書評233 ジャック・アタリ
『国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?』
林昌宏訳(作品社、2011年)
大震災からの復興財源の議論がまとまらない中、為替の影響もあって景気の先行きはますます怪しい。
税収は伸びないのに財源は必要で、このままでは国債が膨らむばかり…。
しかし、景気後退の契機となった欧米を見れば明らかなように、債務超過は日本に限った問題ではない。
“現代ヨーロッパを代表する知性”と呼ばれる経済学者の警鐘を聞いてみよう。
【著者紹介】
Attali, Jacques (1943年―) フランスの経済学者、思想家、作家。
アルジェリアの首都アルジェ出身のユダヤ系フランス人。パリ政治学院卒業。経済学国家博士。初代欧州復興開発銀行総裁。フランソワ・ミッテランの側近中の側近で81年から91年まで大統領補佐官。91年から93年まで初代欧州復興開発銀行総裁。
主著に『ヨーロッパ──未来の選択』、『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』など。
【目次】
公的債務の誕生―国家主権と債務の終わりなき攻防のはじまり
公的債務が、戦争、革命、そして歴史をつくってきた―覇権国は必ず財政破綻に陥る
20世紀“国民主権”と債務の時代―全国民が責任を負うことになった国家の借金
世界史の分岐点となった2008年―途上国から借金する先進国
債務危機の歴史から学ぶ12の教訓
想定される「最悪のシナリオ」
「健全な債務」とそのレベルとは?
フランスの過剰債務を例にとって考えてみると
債務危機に脅かされるヨーロッパ―ユーロは破綻から逃れられるか?
いま世界は、何をなすべきか?〔ほか〕
【本書の内容】
900兆円債務を抱えて、日本は10年後を展望できるのか?“過剰債務”が国家と世界の命運を決する―“欧州最高の知性”が、史上最大の公的債務に脅かされる先進諸国の今後10年を大胆に見通す。
【本書の感想】
<全体の感想>
世代を超えた借金はどこまで許されるのか。
それを歴史的に検証し、解決への糸口を探るのが本書の目的である。
前半は「債務の歴史」とも言うべき内容で、中世以来の戦争と革命が公的債務の視点から整理される。
後半は過剰債務がもたらす弊害と、それに対処する方策の検討がなされている。
前半は自分にはなかった視点で面白かったし、後半も(具体策の実現性はともかくとして)至極まっとうな議論が展開されている。
公的債務の共通認識をつくる上では有益な本だろう。
<デフォルトの「一線」はあるか>
世界史上、たくさんの国家が過剰債務により破綻(デフォルト)してきた。ではその基準は何なのか?
アタリは様々な基準を挙げている。
例えば日本は、国内貯蓄率が高いためデフォルトの危険はないと考えられていたが、このまま何もしないと対GDP比で2010年に204%に達した公的債務が、14年には245%、20年には300%となり、もはや国内貯蓄を全部債務弁済にまわしても追いつかないと警告している。
しかし歴史的には様々なデフォルトの事例があり、一律に「ここに達したらデフォルト」という一線を導き出すことはできない。
現実には、主権債務の危機が勃発するかどうかは、非常に多くのパラメーターに左右される。……現在、唯一確かなことは、西側諸国全体が、国家と市場が睨み合う一触即発の危険領域に、足を踏み入れたということである。(37―38項)
<公的債務の改善は国民の意思にかかっている>
どこまで減らせばいいのか明確な基準はわからないにしても、少なくとも現在の水準は危険である。
ではいかにして公的債務を減らしていくのか。
公的債務は、政府支出と同じペースで税収が増加しない場合に生じる。これを解決するには、支出の削減(無駄の排除、社会保障費の負担増、インフレの放置など)か、経済成長の二択しかない。
前者は国民全体の理解が大前提となる。後者にしても、成長のためのインフラ投資(=健全な債務の増加)が不可欠であるため、債務が一時的に膨れ上がることを覚悟する必要がある。
要するに、キャッシュインを増やすにせよキャッシュアウトを削るにせよ大胆な政策転換が必要であり、その決断には国民が債務危機に対して腹を括って覚悟を決めなければならないということだ。
未来は、経済学の理論ではなく、政治的な議論にかかっている。(40項)
子どもたちの世代に痛みを先送りすることなく、我々の世代が痛みを引き受ける覚悟があるか。
「痛みを引き受ける」政策でリーダーシップを発揮する政治家を選ぶ覚悟があるか。
結局、公的債務は経済学で解決できるのではなく、断固たる国民の意思にかかっているようだ。
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大三元さん、ご無沙汰しておりました。
「公的債務を解決する方法は、支出の削減か経済成長の二択しかない」非常に頭がすっきりしました。確かにその通りですね。普通の借金と一緒なんだ(笑)。
今の30代(特に男性)は、上の世代が先送りにした借金をはじめとする様々な弊害に苦しめられているという意識が強いように思います。あくまでも私のまわりにいる人の印象ですが。沸々としている怒りを感じるのです。「世代を超えた借金はどこまで許されるのか」という問いは、根源的ですね〜。
2011/10/3(月) 午前 11:51
>mepoさん:お久しぶりです!お子さんがいればなおのこと、次の世代のことも考える機会が多いことと思います。以前書評した年金の本を読んでも感じたことですが、こういう話題って一時期話題になっても「喉元過ぎればナントカ」ですぐ棚上げにされてしまいます。国民が意識的に議論すべき課題だと思います。
2011/10/7(金) 午前 2:31