読書のあしあと

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書評219 山崎豊子

『沈まぬ太陽』その1

(新潮文庫、全5冊、2002年)

昨年映画化された本書の舞台は、言わずと知れた日本航空(JAL)。
以前ある人から薦めていただき、宿題になっていました。


【著者紹介】
やまさき・とよこ (1924年―) 小説家。
大阪市生れ、京都女子大学国文科卒。毎日新聞に勤務するかたわら小説を書きはじめ、1958年『花のれん』による直木賞受賞を機に退社して作家生活に入る。鋭い社会性が話題を呼ぶ一方、資料をそのまま作品に反映させる傾向があるためしばしば盗作を疑われた。2009年『運命の人』で毎日出版文化賞受賞。
他の主著に『白い巨塔』『大地の子』『二つの祖国』『沈まぬ太陽』など。


【本書のあらすじ】
航空史上最大のジャンボ機墜落事故、犠牲者は520名――。御巣鷹山の墜落事故は、「空の安全」よりも利潤追求を優先させる魑魅魍魎が巣食う航空会社では、起こるべくして起きた事故だった。その凄絶な遺体検視、事故原因の究明、非情な補償交渉に居合わせた恩地元は、エリートとして将来を嘱望されながら、10年に及んで中近東やアフリカの僻地を盥回しにされた経験を持っていた。人命をあずかる企業の非情、その不条理に不屈の闘いを挑んだ男の運命――。人間の真実を問う壮大なドラマが、いま幕を開ける!


お薦め度:★★★★☆

【本書の感想】

<全体の感想>
本書は、1985年に起きた日本航空123便墜落事故を題材とし、関係者に取材しながら事故の背景と航空会社の腐敗の構造に迫った力作である。

事故の背景を緻密に描こうとした実録的部分と、主人公の奮闘を描いた壮観なシナリオを両立させようとしているため、文庫本5冊、総ページ数約2000ページ以上に及ぶ大作となっている。

文章は読み易く内容明快であるためノンフィクションのように読みがちだが、あくまでも小説であることに注意しなければならない。本書の内容に疑義を呈するレビューもそれなりに見受けられる。
だがそれを差し引いても、あらゆるサラリーマンにとって熱い共感を呼ぶ書であることは間違いないだろう。


<サラリーマンの信念、かくありき>
本書の主人公・恩地元のモデルは、日本航空の労働組合委員長だった故小倉寛太郎氏だと言われる。
前半2巻では、恩地が労働組合委員長として社員の労働条件向上と“空の安全”のために奮闘する姿と、それとは対照的に国民航空(=日本航空がモデル)が如何にひどい会社かということが、これでもかと描かれている。

有名政治家や財界人の子弟、旧華族出身者の縁故採用などは当たり前だし、運輸省役人への賄賂や私腹を肥やすための裏金作りもまかり通る。経営陣の言うことを聞かない組合に対しては露骨な分断政策で応酬し、恩地はその正義感故にパキスタンのカラチ、イランのテヘラン、更には未就航地・ケニアのナイロビまで僻地をたらい回しにされていた。

こんなに前近代的なことをやっていたら、そりゃあ大赤字に大事故が起こってもおかしくないと思わされるエピソードが延々と続く。程度の差こそあれ、似たようなことがJALで本当にあったということだろう。


ところが、信じられない会社の仕打ちに対して気概を失わない、恩地の執念がすごい。例えば事務所さえないナイロビへ飛ばされたときのこと。(第2巻)
オフィスがないためホテルをオフィス代わりに事務用品を集め始めた恩地は、すぐに手元資金がなくなりそうになったため、東京本社に送金要求のテレックスを打ったが梨のつぶてだった。「資金難でネを上げるのを待っている」と会社の意図を読んだ恩地は、毎日お湯パスタと卵かけご飯で資金繰りする一方、1日2回「至急、送金されたし」と打ち続けるテレックス攻勢で徹底抗戦したというのである。

家族と離ればなれの暮らしが長く続き気が狂いそうになりながらも、自分についてきてくれた仲間への面目と、理不尽な会社に対する意地だけで持ち応える恩地の姿には、一人の人間として熱い共感を覚えざるを得ない。


<それは起こるべくして起こった事故だった>
国民航空の営利第一主義は、便数拡大のため整備・修理が不十分なまま飛行機を飛ばし続けることを要求した。“空の安全”を軽視した国民航空の航空機が世界各地で事故を起こし始めていた1985年、遂に御巣鷹山墜落事故が起こるのである。

犠牲者520人という航空史上最大の惨事を受けて、壮絶な遺体検屍、事故調査が始まり、恩地も遺族係として遺族の一人ひとりと向き合う。遺された者が、焼け残った肉片の中から、自分の肉親のひとかけらでも見つけて帰ろうと血なまこになって探す様子は、読むに耐えない。

恩地がかけがえのない肉親を失った遺族から罵倒されている頃、国民航空経営陣は事故の原因と責任を何とかうやむやにしようと新聞まで使って情報操作したというから、開いた口が塞がらない。
山崎の手によってデフォルメされているとはいえ、こんな人種がいるのかと目を疑ってしまう。

ただ、その中でも恩地をはじめとして、自分の生活を犠牲にしてまで遺族のフォローする人々や、正義感をもって事故原因の調査に身を賭した人々がいたことも確かである。
彼らの努力は報われるのか――書評2回目に続く。
 

閉じる コメント(22)

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なんという偶然!私もこの本、文庫本5冊を年末年始に読み耽っていました。恩地さんの生き方には深い感銘を受けるとともに、正義感を貫こうとする誠実な人間がああも虐げられる現実には、読んでいて苦しくなりました。アフリカ編では、恩地さんがカラチの空港で大雨の中で妻子を見送る場面では特に号泣しました。御巣鷹山編も壮絶でしたが、最後の会長室編も圧巻でしたね!続き楽しみにしています。

2011/1/19(水) 午前 4:57 [ ソフィー ] 返信する

こういう内容の本は今の自分にとっては思い入れが強すぎて、ちょっと読めないかもしれません、
☆だけさせて下さい。

2011/1/19(水) 午前 8:29 凛さ 返信する

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大三元さん、こんにちはー!
わたし沈まぬ太陽大好きなんです。高校生くらいのときにこの本を読んですごく感動したのを覚えています。事故の描写も忘れられないし、ナイロビ勤務のお話で新興国に憧れたり。懐かしくてまた読みたくなりました!

2011/1/19(水) 午後 7:48 Kimmi 返信する

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CIAエージェント、大学教授の顔ともうひとつ対日工作員の顔を持つジェラルド・カーティス。
だそうですが、どうなんでしょう。

2011/1/19(水) 午後 8:52 [ Renkonn ] 返信する

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>ペコスマイルさん:ポチありがとうございます!
この作品は泣きどころ満載というか、内容盛りだくさんなので、色んな感情がこみ上げてきますね。この作品を読んで難しく感じたのは、仕事上で自分の信念を貫くことと家族を大切にすることがトレード・オフの関係になっていたことです。これについては、その2で詳しく触れる予定です。

2011/1/20(木) 午前 7:26 大三元 返信する

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>こーりゃさん:確かに、寿命は縮まるかもしれませんね(笑)。でも『大地の子』くらいは読まないといけないな、と思っているのですが。

2011/1/20(木) 午前 7:27 大三元 返信する

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>内緒さん:そうですか、昔記事にされていたんですね。内緒さんにお薦めしていただいてから、ずっと宿題になっていた本なので、ようやく読み終えることができて肩の荷が下りた感じです。
個人的な感覚で言えば、恩地型の人間は、今も昔も少ないが必ずいる、と思っています。こういう生き方ができないからこそ、当時この小説に感動する人間がいたのだろうし、今も読み継がれているのがその証拠でしょう。

2011/1/20(木) 午前 7:30 大三元 返信する

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>内緒さん:cont.おっしゃるとおり、この作品はフィクションですから、事実をそのまま書いていないことは念頭に置いて読まなければなりません。(一部に資料をそのまま文章に組み込むことで盗作疑惑もあるようですが)
ただそれとは別に、個人的に気になったのが、山崎豊子特有の書き方なのか、人物造詣が類型的すぎることですね。このあたりは次回記事にしたいと思います。

2011/1/20(木) 午前 7:34 大三元 返信する

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>ソフィーさん:おお、すごい偶然ですね!私も11月末から足掛け2ヶ月でようやく読み終わりました。特に前半は、何の希望もない展開が続くだけに読むのが苦しいですね。後半は国見会長と恩地を応援しながら読むことができるだけ、楽と言えば楽だったかも。
そのあたりは次回記事にしますね。是非ソフィーさんの記事も読ませてください!

2011/1/20(木) 午前 7:42 大三元 返信する

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>凛さん:そうですか、ポチありがとうございます。プライベートな境遇は存じ上げませんが、こういう本ですので、海外に駐在されている方(とその家族)には、また違った感じ方があるのだろうと思います。

2011/1/20(木) 午前 7:45 大三元 返信する

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>Kimmiさん:そうですか、この本を高校生で・・・すごい高校生ですね(笑)。
でも社会人になった今読むと、また違う感想を持たれることと思います。実際の社会で働くということ、その中で自分の信念を貫くということ、その結果家族に起こることはどういうことか。考えさせられますね。

2011/1/20(木) 午前 7:47 大三元 返信する

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>Renkonさん:初めまして、ご訪問ありがとうございます。カーティスは、尊敬している政治学者の一人です。

2011/1/20(木) 午前 7:48 大三元 返信する

山崎豊子さんは、まったく手つかずなんですよね・・・。
読みたいと思いつつも、冊数の多さに二の足を踏んでました。
読みたいな〜、でも年度末は余裕がないな〜と・・・。

2011/1/20(木) 午後 4:30 ビール大好きあつぴ 返信する

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御巣鷹の墜落事故、、、忘れがたい思いがあります。。。
この本は読んでいないので、、、飛行機会社のことは解らないけど、、、横田に着陸できなかったのだろうかと今でも思います。
(*^-^*)/~

2011/1/20(木) 午後 9:52 さ ん ぽ 返信する

これは出版された当時夢中で読みふけりました。ただ、山崎さんの小説って事実なのか、フィクションなのかが曖昧で、恩地の行動がモデルの社員のものか、あるいは首脳陣の不正や工作が取材したものなのか、ちょっと眉にツバ付けて読んでいたことも事実^^;
御巣鷹山の事件は生生しく記憶にあるだけに、その部分はやはり読んでいて胸が締め付けられました。とにかくこのパワー、迫力は山崎節の一番の魅力ですね。

2011/1/21(金) 午前 0:37 しろねこ 返信する

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>あつぴさん:長い物語ですが、若干冗長気味で重複もありますから、逆に忙しいときにちょびちょび読むのも悪くないと思います。
でも、読ませどころの場面はさすがに迫力ありますね。

2011/1/22(土) 午前 10:38 大三元 返信する

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>さんぽさん:私は御巣鷹山事故の詳細をこの本で初めて知った世代です。この本を読む限り、機長は最善の努力をしたようにも思えるのですが、やはり色んな見方があるのでしょうね。

2011/1/22(土) 午前 10:40 大三元 返信する

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>しろねこさん:おっしゃること、非常によくわかります。事実と推測が渾然一体としているところが、事実を基にした小説を読むときの難しさですよね。歴史小説にも似たようなところはありますが、それでも、こういった大衆にわかり易いかたちで問題提起をすること自体は悪くないことだと思います。あとは読者が眉につばをつけて読めばいいだけの話で(笑)
このあたりのことは、次回の記事で書こうと思っています。

2011/1/22(土) 午前 10:44 大三元 返信する

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この作品も読んでみたい作品ですね。ついつい作品が長いので、私はドラマで観てしまう方です。『大地の子』も『白い巨塔』も。
原作読まないといけませんね。なんだか、記事を読んで原作を読んでしまった気になりそうです。次回も楽しみです。

2011/1/23(日) 午後 11:28 miffy_toe 返信する

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>すてさん:私はTVドラマをあまり観ないので、『大地の子』も『白い巨塔』も観ていないのですが、両方とも大ヒットでしたね。
いずれも社会派作品らしいですが、本作も負けじ劣らず。ただ、いずれも事実と憶測の境目が曖昧なだけに、議論を呼んでいるようです。

2011/1/24(月) 午前 0:43 大三元 返信する

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