読書のあしあと

訳あってしばらく閉店します。

書評 随筆・紀行

[ リスト ]

イメージ 1

書評247 塩野七生

『イタリアからの手紙』

(新潮文庫、1996年)

イタリア旅行から帰ってきました。
恒例の紀行記事は追い追い書くとして、まだ残っている予習本の書評を片付けちゃいます。

イタリア旅行予習本第3弾は、『ローマ人の物語』の著者による、イタリアに関するエッセイを手に取る。
これはぼやっとさんにお薦めいただいたもの。


【著者紹介】
しおの・ななみ (1937年―) 小説家。
学習院大学文学部哲学科卒。1963年からイタリアへ遊学し、帰国後執筆した「ルネサンスの女たち」で作家デビュー。1970年『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』で毎日出版文化賞を受賞、同年から再びイタリアへ移り住む。1982年『海の都の物語』でサントリー学芸賞受賞。1992年から古代ローマを描く『ローマ人の物語』を年一冊のペースで執筆し、2006年に完結した。
本ブログで取り上げた作品に書評191:『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』がある。


【本書の内容】
芳醇なるブドウ酒の地中海。死んでいく都、ヴェネツィア。生き馬の眼を抜くローマ。だましの天才はナポリ人。田園風景に、マフィア…。ここ、イタリアの風光は飽くまで美しく、その歴史はとりわけ奥が深く、人間は甚だ複雑微妙で、ぞくぞくするほど面白い。―壮大なライフ・ワーク『ローマ人の物語』へと至る遙かな足跡の一端を明かして、人生の豊かな味わいに誘う24のエセー。


お薦め度:★★★★☆

【本書の感想】

<全体の感想>
かなり以前に書かれたエッセイらしいが、塩野節は健在で面白く読めた。
様々な話題が淡々と取り上げられ、気の利いたユーモアをさりげなく散りばめつつ、陽気で怪しいイタリア人が織りなす人間模様、風光あふれるイタリアの景色を活写する。

例えば、ある年の夏、ローマの議会で下水道の掃除が話題になった。ねずみの大量発生に我慢できなくなったからだという。そこで調べてみたところ、ローマ帝国時代から二千年来、掃除していないらしい。それだけすごいものをローマ人が造ったということだが、逆に言うと二千年の間イタリア人は何とかやり過ごしてきた訳であり、今年もおそらくお流れになるだろう…といった具合。


本書には、『ローマ人の物語』に若干見え隠れする説教くささもないため、わりと万人受けするのではないだろうか。

以下、印象に残った文章をいくつか抜書きしておく。
私がイタリア旅行をしながら、本書を思い出して感じたこともあるが、それは紀行記事の方に譲ることにしたい。


<キリスト教の功罪>
「個人的には宗教は大嫌い」という塩野が、客観的に見るキリスト教の功罪が興味深い。

ローマの一角に、「骸骨寺」という隠れスポットがある。ここは昔、敬虔で知られるフランチェスコ派の僧院だったというが、数多の骸骨が僧衣を着せられて並べてある。塩野は、ここにキリスト教的ヒューマニズムの限界を見ている。

信心深い一生を僧院で送った修道士たちの骨を、同じキリスト教徒であり、しかも同じ宗派の修道士たちが使ったのだ。神に仕える聖職者とは、こうも徹底して無邪気になれるものなのか。……狂信から生まれた無邪気さほど、怖ろしいものはない(21項)


一方で、シチリアにある豪華で派手なカテドラーレ(聖堂)を訪れて、質素な生活を説いたイエスの教えとは相反するかもしれないが、としつつ、それが「弱い」大衆にとって持った意義も指摘している。

質素な作りの教会の一隅で、神に近づくことのできる人は、精神力の強い人である。……だが、自分の眼の前に、自分のまわりに何かがあって、それに神に近づくのを助けてほしいと願う平凡な精神力しか持たない一般庶民を、どうして非難することができよう。彼らには、美しい教会が、やさしいマリアの像が必要なのである。天上の天国を信じながらも、地上の天国が、彼らには必要なのである。(182項)


<ナポレターノめ!!>
もう一つ取り上げたいのは、「ナポレターノ」、つまりチャキチャキのナポリっ子のことである。
泥棒が多いとか勤勉でないとか、何とかかかとかいわれても、どうしても憎む気になれないナポリっ子のことである。

ナポリは、したたかに生きてきた。歴史的にも、幾多の征服者に対し徹底抗戦するというよりは、それが良き治者なら迎え入れる。逆に悪しき暴君なら、いつの間にか追い出してしまう。

ナポリっ子にとっては、イデオロギーなんてもんは、輝く太陽と紺青の海、おいしいスパゲッティの一皿の前に、色あせて見えるものらしい。彼らには、主義主張よりも、人間の個人的魅力の方が、ぴったりくるのかもしれない。(143項)


塩野がナポリから帰ろうとして、7,8歳の子どもに道を聞いたときのエピソードが面白い。その子は答えて、

「シニョリーナ、なんで発つの。ナポリはいいところだよ。おいしくて安いピッツァ屋を教えようか。ジェラートは食べた?まだだったら、連れて行ってやるよ。こんなにいい天気なのにさ。発つって気がしれないなあ。もっと居るべきだよ」(同項)

それでもしつこく道を聞いて、ようやく教えてくれた。しかし、教えられた通りの道をいってもなかなか着かない。
そう、子どもにしてやられたのである。気づいたら叫ぶしかない。
「ナポレターノめ!!」

閉じる コメント(10)

顔アイコン

お帰りなさいませ!大三元さんのイタリア旅行記、楽しみにしていますね。
この本、お薦めしたものの、ずいぶん昔に読んだままです。実際にイタリアを訪れた今なら、また違った思いで楽しめそうですね。

2012/5/23(水) 午後 10:21 ぼやっと

お帰りなさい〜(*^_^*)
塩野七生さんは昔何かの本を読んだ記憶は
あるのですが、何だったかは思い出せません。
歴史の隙間に介在する様々な話題を扱った本でした。
イタリアという国はドイツとともに
戦前から日本と置かれている立場が近い国というイメージを
持っていました。
ローマ帝国であれほどの栄華を誇った国は
どこへ行ったの〜???
という思いです。

2012/5/24(木) 午前 11:30 みかんジュース

この本、かなり前に読みました。塩野さんの本の中では、塩野史観から解放されて一番楽しく読めた本だったように記憶しています(^^ゞ

2012/5/24(木) 午後 5:40 Maman

大三元さんお帰りなさい(^^)
イタリアはいかがでしたか。
またゆっくりお聞かせください。

ところで塩野七生さんのような人生、自分の理想なんですよ(^^)
どうしたらあのような人生を送れるか日夜研究しています(^_^;)

2012/5/25(金) 午後 9:03 [ もたんもぞ ]

顔アイコン

>ぼやっとさん:お薦めいただき、ありがとうございました。事前に読んだイタリア関連本では、これが一番面白かったです。カテドラーレの壮麗さやチャキチャキのナポレターノについては、旅行してみて「なるほど」と納得するところが多かったです。

2012/5/26(土) 午後 2:00 大三元

顔アイコン

>みかんさん:イタリアという国の、ルネサンスからの凋落の要因については書評244:『物語イタリアの歴史』の説明が明快です。一言で言うと「反宗教改革」ですね。
http://blogs.yahoo.co.jp/honestly_sincerely/63178255.html

2012/5/26(土) 午後 2:02 大三元

顔アイコン

>Mamanさん:そうですね、塩野の歴史小説ものは良くも悪くも「塩野史観」がありますので、人によってはアレルギーがあるかも…。本書はそういうのはなかったので、万人受けすると思います。

2012/5/26(土) 午後 2:04 大三元

顔アイコン

>もたんもぞさん:イタリア紀行記事は、次回から時間をかけて書きたいと思いますので、しばしお待ちを。
ところで、塩野七生の人生が理想とは!どういうことでしょうか?そちらの方も、ぜひ詳しくお聞かせください。

2012/5/26(土) 午後 2:06 大三元

顔アイコン

昨年、イタリア旅行した後にすかさず読み出したイタリア本をやっと読み終えました。大三元さんのイタリア本に今頃ヒット。とても懐かしい。また行きたくなってしまいました。

2013/1/14(月) 午後 2:48 miffy_toe

顔アイコン

>すてさん:イタリア旅行はいかがでしたか。
しつこくしつこく、紀行記事を希望します(笑)

2013/1/14(月) 午後 11:29 大三元


.
大三元
大三元
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

ブログバナー

検索 検索
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

読書を楽しむ

日々を楽しむ

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事