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1年に1冊はちくま文庫の太宰治全集を読むことにしている。 今日は第6巻に収められた作品の中から、連作短篇「新釈諸国噺」以外の作品を記事にしておく。 【著者紹介】 だざい・おさむ (1909─1948年) 作家。本名、津島修治。 青森県生まれ。東京帝大仏文科に入学するも、講義についてゆけず中退。学生時代から作家を希望するが、自殺未遂を繰り返す。結婚後流行作家となったが、1948年、玉川上水に愛人と入水心中。主な作品に『晩年』、『女生徒』、『走れメロス』、『新ハムレット』、『駆込み訴へ』、『津軽』、『新釈諸国噺』、『お伽草紙』、『斜陽』、『人間失格』など。 過去に本ブログで取り上げた作品に、書評87:「畜犬談」、書評92:『太宰治全集3』、書評100:『太宰治全集4』、書評140:『太宰治全集5』がある。 【収録作品】 鉄面皮/赤心/右大臣実朝/作家の手帖/佳日/散華/雪の夜の話/東京だより/新釈諸国噺(貧の意地/大力/猿塚/人魚の海/破産/裸川/義理/女賊/赤い太鼓/粋人/遊興戒/吉野山)/竹青 お薦め度:★★★☆☆ 【本書の感想】 <全体の感想> 本巻の読みどころは、何と言っても太宰の第3長篇「右大臣実朝」とその周辺の作品群。 この頃の作品には、激しさを増す戦火が大きな影響を与えている。銃後の社会を太宰がどう生きたかも感じられて、そのあたりも興味深い。 「鉄面皮」 「右大臣実朝」を書いている最中に、その一部を引用しながら書いた小文。自分の作品を紹介することを「鉄面皮」と自嘲しながら書いた文が面白い。 もともと芸術家ってのは厚顔無恥の気障ったらしいもので、漱石がいいとしをして口髭をひねりながら、吾輩は猫である、名前はまだない、なんて真顔で書いているのだから、他は推して知るべしだ。所詮、まともではない。(13項) 「右大臣実朝」 鎌倉幕府第三代将軍・源実朝の伝記小説。「いつかは実朝を書きたいと思っていた」というだけあって、完成度の高い作品である。 本書で描かれる実朝は、将軍でありながら風流を好み、言葉少なく浮世離れした感性を持っている。聖徳太子を神聖視し、常に世の喧騒から一歩引いて和歌を嗜むスタンスを崩さなかった実朝の生き方は、太宰が自らの美的センスを投影したとも言われる。 平家ハ、アカルイ。……アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ。(40―41項) この有名な台詞は、平家の滅亡を予言するとともに、いつか自らも同じ運命をたどるであろうことを自覚しているようでもある。この儚い頽廃感が、太宰が自らを実朝に重ねているとされるゆえんである。 だが私は、作中で太宰自身にもっとも近いのは公暁だと思う。以下に引用する台詞などは、太宰自身の言葉そのものではないか。 死のうかと思っているんだ。……京都は、いやなところです。みんな見栄坊です。嘘つきです。口ばかり達者で、反省力も責任感も持っていません。だから私の住むのに、ちょうどいいところなのです。軽薄な野心家には、都ほど住みよいとこはありません。……どうしてだが、つい卑屈なあいそ笑いなどしてしまって、自分で自分がいやになっていやになってたまらない。……死ぬんだ。私は、死ぬんだ。(185―188項) 公暁は実朝を暗殺して自らも倒れる。 この結末に、太宰は何を託したかったのだろうか? 「散華」 特攻隊として戦死した後輩へのオマージュ。三田君というその後輩には、太宰は文学的才能を微塵も感じていなかったが、玉砕する寸前に届いた手紙を読んで感動する。 大いなる文学のために/死んで下さい。/自分も死にます、/この戦争のために。 死んで下さい、というその三田君の一言が、私には、なんとも尊く、ありがたく、うれしくて、たまらなかったのだ。これこそは、日本一の男児でなければ言えない言葉だと思った。(251項) 太宰の性格からいって、ほんとうにそう思ったのだろう。だからこそ時代の空気を伝える一篇である。 「竹青」 「支那の人たちに読んでもらいたくて書いた。漢訳せられる筈である」と太宰自身の註にあるように、漢訳されて中国向け雑誌に掲載された中国古典調の中篇。 勉強しても勉強しても郷試に落ち続け、一向にうだつの上がらない中年男・魚容。俗世間に絶望した彼は、神の使いの手引きで一瞬だけ烏に変身し、烏の世界を体験する機会を得る。しかし人間世界への未練を捨てきれない魚容に、神の使いはこう告げる。 人間は一生、人間の愛憎の中で苦しまなければならぬものです。のがれ出ることはできません。忍んで、努力を積むだけです。学問も結構ですが、やたらに脱俗を衒うのは卑怯です。もっと、むきになって、この俗世間を愛惜し、愁殺し、一生そこに没頭してみて下さい。神は、そのような人間の姿をいちばん愛しています。(440項) むきになって人間の愛憎の中で苦しみ続けた太宰らしい一文。
こういう文章が書けるから、私は太宰が好きだ。 |
書評 日本文学
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おはようございます
コメントをありがとうございました。
私は実朝からの興味で「右大臣実朝」を読んだのですが、作者についても詳しければ理解が深まってより楽しめそうですね。
作品には書かれた時代背景なども影響するだろうし…
詳しく書かれている記事を読ませていただいてとても興味深かったです。
2011/12/12(月) 午前 8:44 [ cotton ]
お〜!!!
さすが大三元さん!太宰も進んでいますね。
あつぴは、最近本を読んでません・・・。
実朝は1度読みましたが、もう1度繰り返し読んでみたいものです。
2011/12/12(月) 午前 11:30
私の知らない、太宰作品ばかり。
有名どころしか、ちゃんと読んだことないもんなぁ。
秋は、太宰なのですね。
2011/12/12(月) 午後 7:45 [ わかめ ]
読書の喜びを堪能できそうなレポートですね。
太宰は偽悪者ですね。自分の心も他人の心も硝子のように
見通せたんですかねえ・・・生きることは怖ろしかったでしょうね。
なぜ女を道連れにしたんでしょうか?
おんなのほうから「附いていかせてください」と
懇願されたのでしょうか?
そうでなかったとしてもモテる男はつくづく”悪魔”ですね!
2011/12/13(火) 午前 9:49 [ pilopilo3658 ]
>cottonさん:ご訪問&コメントありがとうございました。
実朝からの興味で読まれたとは珍しいですね。作者のバックグラウンドや時代背景が作品に影響するのは事実ですが、まずはその作品そのものを楽しめればいいと思います。その点、太宰はハズレがないですね。
2011/12/18(日) 午前 1:15
>あつぴさん:私も最近読書のスピードがめっきり落ちてしまい・・・。
そういえば、あつぴさんが以前読まれていた猪瀬直樹『ピカレスク』を最近入手しました。読むのを楽しみにしています。
2011/12/18(日) 午前 1:17
>わかめさん:太宰は、有名作品はもちろんいいですが、マイナーどころの小品も意外な発見があって大変面白いです。特に全集で読むと、太宰の作家としての幅広さ、俗世間で生きることの苦楽を感じることができるので、毎年1冊は読んでます。
2011/12/18(日) 午前 1:21
>あおちゃんさん:私は太宰作品のファンですが、実は太宰本人の人生についてはあまりよく知りません。猪瀬直樹の手になる伝記『ピカレスク』を入手したので、そこらへんも含めて読んでみたいと思っています。
2011/12/18(日) 午前 1:23
むきになって俗世間を生きる姿、、、いいですね♪
でも、、太宰は出来なかった。。。
だから、、そういう姿に憧れるというかそういう生き方が好き、したい。。。でも、出来なかった。。。
そんな気がします。。。(笑)
(*^-^*)/~
2011/12/18(日) 午後 10:59
>さんぽさん:太宰は、俗世間に生きることができなかったのでしょうか。。
私は、俗世間に生きた結果としてあのような末路につながったような気もするのですが。でも、自殺してしまったということはやっぱりできなかったのかな?
2011/12/19(月) 午前 2:53
「竹青」は子供の頃から国語の教材で
馴染んでおりました。
元々中国の古典を太宰が翻訳したのかと
勘違いしておりました。
2011/12/20(火) 午前 8:12 [ 名無しの権兵衛 ]
>リッチーさん:「竹青」をご存知とは珍しいですね!教科書に載っていたとは、これも知りませんでした。
中国の古典調なので、翻訳とも見紛う出来栄えですが、引用した台詞なんかは、ああ、太宰だなあと思わされます。
2011/12/26(月) 午前 1:51