|
宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」/紀元前My Best Books #4
宮沢賢治について書くことは、苦しいような切ないような感情を伴う。
賢治は「好きな作家」とは少し違う、私にとって特別な作家なのです。
宮沢賢治といえば、世間的には「悲壮な童話作家」というイメージが強いように思います。
確かに賢治の作品は少年や動物を主人公とし、作風からも童話に分類されることが多いのでしょう。
けれども、決してわかり易い話ばかりではありません。むしろわかりにくい話が多い。
故郷である岩手県花巻の雄大かつ過酷な自然を背景として展開される不思議な世界は、通り一遍の
解釈を拒みながらも、たくさんの読者を惹きつけてきました。
それは賢治が童話作家である以前に、近代日本の生んだ卓越した思想家であり、稀有な実践者で
あったからだと思います。
宮沢賢治をおもうとき、私の頭にあふれてくるのは、その潔癖なまでの利他精神です。
実家が「弱者を食い物にする」金貸し業を兼ねていたことに罪悪感を抱えていた賢治は、自己犠牲に
存在肯定への契機を見出しました。
この自己犠牲というモティーフは、賢治の主要作品はもとより、彼の人生そのものを貫くことになった
のです。
それがよく表れているのが中篇「グスコーブドリの伝記」です。森の木こりの家に生まれ、冷害が
きっかけで両親や妹と生き別れたブドリは、その冷害の再来を防ぎ、自分たちのようなバラバラの
家族をつくらないために自らの命を捧げます。
このブドリこそが、賢治の一つの理想だったのではないでしょうか。賢治は多くの文学を生み出す
一方で、苦しむ農民たちを救うために自ら農村に入っていきました。
このサイクルを明快に解き明かしたのが、見田宗介の名著、短評2:『宮沢賢治 存在の祭の中へ』
でした。
賢治の<四象限>という概念は、書き残された作品群と賢治自身の人生を見事に説明しているし、
何よりも見田が賢治にアツく共感しているのがいい。学問的な賢治研究の一つの頂点と言えます。
もう少し軽い読み物としては、玄侑宗久の書評42:『慈悲をめぐる心象スケッチ』があります。
「アクセルとブレーキを同時に踏み続けるような」凄まじい賢治の人生を、優しくなだめるような読み
方は新鮮。
私たちは、賢治のようには生きられないだろうし、生きるべきではないのかもしれません。
しかし、否、そうであればこそ、私たちはよりいっそう賢治に惹かれ続けるのです。
|
全体表示
[ リスト ]



宮沢賢治をちゃんと読んだことないんですよね。
ぜんぶ知ってるような気になっちゃってるんですよ。
でもこの、「グスコーブドリの伝記」は知りませんでした。
は〜っ、無知だなぁ、ほんと。
宮沢賢治さんは、やっぱり雨にも負けずの詩が強烈ですね。
日本人の心の琴線にびんびん響いてくるものがあると思います。
あと、「永訣の朝」という詩。
「あめゆじゅとってきてけんじや」というフレーズが、
心に浮かぶと、涙がじわ〜んとわいてきます。
一度じっくり、読んでみたいな〜と思いました。
2012/8/14(火) 午後 9:23 [ わかめ ]
私も宮沢賢治の作品を全部読破したわけではないのですが、悲しい作品が多いという印象です。どんなに頑張っても理想通りにすべての人たちが幸せになれないという悲しみを持っていた人という気がします。「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」が好きですね。
2012/8/15(水) 午前 10:22 [ - ]
「グスコーブドリ・・・」、小学校時代から何度か読み返してきました。ラストのブドリの自己犠牲的なあり方に抵抗を感じていたときもありましたが、賢治自身、生身の人間としていろいろな矛盾を抱えつつ、ひとつの祈りのような気持ちでこの作品を書いたのだろうと今は思います。
こういう作品がある一方で、人を喰った悪人?の出てくる「毒もみのすきな署長さん」なんかもあるのが賢治のおもしろさです。
2012/8/15(水) 午後 7:34
この歳になって初めて「グスコーブドリ」を読みました。大三元さんのおっしゃる「利他精神」とても強く感じました。清潔、という言葉がぴったりきますね。こうありたい姿、というものを書き続けた宮沢賢治の創作姿勢というのは生きることへの誠実さにも繋がるのかな〜?と思ったりもします^^
2012/8/18(土) 午前 9:53
>わかめさん:私は『宮沢賢治全集』を一通り読破したのですが、無名の短篇にも面白いものがあったりします。ちょっとしたところに、記事に書いたような賢治の精神が垣間見られたりして、そういう視点で読むと一本の線が見えてくると思います。
『雨ニモ負ケズ』は小学校時代に暗唱させられました。今でもそういう習慣は残っているのでしょうか?
2012/8/21(火) 午前 1:19
>ちょいこさん:そうですね。記事に挙げた「グスコーブドリの伝記」は、全員が幸せになれないなら、自分が犠牲になることでその他の人を幸せにしようというブドリの物語でした。
賢治には、そういう透明な自己犠牲の精神があります。われわれ生身の人間はそこまでたどり着けませんが、だからこそ惹かれるのだと思います。
2012/8/21(火) 午前 1:23
>Tomatoさん:お〜、「毒もみのすきな署長さん」を挙げられるあたり、さすが通ですね!
賢治の作品は、教科書に載っている「やまなし」をはじめ、謎な作品が多いのも特徴です。それをどう読むのか?どう感じるのか?を、あえて読者にゆだねているような気もするんですよね。
2012/8/21(火) 午前 1:25
>あんごさん:そうですね、賢治の利他精神は透明・清潔・清廉・といった表現がぴったりだと思います。「グスコーブドリの伝記」をはじめ、賢治には意外と知られていない名作も多いです(それ以上に意味不明な短篇もありますけど、笑)。
そうですね、誠実さ。そういう意味では、学生時代に見田の『宮沢賢治』をバイブルにしていました。あの頃はアツかった(笑)。
2012/8/21(火) 午前 1:30