読書のあしあと

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大沼保昭『人権・国家・文明』/紀元前My Best Books #3
 
ものごとを真摯に考えること。
私がそれを教わったのは、大学一回生の時に読んだ二冊の本からであった。
 
対テロ戦争の賛否が激しく議論されていた当時、大学入学間もない私は「正義のための戦争はあるか」
というテーマを考えていた。
イラク人100人を生かすためにフセインを殺すことは許されるのだろうか。それは即ち、乱暴に言えば
「悪人1人のいのちは、無辜の民100人のいのちより軽いのだろうか。だとすればその1人を殺すことは
許されるのだろうか」という問いである。
 
 
一冊目は、最上俊樹『人道的介入』(岩波新書)である。
『人道的介入』は書名の通り人道的介入の入門書であるが、基本的論点を抑えつつも個性を出して主張
するという意味では完成度の高い新書と言えよう。
最上は岩波知識人の系譜を継ぐ良心的左派の国際法学者。丁寧な議論と説明の平明さは随一で、読んだ
当時は思想的にも大いに影響されたものである。
 
二冊目は、大沼保昭『人権・国家・文明』(筑摩書房)。
これは人道的介入の問題をより幅広い視野で捉えた専門書で、この問題が抱える複雑な側面をくまなく
検討し、かつ思想的な検討も加えて現実的な提言までしているという類稀な著作である。註にもいくつ線を
引いたかわからないくらい、内容の濃い名著だった。
はじめは理想主義的な色合いが濃い最上に傾倒していたが、色々と読み漁る内に大沼の漸進的現実主義
に深く共鳴するようになった。
 
 
思想的なバックボーンは違えど、二冊に共通していたのは、現実を見つめながら理想を忘れないこと、
そして世界で起こっていることを自分の頭で真摯に考える姿勢であった。
 
人道的介入の問題は、日本人にとって身近ではないが故に他人事で語られがちである。
それをいかに自分が考えるべき問題として引き受けるか。一所懸命悩むことができるか。
想像を絶する虐殺の歴史を文字で読み、映像で観た後で、理想と現実の折り合いをどう考えるか。
 
 
立場の違う二人の国際法学者は、私に「周りの人のために自分の頭を悩ませること」の大切さを教えて
くれたのだと思う。
 

閉じる コメント(12)

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おおっ!紀元前が更新されている…♪すみません、著者の方を全然知らないのですが記事に感銘を受けたのでコメントを。
「周りの人のために自分の頭を悩ませること」…すごく大事なことですよね。自分以外の人の痛みを想像するのって難しい(というか不可能かもしれない?)けれど、それをし続けていくことが人間が人間であるあかしなような気がします。(…大きくまとめ過ぎました^^;)

2011/10/10(月) 午後 10:52 ang*1jp

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>あんごさん:おっしゃる通りです!
何だか、この記事だけでそこまで理解したコメントをいただけて私は満足です。
自分がどこまでできるのか、自分が頭を悩ませたところで何ができるのかわかりませんけど、考えられることを考え、できることをやろうと思っています。

2011/10/11(火) 午前 3:38 大三元

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『人権・国家・文明』は私も多大なる影響を受けました。大学時代の読書の十傑に入ります。普遍主義にも相対主義にも陥らない真摯な知のあり方を学んだように思います。

2011/10/11(火) 午後 10:45 KING王

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大三元さんは、大学入学当初から、自分の頭で世界に起こる出来事をきちんと考えていたのですね。すごい!
実は夏以来、日本が辿ってきた戦争の歴史に自分なりに折り合いをつけたくて、ぽつぽつと本を読んでいます(ご存知とは思いますが三十路超えてます。笑)。でも、読めば読むほど、何が本当なのかわからなくなります。問いを持ち続けることって、苦しいですね。

2011/10/11(火) 午後 11:16 mepo

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大三元さんはまっすぐな方ですね!あるいはまっすぐでありたいと
願っている方と申し上げたほうがよいかな。

2011/10/12(水) 午後 8:57 [ pilopilo3658 ]

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>KING王さん:『人権・国家・文明』が読書十傑とは、とても嬉しいです!地味な研究書ですが、まともな研究とはかくあるべしと思わされました。大沼のような研究者の系譜は是非とも絶やさぬようにして欲しいですね。

2011/10/16(日) 午後 11:57 大三元

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>mepoさん:当然ながら、同じ事実を目の前にしても人によって見え方は違います。その意味では、現在起こっていること・過去に起こったことの中で何が本当かなんてわからない。しかし、当時の人にはこう見えていた、という事実(これは確固とした事実と言える)を集積し、その多様性の中からストーリーを紡ぎ出すのがヒストリーではないかと思っています。

2011/10/17(月) 午前 0:41 大三元

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>あおちゃんさん:ありがたいお言葉ありがとうございます。そう言っていただけるような文章を書けるようになったというだけでも、ブログをやっていた甲斐があるかもしれません。

2011/10/17(月) 午前 0:46 大三元

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大三元さん
はじめまして。「だいちゃん」と申します。
関連記事からこちらを訪問させて頂きましたが、素晴らしい書評の数々、感動しております。これからも時々お邪魔させて頂きたいと思いまして、勝手ながら、お気に入り登録させていただきました。
どうぞ宜しくお願い致します。

2011/10/20(木) 午前 3:14 [ だいちゃん ]

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>だいちゃんさん:初めまして、ご訪問&お気に入り登録ありがとうございました。たまに遊びにきていただいて、過去記事など見ていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。

2011/10/23(日) 午後 9:48 大三元

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トラックバックさせていただこうと思いましたが、できませんでした・・・。禁止されているのですかね?折角なので、私の記事のURLを張らせてください!
http://blogs.yahoo.co.jp/shinyan1007/47680277.html
まさか本書を共有できる日が来るとは!(笑)

2011/10/30(日) 午後 8:14 KING王

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>KING王さん:あれ、そうですか?せっかくなので、こちらからトラバさせてもらいました。
4年前の記事に、私のコメントも残っていましたね(笑)。これからも末永いお付き合いをお願いします。

2011/10/30(日) 午後 10:26 大三元


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