「2010年・この3冊」展望年末になると、各主要新聞の書評委員が「今年の3冊」を選ぶのが恒例になっていますが、流行に疎い私としては毎年重宝しています。これらの記事をまとめるのも先日の「My Best Books」と同様、毎年恒例となっているので、やってみましょう。
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人文・社会科学分野では、歴史関係の著作が目についた。
最も気になったのは渡辺浩『日本政治思想史――十七〜十九世紀』(東京大学出版会)で、田中優子は「維新に至る二七〇年間の武士の歴史として読むと、国はどうあるべきか、人はどう生きるべきか、真剣に考え抜いた彼らの生身の姿が浮かび上がってくる」と絶賛。
ジョン・W・ダワーの新刊『昭和――戦争と平和の日本』(みすず書房)が出ていたのは知らなかった。国際関係、社会経済史、民衆史、メディアや映像論など、多様なジャンルを自在に論じながら「昭和という時代の多面的な歴史に光を当てた」とは姜尚中の評。
五味文彦をして「感無量」と言わしめたシリーズの第一巻が大津透『神話から歴史へ 天皇の歴史01巻』(講談社)である。天皇を実証的に描くことに成功し、「日本の歴史」に続く好シリーズとなるか。
渡辺京二『黒船前夜――ロシア・アイヌ・日本の三国志』(洋泉社)を挙げた評者も多い。ペリーの黒船が来航するはるか以前からあった、ロシア・日本・アイヌが入り乱れての北方史をありありと描き出しているというから楽しみ。
歴史関係以外では、経済と哲学、ノンフィクションで一冊ずつ。
リーマン・ショックの傷跡は、未だ至るところに残っている。アンドリュー・ロス・ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル 上・下』(早川書房)は、今回の金融危機の当事者たちに対する詳細なインタビューに基づいた危機の記録だが、読み物としても面白いという。植田和男や伊東光晴ら多くの経済学者が推している。
書評218:『これからの「正義」の話をしよう』でいま話題の、マイケル・サンデルの師匠筋にあたるチャールズ・テイラーの大著が『自我の源泉――近代的アイデンティティの形成』(名古屋大学出版会)である。高価なので古本待ちだが、いずれ読まなければならないだろうな。
異色なのが、江上剛が挙げた楊海英『墓標なき草原』(岩波書店、全2冊)だ。文化大革命時代の中国共産党によるモンゴル族虐殺と内モンゴル弾圧を、生き残った人々の証言に基づいてまとめたもの。人権活動家の劉暁波がノーベル平和賞を受け、この著者は今年の司馬遼太郎賞を受賞した。書評177:『草原の記』を書いた司馬はどんな思いだろうか――。
続いて日本文学関係。
斎藤環ら複数人が挙げたのが、昨年度の谷崎潤一郎賞を受賞した阿部和重『ピストルズ』(講談社)で、神町サーガというシリーズの第二部らしい。大長編らしいので、文庫待ちかな。
中島京子『小さいおうち』(文藝春秋)を挙げた選者も多かった。女中の手記のかたちで、昭和初期から戦後にかけての東京のサラリーマン家庭の暮らしが描かれ、後味の良さが格別な小説とのこと。
丸谷才一/湯川豊『文学のレッスン』(新潮社)は、丸谷が自らの文学観を徹底的に披瀝したインタビュー本。丸谷フリークとしては外せない。
川本三郎を泣かせたというのが角田光代『ひそやかな花園』(毎日新聞社)である。「近年、新しい家族のあり方を追い求めているこの作家のなかでも出色」。
最後に海外文学関係。
毎年質の高い小説の翻訳を続けている新潮クレスト・ブックスでは、江國香織がウェルズ・タワー『奪い尽くされ、焼き尽くされ』とミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』の2冊を挙げている。どちらもごく普通の人々をやさしく描いた現代アメリカ小説。ミランダの手にかかれば「孤独も貝殻とかガラス玉とかお菓子みたいに可憐に見える」のだという。井上荒野が挙げたアリス・マンロー『小説のように』も、以前から狙っている作家だが読むのが追いつかない。
「世界最高の短編作家」の呼び声が高いウィリアム・トレヴァーの『アイルランド・ストーリーズ』(国書刊行会)は、蜂飼耳が「生の諸相に対する観察は鋭く、洞察は深くて、運びにはこっくりとした味があり、よい読書をしたという読後感が残る」と評す一冊。
アフリカ文学が推されたのも昨年の特徴で、2冊挙げておく。江國香織が「丁寧な手つきが印象的な一冊で、収められた七編すべてが楽しい」と評したのがラッタウット・ラープチャルーンサップ『観光』(ハヤカワepi文庫)である。
池澤夏樹、斎藤環が揃って挙げたのがチママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『半分のぼった黄色い太陽』(河出書房新社)。60年代後半に起きたビアフラ大虐殺を背景として展開する真摯(しんし)なラブストーリーであり、愛の物語を軸としながら現実のアフリカをも伝える構えの大きな傑作だという。
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今年の読書目標は先日掲げた通りなので、ここに挙げたものは「今年読む予定の本」ではなく、「今年買う予定の本」と言った方が良いかもしれません(笑)。
お読みになった方、感想をお聞かせください。
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私の予定には一つも入っていない(^_^;)
とりあえずはドストエフスキーの「白痴」と「未成年」を今年中に制覇したいと思っています。
2011/1/11(火) 午前 0:45 [ kohrya ]
「半分のぼった黄色い太陽」は新聞の書評を読んで興味が湧きました^^今年は弱点の人文・社会科学分野を読んでみたいなーと狙っているもので大三元さんの書評を頼み大にしております^^(他力本願…)よろしくお願いします!
2011/1/11(火) 午後 10:15
うわぁ!全部読みたい!でも読みたい本がありすぎて追いつかない・・・
今年は大三元さんの書評で厳選読書をしたいと思います><
2011/1/11(火) 午後 10:23 [ nama2303 ]
>こーりゃさん:ドストエフスキーですか〜、これまた重いですね。私にとって、ドストは鬼門ですね、あらゆる意味で。いつか再挑戦してみたいものです。
2011/1/13(木) 午前 1:06
>あんごさん:昨年はアフリカ文学の翻訳がたくさん出た年だったということを、この年末特集で知りました。読んでみたいですね。
おお、あんごさんが人文・社会科学分野を読まれるとは!是非、ご感想をお聞かせください!(宿題ですよ^^)
2011/1/13(木) 午前 1:15
>namaさん:私も、世の中に読みたい本が多すぎるのにスピードが追いつかず、困りながら毎年この記事を書いています。当初は「読む予定」だったのに今や「買う予定」ですから(笑)
2011/1/13(木) 午前 1:17
大三元さんのブログから、読みたいなと思ったものを自分の手帳に書き写してます。読み終わらないうちに新しい手帳に切り替わってしまうのが悲しい・・・。
2011/1/13(木) 午前 9:09
>かえるさん:そんなことまでしていただいて、ブロガー冥利に尽きます。ありがとうございます。
私は、参考にしているブログや書評サイトで気になった本は、ケータイのメモ機能に書き込んでいます。ブックオフでもすぐ探せるように(笑)。
2011/1/15(土) 午後 0:54
文学関係、どれも面白そうですね!ファンとしては丸谷・湯川氏の『文学のレッスン』、そしてチママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『半分のぼった黄色い太陽』に私的には白羽の矢を!チママンダさんは、一昨年の『アメリカにいるきみ』が今も印象深いです!この2冊は必読、大三元情報は信頼度抜群です、感謝!
2011/1/16(日) 午前 5:13 [ アズライト ]
>電池切れさん:丸谷ファンとしては、『文学のレッスン』は外せませんね。以前読んだ『思考のレッスン』も、丸谷にしては珍しく自分のことを赤裸々に書いていた本ですが、これはさらに面白そうです。
アフリカ文学はまだ読んだことがないので、今年も色々教えて下さい!
2011/1/16(日) 午後 10:47