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前回書評その1に続いて二本目の書評。この二人は何冊か対談本を刊行しているが、本書が一番面白いかもしれない。 お薦め度:★★★★☆ 【本書の感想】 前回と同様、面白かった発言を抜粋しコメントを加えることにする。 やはり東の方が面白いこと言ってるな。 東:そもそも学歴や資格は、どこへ行っても通用するけれど、その分薄っぺらな数字でしかない。……本来の固有な才能が花開かなかった時のリスクヘッジの道具でしかない。学歴は、なにかを達成するためのステップではなくて、なにかを達成できなかったときに、しかたなくしがみつく緊急避難先としてあるべきなんですよ。(68項) 当たり前のことだが、わかっていない日本人はまだまだ多い。 子育ての話題の中で、宮台は子どもを預けて夫婦の時間を持つためは血縁を越えたネットワークが必要であって、それが出来てこそ本当の意味での“大きな社会”だと主張するが、これには東も譲らない。 東:しかし……近所づきあいが苦手で、社交性がない人でも安心して子どもをつくれる社会というのも、今は考えなければならない。(106項) このあたり、二人のスタンスの違いが鮮明になっていて面白い。 昨今の就職氷河期時代に対し、東はこんな見方をしている。 東:産業資本主義の時代とは異なり、社会が求める労働の質が、標準化された交換可能なものから、特異的で突出して交換不可能なものに変化してきたので、優秀なやつはいくらでも仕事が選べるけれども、逆に「そこそこ優秀で交換可能」という人材の行き場がない。 その新しい状況が問題なのは、労働市場によって自己承認を得ることが前提になっているからだと考えています。人の生は、そもそもが固有で交換不可能なのだから、そのうえ交換不可能な労働が提供されなくてもいいはずです。平たく言えば家族や友人により支えられているのであれば、そしてある程度の生存が保証されているのであれば、「世の中から必要とされ」なくてもいいはずなんです。(151項) 言われてみればその通りなんだけど、ね。 宮台:今もっとも必要なリスクヘッジは人間関係に関するものです。……帰る場所があるから頑張れるんです。仕事に失敗しても感情的安全を回復でき、承認をもらえる場所があるからこそ、失敗を恐れずに突き進める。仕事上の真のリスクヘッジは、信頼できるパートナーを見つけることを含めたホームベース形成能力です。(188―189項) この指摘は重要である。一般に既婚者と高所得者の相関関係が正比例するからといって、そこから<経済格差→魅力格差→非婚化>という図式を読み取るはあまりにも一面的で、<結婚→頑張って収入が増えた>ケースもありうるのだ。(この仮説を実証するデータを紹介したものとして書評91:『経済学的思考のセンス』を参照)。 東:たとえだれひとり助けてくれなくとも、それでも自分ひとりで生きることができる能力を磨く。それを人生の目的にするのは、大きく間違っていると思う。(191項) 昨今の資格ブームや、「お一人様の老後」流行に対する批判。 東:特にロスジェネ以降は、これがリアルだ、これがおれたちの現実だ、だからもう夢なんて見てられない、という主張ばかりなんですね。大学院もリスクだし、恋愛もリスクだと。なるほどそれは局所的には正しいのかもしれないけど、みなが同じ認識に到達すると、いわゆる合成の誤謬が起きて、社会のほうが何も動かなくなってしまう。(202項) 同感。そんなこと言い始めたら生きること自体がリスクである。 最後に、東の親としての率直な感慨を引用しておく。 東:まだ彼女が物心つく前は、この「貧困化し格差社会化する日本」において、娘の幸せのためにはやはり名門私立に入れるべきではないかとか、習い事をさせるべきではないかとか、いろいろ考えていました。しかし今は、毎日娘の楽しそうな顔を見て、その種の邪念がすっかり消え去っている。……娘が上品に賢く育つよりも、何よりも周りに愛される人に育ってほしいと感じるようになっている。 娘は勝手に育っていく。親はその点で徹底して受動的な存在なのですが、それだけでなく、娘が育つにつれて少しずつ世界を「受け入れて」いくさまを見ると、なんというか、そういえば生きるとはそもそも受動的なことだったはずではないか、と感慨を新たにするのです。(233項) 世界に対する子どものような驚きと、日常を繰り返すことができるささやかな喜び。 そしてそれらが一瞬にして破壊されてしまうことの儚さ。 生きるとはそもそも受動的なことだったはずではないか――こういう感慨は、今こそ大切にしたいと思います。
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>内緒さん:おお、激しいですね(笑)。
私自身は、この二人に対しては異論はありつつも一定の評価をしています。というのも、立場は違えども反論に値する議論をするからですね。世の中、箸にも棒にもかからない議論が多いですから。朝生での東は、彼の長所が出ていない感じがします。基本的には、活字メディアの人間なんでしょう。
2011/3/31(木) 午前 0:24