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書評 いろいろ

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書評241 石田雄太

『イチロー・インタヴューズ』

(文春新書、2010年)

昨年、連続200本安打のメジャー記録が10年で途切れてしまったイチロー。
自身が最もこだわってきた200安打記録が途絶えたとき、「なぜかすっきりしている」と短いコメントを出した。
 
イチローは、今までどれほどのプレッシャーと戦ってきたのか。
その中で何を感じ、考えてきたのだろうか。
 
 
【著者紹介】
いしだゆうた (1964 スポーツジャーナリスト。
名古屋市出身。青山学院大学文学部卒業後、NHK入局。NHKではサンデースポーツなどのディレクターをつとめる。1992年にNHKを退職し独立。現在はフリーのジャーナリストとしてテレビ・ラジオのスポーツ番組の構成・演出や執筆活動を行っている。
主著に『声―松坂大輔メジャー挑戦記』、『屈辱と歓喜と真実と―“報道されなかった”王ジャパン121日間の裏舞台』、『イチローイズム―僕が考えたこと、感じたこと、信じること』、『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』など。
 
 
【目次】
1 飛翔—2000〜2002(「どうせなら、ユニフォームのカッコいいところがいいな
「向こうに行くことが夢じゃないですから」 ほか)
2 試練—2003〜2005(「一番苦しいと感じるのは、できるのにできないということ」
「え、トップって、何が?」 ほか)
3 栄光—2006〜2007(「獲りにいって獲った世界一ですから」
日本のこと、大好きです」 ほか)
4 結実—2008〜2010(「去年の涙は、悔しさがすべてではない」
「おっと、松坂選手、言うようになったね」 ほか)
 
 
【本書の内容】
2000年秋、メジャー行きこそ決定したものの所属球団が未定の時点で、期待と不安が入り交じった気持ちを告白したものから、数多(あまた)の記録の樹立、絶不調の中、自らのバットで決めたWBC連覇、そして10年目のシーズンを迎える2010年の抱負まで──。9年半に及ぶスーパースターのすべてがここに語られています。
 
 
お薦め度:★★★☆☆
 
【本書の感想】
イチローがメジャーに挑戦した2001年から10年間にわたって積み重ねられ、『Number』に掲載されたインタヴューを収録している。
 
メジャーのシーズン最多安打をはじめ数々の驚異的な記録を打ち立ててきた男は“天才”の名を欲しいままにしてきた。
ところが本人はそのレッテルを嫌がる。自分がそれだけの努力をしてきたという自負があるからだ。
このインタヴュー集では、世間からの“孤高の天才”というイメージとは裏腹の、無邪気な素顔と壮絶な努力を垣間見ることができる。 
 
以下、特に印象に残った部分を抜書きしコメントを加えていきたい。
 
 
 
「僕は球場ごとにいくつかのポイントを決めて、それを見ることで精神的なコントロールをしているんです。いつも普通の精神状態でいられるように、準備をしているということかな。」(Nov 2001,60項)
イチローは、ルーティンの「癖」を大事にする。打席で一球ごとにバットを高々と上げるおなじみの仕草は、ピッチャーに焦点を合わせているのだという。守備のときも、守備位置から見える何かを見ることに決めて確認する。それがいつものように見えているということは、精神状態が普通であることを意味する。ならば、いつもの感覚に従ってバットを振ればいい。
シーズン200安打を当然のように達成してしまう実力を持つイチローだからこそ言える言葉だ。普通の精神状態であれば、ヒットを打てる。それがどれだけすごいことか。
 
 
 
「詰まらされると、ピッチャーのまっすぐに負けたという意識を持たされるから、嫌がる選手って多いと思うんですよ。……でも詰まることを恐れなければ、ツーストライクの後、アウトサイドに意識を置いていても、インサイド高めを詰まってヒットにできるんです。もちろん、僕も詰まることを恐れません。それは、技術なんです。そうやってヒットを打つやり方もある。」(Jan 2002,74―75項)
自分のバッターとしての特徴を問われて、「詰まることを恐れない姿勢」と答えるイチロー。「最後までグリップが残るのが自分の打撃の生命線」と話し、同じことができるバッターとしてジーター(ヤンキース)、落合博満(ロッテなど)を挙げている。
イチローの内野安打やポテンヒットは、実は技術の結晶であることが語られている。
 
 
 
「もちろん、弓子が一緒に戦ってくれているということは十分にわかっています。でも選手として、同情されるのは最大の屈辱なんですよ。……非難された方がよっぽどマシだと思いますから」(Jan 2005,158―159項)
シーズン最多安打の大リーグ記録に挑戦中の2004年9月、ノーヒットだった試合のショックを家庭に持ち込んだイチローに対し、弓子夫人は「打てなかったらしょうがないじゃない」と慰めようとした。ところが、この言葉にイチローは珍しく声を荒げて「そんなことは打てなかったときに後から考えればいいことであって、今そんな気持ちになってしまったら絶対に打てない」と答えたという。
夫人に対する思いやりを欠いていたと反省しながらも、「選手として、同情されるのは最大の屈辱」と言い切ることができる強い精神力こそ、イチローという選手を作り上げてきたに違いない。
 
 
 
「94年の頃の僕には、笑ってる印象があったはずです。……でも10年後、それはきっと正反対になってますよね。イチローは笑わない。……笑っているということは、必ずスキが生まれているはずです。笑顔が消えたのは、次のプレーに対する恐怖を知ったからなんです。」(Mar 2005,176―177項)
94年の頃は野球が楽しくてしょうがなく、ヒットをたくさん打っては笑っていたイチロー。それが、いつしかポーカーフェイスがトレードマークになっていく。
そうなっていることが「実は快感」とまで言い切るのは、勝負の世界の厳しさを知る者ならでは。
 
 
 
「強いチームというのは、個人があってチームがあると思うんです。個々が持っている力を発揮して、役割を果たして、それが結果としてチームとしての力となる。でも、弱いチームはそうではない。個人の力が発揮されない、だから勝てない、チームのためにという言葉でごまかして個人の力を発揮できないことへの言い訳を探す、そうしたらもっと勝てなくなる…悪循環ですよね。」(Nov 2005,203項)
イチローは「チームのために」という言葉を嫌う。チームのために努力するのは当然のことであって、それでも試合に勝てない場合こそ自分の仕事に集中するしかない、そのことでチームに貢献するしかないと考える。
「チームのために」という美しい建前の盲点を突いた言葉だ。
 
 
 
「この時期にWBCがあったというのは運命ですし、出ると決めたのも僕の宿命なんです。……生きている間には、そうやって重荷を背負わなきゃいけないときが来ると思っていましたからね。今がその時期だと判断したんです。……だから今日、結果として目指したことを実現した、その満足度は大きいですよ。ベストを尽くしますと言って結果的にそうなったという世界一ではなく、獲りに行って取った世界一ですから…」(Apr 2006,221項)
今まで敢えてリーダーシップを執ろうとしなかったイチローが、チームリーダーの責任を背負った第一回WBC。そこには、やはりイチローなりの決意があったのだ。
 
 
 
「僕は日本人であることを意識していたいし、もっともっと日本人でありたいと思うようになりました」(May 2006,244項)
イチローは、実はめちゃくちゃアツい日本人なのですね。
 
 
 
「そりゃ、打てますよ、打てますけど、だから広くするなんて、ありえないでしょう」(Nov 2007,324項)
メジャーでこれだけ突出した数字を残し続けると、審判の判定が極端に厳しくなり、まるで「いいじゃないか、お前はそれでも打てるだろ」とでも言わんばかりにアウトコースのストライクゾーンが広くなっていった。それに対応するために、イチローは知らず知らずのうちにベースに近づいて立ってしまい、インコースを捌き切れず調子を落としていたのだという。弓子夫人の指摘でそれに気づいたイチローは「ありえないでしょう」と愚痴りつつも、調子を取り戻して首位打者争いに舞い戻った。
イチローのレベルになると、審判とも闘わなければならないのだ。
 

閉じる コメント(10)

大三元さんおはようございます。
自分、実は地元で川をはさんだ隣の小中学校にイチローがいたんですよ(^_^;)
年も同じくらいですしね。
イチローが子供時代に通ってたバッティングセンターにも普通に行ってました。
ですからああいう人間があの人口数万人の町から出たっていうのは結構驚きなんです。

ちなみにこの前亡くなったプロレスラーの上田馬之助さんもイチローと同じ町の出身なんですけどもね(^_^;)

2012/1/30(月) 午前 6:43 [ もたんもぞ ]

プレッシャーに負けないということは
最大の敵「自分」に負けないということですね。

2012/1/30(月) 午後 2:56 [ 名無しの権兵衛 ]

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さすがイチロー、いいこと言いますね。
もっとも、どういうわけかぼくはイチローよりも松井のプレーにより魅力を感じるファンのひとりですが。

2012/2/2(木) 午後 10:46 蓮

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>もたんもぞさん:そうなんですか!イチローと同じ空気を吸っていたなんて、すごいことですね。どこかですれ違っていたかも?私はそういう経験が全くありませんので、羨ましいです。

2012/2/2(木) 午後 11:32 大三元

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>リッチーさん:おっしゃるとおり、イチローは「イチローという選手に対して最も厳しかったのはイチローだったということです」と語っています。

2012/2/2(木) 午後 11:36 大三元

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>蓮さん:イチローの思わぬ一面が見えたりして、ファンの一人として楽しめる一冊でした。松井も、こういう本が出たら面白いと思います。同じ著者に松井の本があるので探してみようと思っています。

2012/2/2(木) 午後 11:37 大三元

本人が否定しようともやはり天才です。
究極の努力ができるのも、天才の属性の一つであって良いと思います。
天才イチローなるが故の金言の数々、、、求道者の言葉です。

2012/2/3(金) 午前 3:12 オブ兵部

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ご無沙汰しております。
「生きている間には、そうやって重荷を背負わなきゃいけないときが来ると思っていましたからね。今がその時期だと判断したんです。」
↑くうう!!イチロー!!!凄すぎます。本当にストイックですね。
上のコメントでオブ兵部さんもおっしゃっていますが、「求道者」という言葉がぴったり。格好いいなあ。
・・・あっ、松井の本の感想もよろしくお願いします(願)

2012/2/11(土) 午前 9:18 ang*1jp

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>オブ兵部さん:おっしゃる通りですね。努力の方法を見つけられるのも才能、それを続けられるのも才能のひとつでしょう。道は違えども、やはりその道を極めた人の言葉というのは勉強になります。

2012/2/19(日) 午後 4:36 大三元

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>あんごさん:最近、スポーツジャーナリズムもいいなあと思っているのですよ。松井本はまだ買ってませんが、以前ご紹介いただいた『スローカーブを、もう一度』も大切にとってある(早い話が積ん読ですが)のでお楽しみに!

2012/2/19(日) 午後 4:39 大三元


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