書である。スミスにしろ1位に選んだハイエクにしろ、市場の意義を強調した思想家は、昨今の格差問題を受けて評判が悪い。ところが、彼らの著作をちゃんと読んでみれば、世間で流布しているイメージよりも豊かな思索の跡が見てとれるはずだ。 スミスがなぜ「見えざる手」を重視したのか、その背後にはどんな信念があったのか、今こそ顧みる必要があるだろう。 第7位 長嶺超輝『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書、2007年) 裁判官の肉声を収録し、裁判傍聴ブームの火付け役の一端を担った一冊。タイトル通り思わず笑ってしまう一言もあれば、裁判官の悲哀を感じる発言、ピリッと皮肉を効かせた説教、泣かせる判決文もある。 この手の言葉は、解説するより読んでもらった方が早い。ということで書評も引用文を多くしてみた。 第8位 毛利敏彦『明治六年政変』(中公新書、1979年) 昨年司馬遼太郎『翔ぶが如く』を読んで、明治六年政変と西南戦争のあたりの史実をもっと詳しく知りたいと思って手に取った。 一次史料を使って「史実にこだわった」という著者の言とは裏腹に、想像力を駆使した論争の書となっている。それでも、明治六年政変周辺の研究を一般的に紹介した学術書は少ないため重宝するのかもしれない。もっと研究の蓄積が欲しい分野だ。 第9位 佐々木敦『ニッポンの思想』(講談社現代新書、2009年) 80年代〜現在までのポストモダン系の論客を取り上げて、彼らがなぜ売れたか/売れなくなったかを論じている。思想そのものの分析はそこまで深くないし、思想と時代の関わりが掘り下げられているわけでもないが、「ニューアカ」の時代を知らない私たちの世代がその雰囲気を知るにはいいかもしれない。 結局、「東浩紀の一人勝ち」構造の先は見えてこないが、最近の東の活動を見ていると、希望がないわけでもなさそうだ。 第10位 ジョージ・フリードマン『100年予測――世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図』櫻井祐子訳(早川書房、2009年) 地政学の観点から、100年後の世界を予測するというもの。荒唐無稽だとか、そんなことをして意味があるのかとか、言い出したらキリがないけど、そういうものだと割り切って読めば面白い部分もある。 例えば、数十年後には中国は地方政権が乱立するという予測は、あながち当たっているかも。今年中国の都市部と地方を同時に旅行してみて、やっぱり中国は一つの国民国家としては大き過ぎると感じたので。 |
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『ニッポンの思想』しか読んでいません…^^;
いや,少なからずショックです。今年出た本ばかりではないのに,むしろ何年か前に出された本が多いのに,読んでいないものばかりであるとは!
なんだか最近ちゃんと本を読んでいないのではないかということに気づかされました。
2010/12/24(金) 午前 11:38
この記事を読んだだけで、、本を知っている気分なっている自分が怖いです!!(笑)
でも、、刺激になります。。。
来年もよろしくお願いします♪
(*^-^*)/~
2010/12/24(金) 午後 8:20
>NONAJUNさん:いや〜私自身も古い本ばかりで…2010年に出た本も読んだことは読んだんですが、当たりはありませんでした。ランキングも、上位になればなるほど古くなるという(笑)。もう少し選書眼を磨きたいものです。
2010/12/24(金) 午後 11:44
>さんぽさん:今年はいつもご訪問&コメントありがとうございました。また来年もよろしくです!
2010/12/24(金) 午後 11:45
恒例の記事、お待ちしておりました。
是非私の来年の読書の参考にさせていただきます。
佐々木毅版『君主論』は以前からずっと気になっています。
今年も沢山の交流をさせていただき、本当にありがとうございました。
来年もどうぞ宜しくお願い致します。
2010/12/25(土) 午後 11:57
おはようございます。わっ、ランキングだ〜♪「明治六年政変」と「明治国家の建設」は読んでみたいです^^
いつも不思議に思うのですが、大三元さんの洋の内外を問わない旺盛な興味はどこから来ているのかな〜?と。紀元前記事でそのあたりは明らかになってくるのでしょうか?そちらも楽しみにしています☆
2010/12/26(日) 午前 8:43
>KING王さん:今年もお世話になりました。KING王さんの読書記事は、数少ない社会科学・古典文学の感想を読めるので楽しみにしています。『君主論』(とその佐々木毅による解説)の感想もお待ちしていますね。
来年もよろしくお願いします!
2010/12/26(日) 午後 10:35
>あんごさん:ちょっとあんごさんより遅れてしまいましたが、ランキング記事、お楽しみいただけましたでしょうか?
江藤ファンのあんごさんには、江藤贔屓の『明治六年政変』はいいかもしれませんね。
“紀元前”は結構先になってしまうかもしれませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。
2010/12/26(日) 午後 11:27
今年も恒例のこの時期になったのですね。早いな!
しかも、二つの部門のTOP10とは、20冊は読んでいるということですね。上位に経済学者が入っていてうれしいです。訳書は気を付けてください。違約・意訳があります。解説書も研究者独自の論点が入りますから、混じりけが多すぎて実物と完全に異なる場合が多いですから。特に研究書に関しては審査する「目」が皆無に等しいですからw
2010/12/27(月) 午前 2:15
>コウジさん:訳書の違訳は、見分けるのが難しいですね。明らかに日本語としておかしくないと、見過ごしている可能性大です。そういう意味では、翻訳者が信頼できるかどうかも選書のポイントにしています。解説書も同様ですね。
2010/12/29(水) 午前 1:05
ハイエクが1位とは凄いですね。経済学書から離れて久しい身としては、尊敬する限りです。ただ、20世紀初頭の経済学者は科学者というだけでなく思想者の色彩も帯びていて、読み物としても楽しめた本も多かったように記憶しています。
2011/1/1(土) 午後 5:35
>りぼんさん:トラバありがとうございました。
ハイエクにしろアダム・スミスにしろ、彼らの思想の一部を過大視して批判する傾向がありますが、彼らの思想はもっと射程が広く、思考も深かったことを知る必要がありますね。
2011/1/3(月) 午後 10:41