「My Best Books 2011」人文・社会科学部門さてお待ちかね、「My Best Books」の記事を始めます。2011年に読んだ本の中から、人文・社会科学部門と文学・随筆部門で10冊ずつ、計20冊をランキングします。 今日は人文・社会科学部門。 冊数もさることながら、読書の質が残念でした。 1年間で★5つが1冊、★4つが2冊だけというのは、あまりにも寂しい。 今年はもう少し質も上げていきたいですね。 第1位 宮台真司・東浩紀『父として考える』(NHK生活人新書、2010年)その1/その2 この二人は何冊も対談本を出しているはずだけど、その中でも抜群の面白さ! それほど統一感のある内容ではないしガチンコの議論があるわけでもないが、興味深い発言がたくさんある(特に東浩紀)。相変わらずオレオレ感丸出しの宮台に対し、人間の弱さを肯定する東の謙虚さが際立っている。 万人ウケはしないかもしれないが、読み易いし話題が多岐にわたるので、軽い気持ちで手に取って欲しい本である。 第2位 盛山和夫『経済成長は不可能なのか――少子化と財政難を克服する条件』(中公新書、2011年) 震災復興もおぼつかないまま未曾有の円高が産業を直撃し、社会保障の立て直しもままならない日本経済。 そんな状況下、あのゴリゴリの理論社会学者・盛山和夫が経済政策を提言する!というのだから興味津々で読んだが、予想以上に面白い! 経済学者からは枝葉について色々批判が出てるみたいだけど、基本的に大枠の認識は間違っていないと思うし、政策提言のパッケージはおそらく正しい。おそるべし、盛山和夫。 第3位 内田樹『日本辺境論』(新潮新書、2010年) 売れっ子思想家の新書大賞受賞作。売れた本を褒めるのは気がひけるが、内田の仕事は軽い気持ちで読むと面白い。 日本人は伝統的に「世界の中心はどこか他にあって、日本はその辺境だ」と思い込んできた。この主体性の欠如とも言うべき国民性は、しばしば世界の先進文明にキャッチアップするのに役立った。その国民性の起源は、よく言われるように勤勉性などではなく、「愚鈍になる能力」にあるのだという。 書評112:『私家版・ユダヤ文化論』にしろ本書にしろ、内田はこういう新書を書かせると滅法面白い。 第4位 福沢諭吉『福翁自伝』[新訂](岩波文庫、1998年) 近代日本一の思想家、福沢諭吉の自伝。 「近代自伝文学の傑作」として、以前取り上げた書評183:『フランクリン自伝』と並び称される本書だが、個人的にはこちらの方が圧倒的に面白かった。思想的・歴史的な分析を措いても、単純に読んで面白いという評価があるのも頷ける。 『フランクリン自伝』と共通している本書の魅力は、その率直さであろう。福沢はその驚くべき記憶力で自らの人生を滔々と語るが、そこには虚飾など微塵もない。 第5位 岡本隆司『中国「反日」の源流』(講談社選書メチエ、2011年) このタイトルだと右派による中国批判の本と誤解されかねないが、日中間の桎梏を取り去るために知るべき客観的事実を、明快に説明してくれる良書。 根深い中国人の“反日”的思考はどこからくるのか。その起源を16世紀以降の中国社会の構造から説明している。その博覧強記ぶりが逆に一冊の本としてのまとまりを欠く結果を招いているのがやや残念。 第6位 ジャック・アタリ『国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?』林昌宏訳(作品社、2011年) 世代を超えた借金はどこまで許されるのか。それを歴史的に検証し、解決への糸口を探るのが本書の目的である。 再び世界中の懸案となっている欧州債務危機。その構造と背景を知るにはうってつけの本だろう。 子どもたちの世代に痛みを先送りすることなく、我々の世代が痛みを引き受ける覚悟があるか。痛みを引き受ける政策でリーダーシップを発揮する政治家を選ぶ覚悟があるか。 「未来は、経済学の理論ではなく、政治的な議論にかかっている」というのが本書の結論だ。 第7位 木下是雄『理科系の作文技術』(中公新書、1981年) 理科系に限らず「仕事で」文章を書く人には参考になるであろうテクニカル・ライティングの本。 いわゆる「良い文章」=文章読本的な講座ではなく、重要なポイントをいかに読者に伝えるかという「仕事上の技術」に焦点を当ててある。 改めて自分の書く文章を振り返ってみると、当たり前のことであっても常にできている訳ではないことが多い。たまに読み返したい本だ。 第8位 鈴木亘『年金は本当にもらえるのか?』(ちくま新書、2010年) 年金問題は、もはやマスメディアの話題にものぼらなくなったが、構造的な問題が解決されたわけではなく、むしろ先送りされただけだ。このままでは国民の無関心がいっそう年金問題を袋小路に追いやってしまう。 本書の主張の正しさは議論の余地ありとしても、初心者にも読み易い構成になっているので、まずは入門書として本書を手に取るのが適当だろう。 第9位 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』鬼澤忍訳(早川書房、2010年) NHKで放映されたハーバードでの講義番組がきっかけで(再)ブレイクしたサンデル。リベラル=コミュニタリアン論争から20年以上経ってサンデルがこんなにも売れるとは、誰も予想できなかっただろう。 その主張は以前と変わっていないものの、コミュニティの価値を強調する保守主義的色合いが薄れ、議論による合意を重視する共和主義的側面が強くなったように感じた。 第10位 中村隆英『昭和恐慌と経済政策』(講談社学術文庫、1994年)
経済史の泰斗による、昭和恐慌とその対処に当たった井上準之助蔵相を論じた書である。昭和恐慌の歴史的事実の記述というよりも、金解禁という経済政策が、政局・イデオロギー・人間関係の絡み合いによって辿った運命を追跡したドキュメント、と表現する方が正しい。 奇しくも第6位のアタリと同じ結論になるが、経済政策は優れて政治的決定に依存するものなのである。 |
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>その国民性の起源は、よく言われるように勤勉性などではなく、「愚鈍になる能力」にあるのだという。
なんとなく分かるような気がします。
政治家もよく使う「愚直」という言葉も似ています。
大石内蔵助の「昼行灯」って奴かも知れません。
2012/1/6(金) 午後 7:44 [ 名無しの権兵衛 ]
>リッチーさん:「愚鈍」というのは、師匠の言うことを微塵も疑わずに従う心性のことを言っています。最近のビジネス書では「常に疑問を持つこと」「自分から発信すること」が是とされ推奨されていますが、それも日本人が苦手だからそういうことが言われる。しかし、苦手であることのメリットもあるということですね。
2012/1/7(土) 午前 11:22
「第2位 盛山和夫『経済成長は不可能なのか――少子化と財政難を克服する条件』(中公新書、2011年)」と「第3位 内田樹『日本辺境論』(新潮新書、2010年)」の2冊しか読んでません。恥ずかしい次第です。
2012/1/8(日) 午前 7:54
人文・社会科学は、稀にしかよみませんが、ランキングにあがったものは、どれも興味をそそられるものばかりですね。
暇なうちに呼んでおけばよかった(笑)
2012/1/8(日) 午前 9:27
>Mineさん:コメントありがとうございます。それでもこの記事の中の2冊をお読みとのこと、嬉しいです。そもそも私の読書がマニアックですから。
2012/1/8(日) 午後 10:36
>オブ兵部さん:本を読む暇がないくらい忙しいオブさんの2012年の中に、この中の何冊かが紛れ込んでくれればこれ以上の幸いはありません(笑)。
2012/1/8(日) 午後 10:38
こんにちは。
私は4冊(盛山、内田、鈴木、サンデル)読んでいました。
1位の宮台・東も書店でタイトルだけ見て手を出していなかったのですが、単なる育児論ではなかったんですね。今度、是非読もうと思います。
2012/1/9(月) 午前 1:48 [ だいちゃん ]
遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
あっ、お年玉のベスト記事ですね♪第三位の内田樹さんの著作はぜひ読んでみたいと狙っている一冊です。第一位の対談集も面白そう。でもこの本はたぶん大三元さんの書評を読まなかったらきっと見向きもしなかったと思います〜。
2011年が大三元さんにとって良い年でありますように!
2012/1/9(月) 午前 10:39
>だいちゃんさん:おお、10冊中4冊もかぶるとは!とても嬉しいです。
1位『父として考える』は、育児論というより「父というプライベートな立場を得た論客の思想はどう変わったか?」という視点が面白いです。是非!
2012/1/9(月) 午後 10:34
>あんごさん:My Best第一弾は、人文・社会科学部門です。内田に新書を書かせたらやっぱり面白いですねえ。数多の新書書きの中でも、アカデミズムの基礎がしっかりしていて思想がブレないから安定感がありますね。
今年と言わず、今後とも末永くよろしくお願いします。
2012/1/9(月) 午後 10:42
大三元さん、こんばんは。先日はコメントありがとうございました。
大三元さんの記事を読むと、特に昨年は教養のための読書が自分は全然できていないことを痛感します。そしてもっともっと本を読んでみたいという気持ちになります。
これからも刺激をいただきにうかがいたいです。
2012/1/9(月) 午後 11:21
>ペコスマイルさん:コメントありがとうございます。
私も、年々読書量が減ってきてしまいました。今年はちょっと気合を入れ直したいです。
今年もよろしくお願いします。
2012/1/10(火) 午前 2:36