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こっちは人文・社会科学部門よりも平均点が高かった。 1位と2位に★5つ、6位までに★4つをつけているのも、人文・社会科学部門とは好対照。 小川洋子はずっと温めていただけの甲斐のある作品だったし、『沈まぬ太陽』も大作を読み通した充実感がある。 今年は人文・社会科学系の読書を頑張ると同時に、良質な文学との出会いも続けたいものです。 第1位 小川洋子『ミーナの行進』(中公文庫、2009年) 小川洋子は期待を裏切らない。小川作品の特徴の一つは独特の硬質さ・透明感にあるが、書評35:『博士の愛した数式』ではそこに静謐な暖かさをプラスし、新たな境地を切り開いた。本書はその路線を踏襲し、小川作品のポジティブなエッセンスを凝縮していると言えよう。 小説が大切にすべきものを思い出させてくれる傑作である。 第2位 山崎豊子『沈まぬ太陽』(新潮文庫、全5冊、2002年)その1/その2 御巣鷹山の航空機墜落事故とJALの腐敗を題材にとった大作。実際の事故をモデルにしているため、フィクションの境目が微妙で、読み方が難しい部分はある。にもかかわらず、山崎の力強い筆致にはぐいぐいと読ませるだけの迫力があり、読者を離さない。 火のないところに煙は立たず、という諺は、現在のJALの惨状が証明している。 映画版も約3時間半もある大作だが、一緒に楽しむと面白いかも。 第3位 司馬遼太郎『街道をゆく40 台湾紀行』(朝日文庫[新装版]、2009年) 司馬の紀行文は素晴らしい。土地と時代を縦横無尽に往復しながら、人物と文化を造詣してゆく。その筆致が思いがけない鮮やかさを見せるのは、本書のように異国の人の微妙な感情をすくい取る瞬間だ。司馬は日本の歴史小説で名を成したが、それは多様な人々が背負っているものへの想像力が逞しかったからこその偉業だと言える。 本書を読み終わる時、一度も台湾を訪れたことのない読者でさえ、台湾人に親しみを覚え、台湾に行きたくなっているに違いない。 第4位 アリステア・マクラウド『彼方なる歌に耳を澄ませよ』中野恵津子訳(新潮クレスト・ブックス、2005年) カナダ東端の島ケープ・ブレトンを舞台とし、スコットランドからの移民の末裔たちがこの小説の主人公である。彼らは、幾世代を経ても自分たちの血を忘れず、祖先の逸話を伝承し続け、けなげな犬たちを友とし、極寒の地で静かに逞しく生きている。 マクラウドの小説には、大仰な主張があるわけでもなく、大胆などんでん返しがあるわけでもない。にもかかわらず、こんなにも懐かしくあたたかい余韻を残すのはなぜだろう。 第5位 森見登見彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫、2008年) 好みが分かれる作品だと思うが、私は好きである。京都で学生時代を送った人なら、あるいは個性溢れる人々に囲まれる楽しさを知っている人なら、共感してくれるはずだ。 本書はただのフィクションだと思ったアナタ。どっこいこれは実話ですよ(ちょっと誇張されてるけど)。 本書をくだらないドタバタ劇だと思ったアナタ。その方が人生が楽しくなると思いませんか? 騙されたと思って、夜の先斗町に、京都の学園祭に繰り出してみましょう。 第6位 谷崎潤一郎『猫と庄造と二人のおんな』(新潮文庫、1951年) 谷崎作品の中では異色作であるが、非常によく出来ている中篇。 巧みな構成、文章のクオリティには唸らされるばかり。おまけにネコ派の気持ちまでわかるというオマケつき。 書評104:『春琴抄』や書評194:『細雪』とも違う筆致を見せてくれた谷崎にますます興味がわいたので、小谷野敦の『谷崎潤一郎伝』も読みたくなってきた。 第7位 カフカ『変身/掟の前で 他2篇』丘沢静也訳(光文社古典新訳文庫、2007年) 「不可解なものを不可解なまま受け入れること」。かつて保坂和志が小説を読むという行為をそのように表現したときに、例に挙げたのがカフカだった(書評209:『小説の自由』)。 確かに、そういうことができる小説である。しかも色々考えさせられるものがあり、古典として読み継がれているのも頷ける。 ほかのカフカ作品も読んでみたくなった。 第8位 太宰治『太宰治全集6』(ちくま文庫、1989年) 毎年1冊はちくまの全集ものを読むことにしている。今年は太宰自身が「いつかは実朝を書きたいと思っていた」という思い入れのある長篇「右大臣実朝」が読みどころの第6巻である。 太宰が自らの美的センスを投影したとも言われる実朝と、どう考えても太宰の本心が投影されているように読める公暁。そのコントラストが面白い。 その他にも中国人向けに書かれた「竹青」など、相変わらず幅の広さを感じさせる作品群を収める。 第9位 陳舜臣『耶律楚材』(集英社文庫、全2冊、1996年) 元朝の宰相としてチンギス・ハン、オゴディ・ハンに仕えた耶律楚材の伝記小説。「理想のNo.2」を描いたとされる。 伝統的に「公」の観念が希薄な中国大陸において、人民のために働いた楚材は稀有な存在であった。 同じ時代に生きる人々――自らの家族を含めて――のために平和な時代を築くために、楚材はモンゴルの軍事力を利用しようとした。その政治観には、巨大化した現代中国を目の前にしたわれわれも、学ぶべきことが多いはずだ。 第10位 司馬遼太郎『街道をゆく26 嵯峨散歩、仙台・石巻』(朝日文庫、1990年) 第3位の『台湾紀行』ほどではないものの、そこはやはり司馬遼太郎。興味深い視点が尽きない。 仙台が昔から東北地方の中心地であったにもかかわらず文化的遺産が少なかった理由を、仙台平野が豊かであった点に求めること。 観光というのは歴史と文化を踏まえた目で観るべきものであること。 旅行のお伴としての「街道をゆく」は全幅の信頼を置ける。この調子で全巻制覇なるか? |
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小川洋子「ミーナの行進」、少女たちが主人公のためか、この人の作品の中でもおとぎ話のようなムードが強く出ていたと記憶しています。
他では、マクラウドがいつもながらすばらしかった。
「夜は短し・・・」と「猫と庄造と・・・」、「変身」は読んでいますが、太宰は文学全集に載っていたり文庫化された代表作しか知らないですね。「沈まぬ太陽」はその長さに恐れをなして、なかなか手が出ません。
「街道をゆく」シリーズの制覇、がんばってください。
2012/1/12(木) 午前 6:13
>「不可解なものを不可解なまま受け入れること」
まさに人生そのものについて言っているようです(^^;)
2012/1/12(木) 午前 9:23 [ 名無しの権兵衛 ]
「夜は短し〜」と「変身」しか読んでいません^^;
マクラウドの作品と、太宰の作品が気になります^^
2012/1/12(木) 午後 6:08
全体として硬派でありますが、バラエティーに富んだ作品が
並びましたね。
う〜ん、太宰と谷崎は今までの偏見を捨てて挑戦してみようかな。
2012/1/12(木) 午後 10:03 [ pilopilo3658 ]
司馬さんの紀行文は、今「アメリカ素描」を進行中です、おもしろい!「街道をゆく」シリーズは購入してネシアにもっていこうかなぁ、そろそろ持って行く本の準備もしなければなりませんし。。。
2012/1/12(木) 午後 10:34
1位の小川洋子は、機会があったら読んでみたいですね。
この中では「沈まぬ太陽」を読みました。
ボク自身労働運動をしていた事があるので、身につまされるような思いで読みました。
山崎の作品はどれも読みごたえがあります。
2012/1/13(金) 午後 6:59
小川洋子さんは、いいですよね〜。
最近、「妊娠カレンダー」と「シュガー・タイム」を再読しました。
そうそう、透明感のある独特な文章は独特です。ね。
この「ミーナの行進」も以前に読みました。
可愛いイメージが残ってたので、大三元さんがベスト1に選んでるのはちょっとびっくりしました。大三元さん、さすが許容量がとてつもなく大きいですね。
その他は…どれも読んだことありません。
私ってば、読書傾向が偏ってるからなぁ。もっと難しいのや古典にも手をのばしたいっと思います。はい。
2012/1/13(金) 午後 8:42 [ わかめ ]
>Tomatoさん:さすが、5冊も読まれているとは!
『ミーナの行進』は、小川洋子作品の中でもわりととっつきやすく、アレルギーを起こす人も少ないのではないかと思います。
マクラウドもよかったですね〜。私は2冊読んだだけですが、あの独特の世界観はクセになりそうです。
『街道をゆく』全巻制覇は遠い道のりですが、地道に頑張りたいです。
2012/1/13(金) 午後 10:21
>リッチーさん:全く異質のものを受入れるという意味では、究極的にはおっしゃる通り人生と読書はあまり違わないような気もしますね。
2012/1/13(金) 午後 10:26
>ねこりんさん:森見登見彦は、ねこりんさんに教えていただいた作家といっても過言ではないかもしれません。今年の楽しい本のご紹介を期待しております!
2012/1/13(金) 午後 10:30
>あおちゃんさん:太宰と谷崎こそ、近代日本文学の「退屈さ」を覆してくれる作家だと思います。二人の引き出しの豊富さ、文章のユーモア、感情表現の豊かさには舌を巻くばかりです。
2012/1/13(金) 午後 10:32
>凛さん:『アメリカ素描』も面白いらしいですね。『街道をゆく』は旅行のお供が最適ですが、旅行とは違う視点でも楽しめる本かもしれません。
それはそうと、またインドネシアに発たれるのですか?日本にいる間に、読みたい本は今のうちに積ん読くべきかも?
2012/1/13(金) 午後 11:07
>オブ兵部さん:組合運動などは最近流行りませんが、でも普遍的な要素の一つですよね。オブさんも労働運動をされていたことがあるとのこと、人柄を考えればさもありなんと推察します。
山崎豊子の作品では、ほかに『大地の子』『二つの祖国』を狙っています。浅田次郎の長篇も読みたいですね。
2012/1/13(金) 午後 11:13
>わかめさん:小川洋子はマイ・ベスト作家の一人です。現代日本の小説家の中ではベストかもしれません。『シュガータイム』は小川洋子の原点を垣間見れたような作品でしたね。
私の読書は人文・社会科学を含めて守備範囲の広さだけがウリです(笑)。
今後ともよろしくお付き合い下さい。
2012/1/13(金) 午後 11:31
TBありがとうございます^^お待ちかねの文学・随筆部門のベストが♪小川洋子さん、堂々の一位ですね!!「博士の〜」以来ご無沙汰しているので「ミーナの行進」はぜひ読んでみたい1冊です。
司馬先生の紀行文は面白そうですね。「街道をゆく」を旅の友にするとは大三元さんらしい!こちらからもぜひTBさせてくださいね^^
2012/1/22(日) 午前 10:26
>あんごさん:『ミーナの行進』は小川洋子のいいところ(私の好きなところ?)がすごく良く出ている作品だと思います。是非ご賞味あれ。
トラバありがとうございました!
2012/1/22(日) 午後 11:11