読書のあしあと

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遠藤周作『沈黙』/紀元前 My Best Books #2
 
ブログではあまり取り上げていませんが、私が今までで最も読み込んだ作家は遠藤周作です。
多分、30冊以上は読んでいると思う。
 
私は大学に入るまであまり本を読まない子どもでした。
今のように読むようになったのは大学生のときで、初めは学術書ばかりで小説は読まなかったの
ですが、懇意にしていた師匠に遠藤周作の『留学』を薦められたのでした。
『留学』は、フランス文学で身を立てようとする若者の苦悩を描いた小説で、日本人でありながら
フランス文学を研究することの意義に悩む主人公の姿は、遠藤自身の経験でもあり向学心に燃えた
若者であれば誰でも通る道であったように思います。
 
 
その後、遠藤の思想に共感を覚えた私は、彼の小説を貪り読むようになりました。
遠藤周作という作家は、戦後日本の作家の中でもとりわけ一つのテーマを追究し続けてきたタイプの
作家であって、それは「日本においてキリスト教は可能か、日本における愛とは何か」ということでした。
 
この問題は、処女作「白い人」以来全ての遠藤作品を貫くテーマと断言できるでしょう。
しかも、『沈黙』で発見された遠藤独自の宗教観、“神”の在り方は、様々に形を変えながらも一貫して
以降の作品の重奏低音となっています。
西欧的なガチガチのキリスト教に違和感を持ち続けていた遠藤は、もっと柔らかい形で信仰は可能
なのではないかと考えていました。彼の集大成的作品である『深い河』では、「神はタマネギでもいい
のだ」という遠藤らしい柔軟な発想が見られます。
 
 
では、遠藤にとっての信仰とは、愛の本質とは何だったのか。
私はそれを“寄り添うこと”だと理解しています。
人が苦しんでいる時、直接助けられることはそれほど多くありません。骨折した人の痛みを分けて
もらうことはできない。肉親を亡くした人の辛さに心底共感できると思うなんて傲慢である。
他人にできることは、人が苦しい時に、傍で供に苦しむことしかないのではないか。
手を差し伸べられなければ、黙って 傍にいることが大切なのではないか。
『沈黙』で描かれたのは、救済を求める信者に対してどこまでも沈黙し続ける神でしたが、その時
神は信者を見捨てたのではなく、信者と供に苦しんでいた故の沈黙だったと思うのです。
 
そして、キリスト教信者でもない私が遠藤をバイブルとしているのは、遠藤の思想はキリスト教の
信者のみならず、人間が生きる上ですべからく大切だと思っているからです。
 
 
遠藤の作品を読むと「ああ、遠藤に還ってきた」と思うのは、彼の全作品をこの思想が貫通して
いる からでしょう。
純文学から 大衆小説、エッセイに歴史小説まで、芯がブレない から安心して読むことができる。
 
私のお薦めとしては、王道の純文学なら『沈黙』、『女の一生』二部作(二部は短評7として書評)、
そして集大成の『深い河』。大衆小説でも『私が・棄てた・女』なんかは、純文学でもないのに上述
した彼独自のテーマが追究されている典型例ですね。
 
これからも人生に迷った時、遠藤周作に教えを乞うことになる場面がたくさんあるでしょう
よろしくお願いしますね。狐狸庵先生。

閉じる コメント(25)

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紀元前第二弾ですね♪遠藤周作は『海と毒薬』を1冊読んだきりですが、ぜひ狐狸庵先生の方を読んでみたいとおもっています。
宗教が前提にある書物はどうしても二の足を踏んでしまうのですが、(嫌だ、というのではなく、自分で勝手にバイアスをかけてしまいそうなので^^;)大三元さんの記事を拝見すると素直な気持ちで読んでみたいと思わせられます。

2011/5/4(水) 午後 10:49 ang*1jp

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>こーりゃさん:遠藤周作は読めば読むほど安心感が出てくる作家です。5冊も読めばだいたい遠藤の思想は理解できますよね。

2011/5/5(木) 午後 11:08 大三元

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>内緒さん:遠藤の純文学は、一見わかりにくいので、読書慣れしていなかった当時の私も1冊読んだだけではよくわかりませんでした。でも、言っていることは至極単純でまっとうだと思います。
そうそう、遠藤の描く人物に高潔で正しい人間は少なく、むしろ弱く、醜悪な側面を好んで描いているようにも見えますね。そういった負の面も含めて人間なのだ、というのが遠藤の人間観であり、それを「赦す」のが遠藤の考える信仰であったと思います。

2011/5/5(木) 午後 11:11 大三元

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>みこぴょんさん:遠藤周作は、生涯キリスト教と愛について考え続けた、今では珍しくなったタイプの作家ですね。遠藤で泣けるお仲間がいて、とても嬉しいです。
遠藤の『沈黙』はカトリックからでさえも最初は異端視されていたくらいですから、キリスト者から見れば相当の異端的な思想なのかもしれませんが、遠藤の考え方はキリスト教に縁のなかった私にとっても非常に心に響くものがありました。そういう意味で、キリスト教の枠を超えて普遍的な意味を持っていると思っています。

2011/5/6(金) 午前 0:32 大三元

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>さんぽさん:遠藤周作の本は、モノにもよりますが、キリスト教作家であることを感じさせないものも多いですね。でも遠藤の思想を理解してから、今一度読み返すと、大衆的な作品にも表れているその考え方のブレのなさ、一貫性に驚かれることと思います。

2011/5/6(金) 午前 0:34 大三元

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>オブ兵部さん:おっしゃる通り、宗教と愛を結び付けても日本人にはピンとこないというか、ちょっと間違えれば怪しいですから(笑)。
遠藤周作は、そこらへんの違和感を感じさせずに読ませてくれるところが日本人だな、と思います。お薦めです。

2011/5/6(金) 午前 0:44 大三元

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>びっくりさん:初めまして、ご訪問&コメントありがとうございました。
私はキリスト教信者ではないので、何とも言いようのないところはありますが、遠藤の『沈黙』が数十年の時を経てバチカンの教皇にも「素晴らしい作品だ」と賞賛される時代になったことを付言しておきます。

2011/5/6(金) 午前 0:46 大三元

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>あんごさん:そうですね、宗教が絡んだ小説、というと私も身構えてしまうところはあります。ただ遠藤の小説は、どれも宗教小説ではなく、人間が一生懸命悩み苦しんで生きているだけの小説であることが多く、いわゆる宗教臭さは感じさせません。その根底に流れるものを思想と呼ぶのか宗教と呼ぶのかは読者に任せる、というスタンスですね。
記事に挙げた作品はどれもお薦めなので、機会があれば是非。

2011/5/6(金) 午前 0:50 大三元

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確か小学生の時だっと思いますが、三浦綾子の「塩狩峠」を読んだ時、キリスト教を強く意識した記憶があります、ただその後は宗教色の濃い本を読んだことはあまりありません、どうも苦手といいましょうか、自分でもよくわからないのですが。確かに遠藤周作のものは押しつけがましいような空気はほとんど感じませんね。
”寄り添う”なるほど(¨*)、読みたい本が、又また増えましたが
日本だと手軽に手に入るのでちょっと幸せです。

2011/5/6(金) 午後 2:28 凛さ

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>凛さん:正直、私も宗教色の濃い小説は得意じゃありません。でも遠藤の場合は純文学でも読み易く、おっしゃる通り押付けがましいところもありません。その分遠藤の思想を汲み取るのが初心者には難しいところもありますが、一度理解してしまえば、全作品に通じるシンプルなものなので、安心して読めます。是非感想をお聞かせ下さい。

2011/5/9(月) 午前 3:53 大三元

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そうですか・・・大三元さんは遠藤の心酔者でしたか。
私は「深い河」とユーモアエッセイしか読んでいなくて
感想を述べる資格がありません。
女性とのゴシップも多く取りざたされて、深い人生観に裏打ちされた
純文学と私生活とのイメージギャップに人間の多面性を感じていました。
今度、ぜひじっくり読んでみたいと思います。

2011/5/9(月) 午後 10:09 [ pilopilo3658 ]

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>あおちゃんさん:遠藤周作は、読者人口で言えばむしろ狐狸庵ものの方が有名かもしれませんね。狐狸庵ものをはじめとするエッセイなどでは下品な話などを好んで書いていますが、それも遠藤からすれば意図的だった部分もあると思います。人間は醜悪な、下品な部分も持ち合わせているけれど、それも含めて人間なのだ、丸ごと赦さないといけないのだ、という。比較的わかり易い作家ですので、何冊か読めばわかっていただけると思います。

2011/5/11(水) 午前 8:00 大三元

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私も遠藤周作好きです!どちらかといえば狐狸庵ものの方が好きです。読んでいると「弱者への眼差し」という言葉がなぜかいつも浮かびます。

2011/5/14(土) 午後 8:20 [ ちいらば ]

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>ちいらばさん:さすがちいらばさん、よくわかっていらっしゃる。私が遠藤作品の重奏低音と述べた「愛とは何か」という問いの一つの答えが、「弱者へのまなざし」ということでした。
いや、いいですね。自分で書いてて久しぶりに読みたくなってきました(笑)

2011/5/15(日) 午後 10:43 大三元

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大三元さん、遠藤周作は私のもっとも好きな作家の一人です。
『白い人』から『深い河』まで彼の作品は一貫したテーマが貫かれています。作家は若いときと、晩年で作風や思想が変わることが多くありますが、珍しく揺らがない人です。
私も彼の作品を手に取り読むと、安心します。本当にいいですよね。
『沈黙』は、私も以前記事にしたことがあります。

2011/5/16(月) 午後 8:40 miffy_toe

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>すてさん:偶然すてさんも遠藤周作の記事を書かれていたのでびっくりしました。しかも遠藤周作の作品をかなりの数読まれているのですね。
そういえば、数年前の記事で遠藤のことを書いたとき「お友達になりましょう」とコメントし合いましたね(笑)

2011/5/19(木) 午前 9:24 大三元

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大三元さん、こんばんは。昨日はわたしのつたない感想文にもコメントをいただき、またトラックバックまでしていただいて本当に光栄に思いました。ありがとうございます。
わたしもトラックバックさせていただきますね。

2012/3/26(月) 午後 8:59 ペコスマイル

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>ペコスマイルさん:こちらこそ、トラバありがとうございました。
遠藤周作は私にとって青春の作家であると同時に、心の輪郭を作ってくれた思想家でもありました。
たまに、遠藤作品に還りたくなる時があります。

2012/3/28(水) 午後 11:20 大三元

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『沈黙』は学生時代に二回読んだと思います。
確かに良い小説だとは思いましたけれど、どことなく良くできた映画を観たような感じで、すぐれた文学から受ける感動の質とは違うような気がした思い出があります。

2012/12/9(日) 午後 3:26 蓮

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>蓮さん:私も、最初に『沈黙』を読んだときは、正直そんなに衝撃もなかったのですが、他の作品も読み進むうちに、だんだんと理解が深まっていった感じです。というのも、遠藤の作品は思想が一貫しているので、他の作品にも『沈黙』のモティーフは繰り返されるのですね。『沈黙』はわりと硬質な作品なので、初心者にはわかりにくいな、と今になっては思います。

2012/12/9(日) 午後 9:39 大三元

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