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書評 思想・文化

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書評223 東浩紀・宮台真司

『父として考える』その1

(NHK生活人新書、2010年)

昨年、処女作『クォンタム・ファミリーズ』で小説家デビューまで果たし、最近元気な東浩紀と宮台真司の対談。
彼らの著作は何冊も読んでいるが、ブログで取り上げるのは初めて。


【著者紹介】
あずま・ひろき (1971―) 批評家、小説家、早稲田大学教授。専攻は哲学、表象文化論。
1998年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。GLOCOM助教授などを経て現職。『存在論的、郵便的――ジャック・デリダについて』でサントリー学芸賞、『クォンタム・ファミリーズ』で三島由紀夫賞を受賞。

みやだい・しんじ (1959―) 社会学者、首都大学東京教授。専攻は理論社会学、社会システム理論。
1987年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。首都大学東京准教授などを経て現職。主著に『権力の予期理論』『終わりなき日常を生きろ』『日本の難点』など。


【目次】
第1章 親子コミュニケーションのゆくえ――家族を考える
第2章 子育てを支える環境――社会を考える
第3章 均質化する学校空間――教育を考える
第4章 コネ階級社会の登場――民主主義を考える


【本書の内容】
娘ができて初めて見えた日本社会の問題点とは?若者の非婚や少子化をいかに乗り越えるか?育児体験の比較から、教育問題や男女のパートナーシップのあり方までを論じ、「子ども手当」など保育支援策を検討。ツイッターなど新メディアを利用した民主主義の新たな可能性まで、今日の知的課題をも浮き上がらせる白熱の討論。


お薦め度:★★★★☆

【本書の感想】
これは面白い!

「オタクの擁護者と援○交際の擁護者という、かつて最も父のイメージから遠かった二人が父として語る」というのがこの対談のコンセプトらしい。
もちろんそういう側面も楽しめる本なのだが、それ以上に刺激に満ちた対論になっている。「父として語る」という対談の性格上、あまり論争的なことにはなっていないし、議論が掘り下げられているわけでもない。それでも、二人の発言は刺激的な論点を含んでいて、啓発されて考えるところが多かった。

宮台の「オレオレ」感は相変わらずだけど、娘さんを相当溺愛しているのが発言から滲み出ていて、ある意味“らしくない”のが意外だった。
東の方は、宮台に対して遠慮がちに疑問を差し挟みつつ、謙虚に娘の成長や社会構想を語っていて、好感が持てた。

以下、面白かった部分を抜粋しながらコメントを加えていく。



宮台:僕が意外だったのは、子供ってノイジーだけれど、少しも気にはならないことでした。……はっきり申し上げると、実際にはすごく邪魔になります。およそ三割は能率が下がります。でも不思議なことに、それがまったく苦にならない。むしろ三割くらいだったら「まあいいか」と思ってしまう。そういう自分に驚きました。仕事第一主義だった自分が、こんなにも仕事が犠牲になっているのに平気であることが驚きだったんです。(15項)
宮台とは数年前に個人的に話したことがあるが、その時離婚の理由を「結婚すると単純に時間を取られて、仕事のパフォーマンスが落ちるから」と語っていたのが嘘のようだ。
変われば変わるもんだな。


東:子どもは刻一刻と成長するので、二歳の娘、三歳の娘はそのときしか存在しない。来年の娘は今とは違う存在ですよね。だから時間の貴重さに対する感覚が変わってきます。仕事は一年後でもできるけれど、二歳の娘とは今しか遊べない。……大人にとっては、今年も来年も同じ。仕事の時間は結局は「循環する時間」です。他方で子どもは「成長する時間」を持っている。そういう違う時間性を持つ存在が、同じ家の中に現れた。それがもっとも大きな変化だと感じています。(16項)
確かに、ルーティンの時間が延々と続く大人とは違い、子どもにとっては毎日、毎年がステップの連続だ。子どもを持ったら、時間の使い方も変わるんだろうな。


東:いまの社会では、すべての決定が流動性が前提となっているというか、流動性の確保こそが正解=リスクヘッジだと見なされる傾向がある。しかし子どもの存在はその前提に真っ向から挑戦してくる。(42項)
東は、子どもの幼馴染との関係を大事にするためにできるだけ転居しないようにしていると言う。


東:あと重要なのは多様性です。たまたま今住んでいるのは、土地の高低差が激しく、そのせいか比較的所得が高い住民とそうでない住民が入り組んで住んでいる地域です。……そうなると、近所づきあいも決してゲイテッドコミュニティ化しない。逆に成人が普通に社会生活を送っていれば出会わないであろう人々が、むしろ子どもを介して触れ合うことになる。しかも、いまや出産年齢もまちまちなので、今の育児には、硬直化した階級間格差とか世代間格差をシャッフルする機能もあると思いました。(47項)
私自身も近所づきあいは得意ではないけれど、それだと子どもにもよくないですな。


東:幼い子どもを抱えることは、要介護の高齢者と同居するとか、自分自身が肉体的なハンディキャップを負うことにかなり近い。そのような経験はとても貴重です。……若い子連れの夫婦があまりお金をかけずに一日遊べて、買い物もできるという意味では、ショッピングモールほど快適な場所はない。……ショッピングモールは一般に、現代の市民にとって新しい公共空間、生活のインフラとして機能している部分がある。(49項)
ショッピングモールは、地域の商店街に対する“黒船”として昔から評判が悪い(三浦展の「ファスト風土」批判など)。それに対し、東は公共性を担保するという側面を指摘していて新鮮である。


東:僕は、地方の特色ある商店街を再生するときには、「ショッピングモール的利点」を積極的に取り入れるべきだと思うんですね。きちんとした駐車場を確保し、商店街から完全に車をシャットアウトすれば、子連れ夫婦も障害者も老人も安心して買い物ができる。確かにその過程で建築やデザインの画一化が起こるのかもしれないけれど、ユニバーサルなサービスってそういうものではないか。……バリアフリーとかユニバーサルデザインというのは、弱者への配慮という高尚な言説以前に、公共性や普遍性を実質的に確保するための最低限で具体的な倫理のことだと思うのです。幼児や高齢者をシャットアウトしたところに、公共性はない。(51―52項)
「使いにくいところが文化的」というような感覚が社会のバリアとなっている、という指摘は娘を持つ親ならでは。


まだまだ引用したい発言があるので、今日はここまで。
 

閉じる コメント(4)

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いやぁ、子供が男の子と女の子、三人と一人ではだいぶ条件が違うような気がしますがね

2011/3/4(金) 午前 0:50 [ kohrya ]

ぜひ読んでみたい本です。
私も転校挫折組、古里はどこ?という人間ですので、子どもには「地域密着、幼馴染といつまでも」という人間関係を結んで欲しいと思っています。

2011/3/4(金) 午後 2:58 かえる

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>こーりゃさん:本書の趣旨は、「父になることで二人の論客の考えがどう変わったか」にあるので、子どもの構成による差異はひとまず棚上げにしています。そこは彼らの体験範囲外なので、主題になりえないということで。

2011/3/8(火) 午前 2:04 大三元

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>かえるさん:私は転校経験がありませんが、そのわりに幼なじみとはつながっていない方です。中学・高校・大学・社会人と、新しいステージに進む度にネットワークを作ってきたタイプです。
なので、この本を読むまでは「別に転校したってそこで人間関係をつくればいいじゃないか」と思っていた節があったのですが、ちょっと考え直しました。

2011/3/8(火) 午前 2:07 大三元


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