書評235 木下是雄
『理科系の作文技術』
(中公新書、1981年)
人から薦められた一冊。有名な本ですね。
ビジネス系の本をブログで紹介することは少ないが、仕事やブログの文章を書く上での参考として読んでみた。
【著者紹介】
きのした・これお (1917年―) 日本の物理学者。
1941年東京大学理学部物理学科卒。学習院大学学長などを歴任し、同大学名誉教授。薄膜や固体表面に関する研究を進めていく一方で、科学に関するエッセイや日本語教育に関する著書も多数発表しており、現在にも通用するそれらの著作は多くの支持を得ている。
主著に『物理学の部屋』、『物理の樹』、『レポートの組み立て方』など。
【目次】
1 序章
2 準備作業(立案)
3 文章の組立て
4 パラグラフ
5 文の構造と文章の流れ
6 はっきり言い切る姿勢
7 事実と意見
8 わかりやすく簡潔な表現
9 執筆メモ
10 手紙・説明書・原著論文
11 学会講演の要領
【本書の内容】
物理学者で、独自の発想で知られる著者が、理科系の研究者・技術者・学生のために、論文・レポート・説明書・仕事の手紙の書き方、学会講演のコツを具体的にコーチする。盛りこむべき内容をどう取捨し、それをどう組み立てるかが勝負だ、と著者は説く。文のうまさに主眼を置いた従来の文章読本とは一線を劃し、ひたすら・明快・簡潔な表現・を追求したこの本は、文科系の人たちにも新鮮な刺激を与え、・本当に役に立ったと絶賛された。
【本書の感想】
<全体の感想>
いわゆる文章の上手・下手といった「文章読本」的な観点ではなく、書くべきポイントをいかに読者に伝えるかという技術に焦点を当てたテクニカル・ライティング講座である。
故に、理科系に限らず「仕事で」文章を書く人には参考になる部分が多数あるだろう。
以下、個人的に参考になった点を私的覚書としてメモしておく。
体系的な書評にはなっていないので、全体の構成や他の論点については上記の目次を参考にされたい。
また、以下には基本的なことを書いていると思われるかもしれないが、私が仕事上常に意識していない点、普段気をつけていないかもしれない点を抜書きした。頭で理解することと、実践できていることは別物である。
この読書を機に、ブログに書いて改めて自戒したいということだ。
1.文章の役割の確認
いったい読者はこの文書に何を期待しているはずかと、一瞬反省してみること(15項)
これは当然のことだが、仕事の文章(たとえばメール)を書いた後にもう一度冷静に読者の視点で読み直してみようと思った。そうすればより読み易く的確な文章になるだろう。時間がない中でどれだけ実践できるか微妙だけれど。
2.はっきり言い切る姿勢
日本人が仕事上の文書で「はっきり言い切らない」ことを批判した項目である。これは本文を引用するのが一番よい。特に3つ目の引用文は、私も肝に銘じたい。
私は、むきつけな言い方を避けて相手が察してくれることを期待する日本語のもの言いの美しさを愛する。そういう言い方を、これから育つ人たちにも大切にしてもらいたいと思う。しかし、本書の対象である理科系の仕事の文書は、がんらい心情的要素を含まず、政治的考慮とも無縁でもっぱら明快を旨とすべきものである。そこでは記述はあくまで正確であり、意見はできるかぎり明確かつ具体的であらねばならぬ。(96項)
私たちには、折あるごとにぼかしことばを挿入する言語習慣が深くしみついていて、容易なことでは<はっきり言い切る>文章は書けないのである。しかし私たちは、こと理科系の仕事の文書にかぎり、敢えて<日本語ではない>日本語、明確な日本語を使うことにしようではないか。真正面から<はっきり言い切る>ことにしようではないか。(97項)
英語にステートする(state)という動詞がある。これは、明確に表明する;口頭で、または文書で正式に記述する;かたちを整えて、あるいは明確なかたちで記述する――というような意味だ。……このステートにピッタリあてはまる日本語がないのだが、仕事の文書で事実なり意見なりを書くのはステートすることにほかならない。……私たちがステートに対応することばをもっていないのは、そういう言語習慣が確立していないことの表れなのだろう。……ステートするときには当然、一句一句に責任がともなうのである。(100項)
3.受身の文
日本語の文は受身で書くとひねくれて読みにくくなる。……能動態で書くと、読みやすくなるばかりでなく、文が短くなる場合が多い。……そういうわけで私は、理科系の仕事の文書では受身の文章は少なければ少ないほどいいと信じ、大学院の諸君のもってくるレポートや論文――欧語直訳のような受身文が多い――を片はじめから書き直させ、受身征伐につとめている。(138―139項)
つまり「…と考えられる」ではなく、「…と考える」と書けということだ。能動態で書くと文章がすっきりする上、責任の主体がはっきりする。これは2.はっきり言い切る姿勢と連動しているのである。
4.字面の白さ
文書をパッと見たときの「字面」は白い方がよい=無駄な漢字は使うな、という。下に挙げる著者の「標準記法」はおおむね新聞などとも一致しているらしい。
これを見ると普段の私の書き方は漢字を使いすぎなのかもしれない。文を短くするために漢字を多用している部分があるのかも。
自分にはなかった視点なので、頭に入れておきたい。
【ひらがなを使うべき表現】(151項)
及び/並びに/初めて/再び/即ち/従って/各々/色々/他の/…の通り/…する時に/…と共に/出来る/行う/始める/決める/覚える/我々
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勉強になりました、ありがとうございます、
4「字面の白さ」について、
表現は違いますが、内田さんと高橋源一郎さんは、「字面の美しさ」
と言っていました、ポッドキャストで聞いた時、自分にはない発想だったのではっとしました、いい文章は「字面」が美しいそうです。
2011/11/8(火) 午前 11:26
やっぱり、書きかたと考えかたは連動していますね。はっきり言いきるのって勇気がいるので(責任が伴いますから)、ついついぼかした表現をしてしまいがちです。
「字面の白さ」というのは、司馬遼太郎の本を読んだときに感じました。ひらがなが多いんですが、それがなんとも易しくていいなあ、と。ちょっとこのコメント、ふだん漢字で表記しそうなところを、あえて意識してひらがなにしてみました。(^^;
2011/11/8(火) 午後 7:27
>凛さん:なるほど、読み易い文章は「白さ」を必要とし、いい文章は更に「美しさ」を必要とするのかもしれませんね。
仕事のメールなんかも、段落や構成など、美しいのと美しくないのでは読む側の気持ちも違いますよね。
2011/11/10(木) 午後 10:21
>ぼやっとさん:はっきり言い切るのは駄目だ、というのが日本語としては正しいらしい、と著者も認めています。かのドナルド・キーンが若い頃、「日本に2日間滞在した」という文章を書いたところ、「2日間ほど滞在した」と書きなさい、と添削されたそうです。あえて曖昧にすることの美学みたいなものがあるのでしょうね。
おっしゃる通り、司馬の文章はひらがなの使い方が独特ですね。私も書評を書くときについ漢字にしてしまうところを司馬の原著はひらがなにしていたりするので。あのひらがなの使い方は、司馬独特のさっぱりした情緒を表すのにとても効果的なんだろうな、と思います。 私は真似できません(笑)。
2011/11/10(木) 午後 10:26
分かりやすい文章でした。
ありがとうございます。勉強になりました♪
字面、、、いい言葉ですね。。。
(*^-^*)/^
2011/11/10(木) 午後 10:38
>さんぽさん:ありがとうございます。わかりやすい文章を書くのがこの本のテーマですから、そう言っていただけると報われます。
2011/11/11(金) 午前 2:10
学生時代にこの本を脇において論文書いていたのを思い出します。この本の書き方自体が非常に説得力があって明解なので、読んでいるだけで立派な論文が書ける気になってました(苦笑)。
2011/11/11(金) 午後 10:59 [ ちいらば ]
>ちいらばさん:私も学生時代に読んでおいたら少しは違ったかもしれない、と今になって思います。この本のいたるところに「このページを書くだけでこれだけのことを考えて、こういう文章になっている」という例示があって、文章を他人に読ませるというのはまさにステートすることなんだな、と実感した次第です。
2011/11/12(土) 午後 9:45