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今年の収穫は何と言っても谷崎の『細雪』!何が面白いわけでもないけど、だからこそいいんです。 読了冊数や質の面では例年に及ばないかもしれませんが、第10位に選んだサッカー・ドキュメンタリーや物理学の入門書など、これまで読んだことがないジャンルにも挑戦した一年でしたね。 第1位 谷崎潤一郎『細雪』(新潮文庫、全3冊、1955年) 長年の宿題になっていた谷崎の最高傑作、遂に読了。評判通り良い小説だった。大阪の名家4人姉妹の日常が描かれるだけなので、ストーリーで読ませるタイプの小説ではない。書評104:『春琴抄』のこってりした文体などとは全く違った優美かつ流麗な文章と、滑らかな大阪弁による会話がこの大作の醍醐味である。 毎朝の通勤電車で読んでおり、それが文庫本通算1,000ページ続いたので、古き良きNHKの朝ドラを毎朝観ているような感覚を覚えた。 第2位 アリステア・マクラウド『冬の犬』中野恵津子訳(新潮クレスト・ブックス、2004年) 文字通り「珠玉の短篇集」と言っていいだろう。その作風は、同じカナダの作家エリザベス・ギルバートの書評144:『巡礼者たち』を想起させる。 ここで描かれるのは、厳冬の地で密やかに暮らす人々と、そのシンプルで静謐な人生だ。彼らは動物と共に生き、途絶えそうになるゲール語を守り続ける。この本の項を繰る読者のまぶたには、しんしんと降り積もる雪が映るに違いない。 第3位 吉田修一『悪人』(朝日文庫、全2冊、2009年) 毎日出版文化賞と大仏次郎賞をダブル受賞した話題作。吉田修一の最高傑作の呼び声も高い。 本当の“悪人”は誰だったのか、というのがメインテーマと捉えられがちだが、それ以上に様々な要素を含んだ作品。文章は淡々としているが、読後にこれだけ色々考えさせる小説も珍しい。お薦めというより、他人の感想を聞いてみたくなる小説である。 今年公開された映画版もよかったけれど、映画を観た人には是非原作も読んで、感想を聞かせて欲しい。 第4位 保坂和志『小説の自由』(中公文庫、2010年) 今年最大の意外な収穫はこの本だったかもしれない。保坂和志の小説は読んだことがなく、このエッセイも他人から薦められて手に取った程度だったが、どっこい面白かった。 読者は、既存の自分の世界観の枠で小説を解釈してはならない。不可解な小説を無理やり意味づけるのではなく、不可解なまま受け入れなければならない。反合理主義的なそのスタンスは、小説に対して徹底的に誠実であればこそだろう。 第5位 司馬遼太郎「故郷忘じがたく候」(『故郷忘じがたく候』文春文庫[新装版]、2004年所収) 昨年「My Best Books 2009」の第2位に選んだ書評177:『草原の記』に続き、今年も司馬遼太郎の短いエッセイがランクイン。 どうも、司馬の文章はこういう作品に最も適しているらしい。想像を絶するほどの人間の苦悩を、適度な距離感を保ちつつも圧倒的な共感を以って描いた本篇は、司馬を歴史長篇ものだけの作家と思っている人にも是非読んで欲しいと思う。 第6位 ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』小川高義訳(新潮文庫、2003年) 言わずと知れたベストセラー、評判通りの良作であった。 インド系移民社会を描いているように見えて、文明間、男女間、ひいては人間関係に普遍的に存在する「違和感」を描写してみせた手腕はすごい。これを長篇にしたら更に重い読後感が得られるだろうと思って、長篇『その名にちなんで』を読むのを楽しみにしている。 第7位 イアン・マキューアン『贖罪』小山太一訳(新潮文庫、全2冊、2008年) 現代英米文学の巨匠による大作である。ヴァージニア・ウルフを思わせる優美でまとわりつくような文体は、古き良き古典文学を想起させる。ところが、前半のじれったい物語から怒涛の如く展開する後半に至ると、圧巻の結末へ一気に引き込まれる。 主人公は、罪を犯した少女でも、運命に引き裂かれた恋人でもなかった。“小説”そのものだったのである。 第8位 恩田陸『蒲公英草紙――常野物語』(集英社文庫、2008年) 書評151:『光の帝国』に続く「常野物語」シリーズの2作目にあたる。 これも期待通り、優しく切ないおとぎ話に仕上がっており、恩田の魅力を存分に生かした作品と言ってよい。『光の帝国』でも感じたことだが、この恩田の作風に作品をまとめる構成力が加われば、文句なく3本の指に入る現代作家だと思う。 第3作の書評206:『エンド・ゲーム』でスリラーな一面も見せた「常野物語」、今後も期待してます。 第9位 村上春樹『もし僕らの言葉がウィスキーであったなら』(新潮文庫、2002年) 何回も書いているが私は村上春樹が得意ではない。でもエッセイは結構好きになってきた。 これは村上がシングル・モルトの二大聖地、スコットランド・アイラ島とアイルランドを訪ねた旅行記で、ウィスキー好きの一人としてとても楽しんで読むことができた。村上夫人が撮った、落ち着いたアイルランドの写真も併載されていて好感が持てる。 村上春樹という人がやっとわかってきた気がする。 第10位 木村元彦『オシムの言葉』(集英社文庫、2008年) 今年は何と言ってもサッカーW杯の年だった。しかし開幕前の岡田ジャパンの体たらくに見るに見かねて手に取ったのが、前監督であるイビツァ・オシムに関するルポだった。 複雑な歴史を持つユーゴスラビアに生まれたオシムは、厳しい環境の中で持ち前の精神力を磨き上げ、特異な指導者となった。 イビツァ・オシムとは、素晴らしく常識的で、気丈で、皮肉屋で、哲学的で、情に厚い指導者だったのである。 |
My Best Books
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一般書ベスト10 楽しみに待ってました^^)
この中で読んだのは『悪人』だけですが・・・
オシムの本は、ほかでもずいぶん評判いいですよね、興味しんしん・・
「贖罪」は映画があまりに良作だったので、満足してしまいましたが
原作は大分、タッチが違うようですね・・・長編を読む時間を作らねば
と思います。
ラヒリもよさそうです。
2010/12/29(水) 午前 10:41 [ pilopilo3658 ]
『悪人』と『小説の自由』はぜひ読んでみたいと思いました。…というか,読まねば。。。
2010/12/29(水) 午後 0:12
「細雪」は図書館で借りてきたものの
ホンの数ページで挫折いたしました・・・(汗)
私の読書癖からしてやはり短編読みきりが
相応しいのかなと思っています(^^;)
2010/12/29(水) 午後 4:58 [ 名無しの権兵衛 ]
>あおちゃんさん:オシム本は、意外な収穫でしたね。『贖罪』は、『イギリス人の患者』と同じような、ストーリーよりも映像が先に立つような小説だったので、映画化されるのもわかります。映画も楽しみです。
ラヒリも、クレスト・ブックスが良質な小説を発掘することの代名詞ですね。
2010/12/30(木) 午前 10:21
>NONAJUNさん:是非、NONAJUNさんには『小説の自由』を読んでいただきたいですね。小説を「読む」ことのあり方を、真摯に考えた仕事です。
2010/12/30(木) 午前 10:25
>リッチーさん:私も、一昨年は『細雪』を10ページそこそこで挫折したクチです(笑)。でも、入り込んでしまえばこっちのものですよ。
2010/12/30(木) 午前 10:26
ベスト10、楽しませていただきました!
エリザベス・ギルバート、気になりつつも「読めるかな…」と心配だったのですが、マクラウドが読める人なら読めそうですね。ギルバートの記事も拝見して、ますます読みたくなってしまいました!
細雪も挑戦してみたいのですが、どうなることやら…
2010/12/30(木) 午後 1:59 [ larchtree ]
お待ちしてました!ベスト記事〜♪『細雪』は大三元さんの記事を読むまであまり興味がなかったのですが…、にわかに「読んでみたい本」になってしまいました^^司馬先生の『故郷〜』もぜひ読んでみたい1冊です。『オシムの言葉』は当りでしたね。大三元さんにはぜひユーゴ・サッカー三部作の前2作も読んでいただきたいなぁとこっそり思っています☆
2010/12/30(木) 午後 2:09
こちらからもTBさせて下さいね^^
2010/12/30(木) 午後 2:10
>larchtreeさん:エリザベス・ギルバートはいいですよ、江国香織も絶賛してました。ストーリーの起伏で読ませるタイプの小説ではないので、読者を選ぶかもしれませんが、人生の機微を淡く描いた秀作だと思います。
『細雪』は、一気に読むというより春に向けてだらだらと読むのがいいかもしれません。花見の時期に花見の場面を読めたら最高ですね。
2010/12/30(木) 午後 4:55
>あんごさん:『細雪』は読者を選ぶかもしれませんが、あれはあれで一つの金字塔だということは誰もが認めるのではないでしょうか。
『オシムの言葉』は、あんごさんのブログで知ったような気がします。良書のご紹介、ありがとうございました。後の2部作も読むしかありませんね!
2010/12/30(木) 午後 4:57
>あんごさん:トラバありがとうございます!
2010/12/30(木) 午後 4:57
『細雪』の1位にも感心しました。あたしはもう、谷崎を読む気力がないかも・・。ランクインしている、マクラウド、ラヒリ、マキューアンにはハズレはありませんね。あたしも大好きな作家たちです。
今年もよろしくお願いいたします。
2011/1/1(土) 午後 5:37
>りぼんさん:最近の海外作家に関しては、ほとんどりぼんさんに教えていただいていると言っても過言ではないかもしれません。今年もたくさんの良書のご紹介、よろしくお願いします。
2011/1/3(月) 午後 10:43
このなかで、私が読んだのは「悪人」と「停電の夜に」だけ。
「悪人」は私も去年のベスト5に入ってますよ。
翻訳ものはずっと苦手意識が強かったんですが、最近めざめまして。
「贖罪」の主人公は、“小説そのもの”って?
なんだろう、すっごく惹かれますぅ。
2011/11/22(火) 午後 9:16 [ わかめ ]
>わかめさん:『悪人』はよかったですね。私の中では新しいタイプの小説でした。
私も、以前は海外文学が苦手でした。面白いな、と思い始めたのは古典ならジッド、現代ならカズオ・イシグロを読んでからです。『贖罪』は小説読みなら惹かれるテーマだと思います。特に、文学少女のような人にはたまらないと思います。
2011/11/24(木) 午後 4:31
おおっ、
ぜったい「贖罪」読みまっす!!
2011/11/24(木) 午後 8:48 [ わかめ ]
>わかめさん:読まれたら、是非感想もお聞かせ下さい!
2011/11/26(土) 午後 9:54