書評246 高階秀爾『誰も知らない「名画の見方」』(小学館101ビジュアル新書、2010年)イタリア旅行予習本第2弾。西洋美術史に燦然と輝く名画や彫刻・建築も観られるかもしれないので、美術に疎い私も少しかじってみようかなと思う。 まずは、西洋美術史の権威による入門書。 【著者紹介】 たかしな・しゅうじ (1932年―) 東京大学文学部名誉教授。大原美術館館長。専門は美術史。 1953年 東京大学教養学部教養学科卒業。1979年東京大学文学部教授となり、以降同名誉教授、国立西洋美術館館長、パリ第一大学名誉教授、京都造形芸術大学大学院長などを歴任。 2000年紫綬褒章、05年文化功労者。 東京大学美術史研究室教授として数多くの著作を著し、啓蒙的役割を果したルネッサンス以後の西洋美術を専門としながら、日本近代美術にも造詣が深くその方面の著作もある。 【目次】 第1章 「もっともらしさ」の秘訣 第2章 時代の流れと向き合う 第3章 「代表作」の舞台裏 第4章 見えないものを描く 第5章 名演出家としての画家 第6章 枠を越えた美の探求者 第7章 受け継がれるイメージ 第8章 新しい時代を描き出す 【本書の内容】 「名画」には、絵画鑑賞をより楽しく充実させるための、「見方」があります。本書では、八つのテーマに分類された「名画の見方」に基づき、日本を代表する美術史家である著者が、巨匠たちの手になる名画の数々を例に、具体的にわかりやすく解説。「名画」は、なぜ「名画」と呼ばれるのか?「巨匠」は、いかにして「巨匠」になったのか?本書を読めば、名画と巨匠にまつわるそれらの疑問が、目から鱗が落ちるように、解決します。美麗な図版満載。 お薦め度:★★★★☆ 【本書の感想】 <全体の感想> これは豪華な本である。 まず、200ページほどの新書ながら、両開きに必ず1〜2枚はカラー図版が載っている。 美術の本なのに、絵画が白黒だったり口絵にしか載っていなかったりするものが多いが、100枚以上のフルカラー絵画が載って1000円強なのだから安すぎる。新書版でコンパクトなのもいい。 しかも、高階の解説が秀逸である。 美術史の素人にも、西洋美術史の巨匠たちの絵画をどう観ればいいのか、わかり易く指南している。 ここでは、特に印象に残った解説をできるだけ引用したい。 <フェルメール《真珠の首飾りの少女》> 写実的な絵画といっても様々である。ないものを描くことが「もっともらしく」見えることもあるからだ。 このフェルメールの代表作では、少女の瞳に不自然に加えられた白い光が、画に生命力を与えているという。 見ているはずの私たちが、振り向きざまの少女に逆に見つめられているようにすら感じられる。……自然にはありえない白い点として描かれた光が瞳に生き生きとした輝きを与え、その瞳の輝きに、見る者は心奪われ立ちすくむわけだ。(17項) <ゴヤ《わが子を喰らうサトゥルヌス》> 18世紀末〜19世紀初頭、激動のスペインに生きたゴヤに関する記述も興味深い。 《1808年5月3日 マドリード プリンシペ・ピオの丘での銃殺》は、ナポレオン軍が庶民を虐殺する場面を鮮明に描いた作品で、「フランス革命の大義が喪失した象徴」として、深く印象に残っている。 なので、ゴヤは対フランス抵抗運動の旗手のように記憶していたのだが、どうもそうでもないらしい。国王が復位するとその宮廷画家となって画を描くなど、したたかな面も持ち合わせていたという。 このゴヤの生き方を、責めることなく「画家ゴヤの完成」として描いた以下の文章は見事である。 彼は、時代に翻弄されながらも、つねに自らの命が危険にさらされているような逃れがたい運命を前に、冷静に現実とそこに生きる人々の姿を見つめていたのだろう。過酷な運命に鍛えられたかのように鋭さを増していった画家のまなざしは、卑しさや弱さ、残忍さといった人間社会の闇を浮き彫りにするようになった。このゴヤの観察眼こそが、見る者に恐怖を与えながらも、画面から目を離すことができない、「黒い絵」と呼ばれる一連の作品を生み出したのである。(39項) <レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》> ダ・ヴィンチの芸術観を高階に言わせると、「とぎれることなく無限に変化するものが美しい」という考え方(78項)であるという。 例えば、その最高傑作とされる《モナ・リザ》にもその美的感覚は表れており、そこに様々な種類の「境界」「はざま」を見ることができる。 背景となっているテラスは、室内から外部へと続くはざまを意味している。時間は、昼と夜のはざまである夕暮れ時。季節も、夏と冬のはざまとなる秋らしい。極めつけは、無表情と微笑の微妙な境界にある女性の表情! 確かにそういう視点で見れば、ことごとくハマっているから面白い。 <ルノワール《日傘のリーズ》> 印象派の代表的画家とされるルノワールと、他の印象派画家との対比も読ませる。 ルノワール以外の印象派画家は、以前記事にしたモネの《モネ夫人と息子》が典型的なように、黒を使用しないという。 しかしルノワールだけは、色彩としての黒を用いた。これには、陶磁器の絵付け職人として働いた経験のあるルノワールの、知的な計算が働いていたという。 「自然はどう見えるか」を追究していた印象派にとって、自然界に存在しない黒は嘘でしかない。しかしルノワールは、黒が見る者の心理に強く訴えかける力をもっていることをよく知っていた。つまり、見る者、「お客の目に作品がどう映るか」をしっかりと計算していたのである。(114項)
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いわゆる「名画」は数ありますが、例としてあげられたものだけでも、充分興味を引きます。
高階さんの美術解説は信頼できますものね。
2012/5/6(日) 午前 5:52
美術は写実なのではなく
心に映ったものを描くということというのは
聞いたことあります。
美術史はその意味でも「拡大解釈」と
続けてきたといえるのかも知れません。
2012/5/6(日) 午前 10:45 [ 愛媛のチマチマ ]
自分は何の予断もなく、直観的に絵を見て、いろいろ考えたり感じたりするのが好きなんですが、
知識をもって画家の狙いをじっと観察しながら、絵を見るというのも楽しいものです。
とてもいい本ですね。値段も手頃だし(^^)
2012/5/6(日) 午前 10:47 [ もたんもぞ ]
>Tomatoさん:私は美術史に疎いもので、こんな入門書から入りましたが、これは良書でした。高階さんの本は面白いですね。
2012/5/6(日) 午後 9:46
>愛媛のチマチマさん:はじめまして、ご訪問&コメントありがとうございました。「美術は写実ではなく心に映ったものを描くということ」、まさに印象派の美術観ですね。記事に書いたルノワールや、私の好きなモネなんかはこの類の画家です。そういう視点で絵を観賞するのも面白いですね。
2012/5/6(日) 午後 9:49
>もたんもぞさん:おっしゃる通り、自分の目で先入観なく観賞するのが最も正しいやり方だと思いますが、「見方」を勉強するのも面白いものです。ここで挙げられている「見方」は、ほかの絵にも使えたり使えなかったりするので、それを楽しむのもいいかもしれません。
この本は、値段を考えるととんでもない名作だと思いますよ!
2012/5/6(日) 午後 9:51