読書のあしあと

訳あってしばらく閉店します。

全体表示

[ リスト ]

イメージ 1

書評254 大泉啓一郎

『消費するアジア――新興国市場の可能性と不安』

(中公新書、2011年)

『老いてゆくアジア』が評判のよかった著者の中公新書第二弾。
前作は、色んなところで書評を読んで「読んだ気になっていた」ので、本作は自分で読んでみようと思った。


【著者紹介】
おおいずみ・けいいちろう (1963年―) 日本総合研究所(株)環太平洋戦略研究センター主任研究員。
1988年京都大学大学院農学研究科修士課程修了。東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、京都大学東南アジア研究センターを経て、90年に三井銀総合研究所入社。
著書に『老いてゆくアジア』(中公新書、2007年、アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞受賞)がある。


【目次】
第1章 消費市場の拡大と高まる期待
第2章 メガ都市の台頭
第3章 浮上する新しい経済単位―メガリージョン化するアジア
第4章 成長力は農村まで届くか
第5章 アジア新興国の政治不安
第6章 アジアの持続的市場拡大の条件―新しい日本の立ち位置


【本書の内容】
中国の一人あたりGDPと上海をはじめとする大都市圏の繁栄ぶりとのギャップからわかるとおり、もはや国レベルの平均化された指標は意味を持たない。大都市圏ごとの新しい経済単位を使う必要があるのだ。本書は、注目を集めるアジア大都市圏の構造を「消費」の視点で分析、格差拡大や社会不安など懸念材料を現実に即して考察し、アジア経済の新しい見方とアジアの未来市場としての日本の立ち位置を示す。


お薦め度:★★★☆☆

【本書の感想】

<全体の感想>
アジア社会の現在を見る視点を得るために、読んでおいて損はない本だろう。
近代化と経済発展に伴って、アジア経済はもはや国家単位よりも、巨大化した都市=メガ都市・メガリージョンの単位で分析すべきだ、というのが本書の骨子だ。

最近の研究成果もうまく取り入れながら、メガ都市・メガリージョンという視点でアジア経済をわかり易く整理し、その現在と未来についてバランスよく分析してある。

欲を言えば最終章の提言の部分に厚みが欲しかったが、視点を得る、という意味ではコンパクトで的確、有益な本である。


<メガ都市・メガリージョンの出現>
2010年に中国のGDPは日本を超え、上海に代表されるアジア新興国の大都市の景観は、もはや日本の都市と違わないほどである。実際、一部のメガ都市の人々の生活水準は先進国並みである。

アジアの大都市には、社会インフラの整備に必要な資本・雇用・食糧が足りないため、スラムなどの問題を引き起こす「過剰都市」化という問題がつきまとってきたが、バンコクなど一部の都市は、1980年代以降海外資本の導入を積極的に進めてそれを解消し、地方・農村の人口を吸収しながらメガ都市へと成長した(44項以下)。
また、メガ都市が海外の市場とうまく結びついたことも大きい。先進国の企業を誘致していた東南アジア諸国は、よりコストの安い中国の台頭を警戒していた。ところが、中国脅威論が現実にならず、ウィン=ウィンの経済関係になったのは、一つのモノを作るにも部品単位で国際分業が可能だからである(=フラグメンテーション理論)。

「中国製品の実態は、メイド・イン・アジアなのである」(71項)。

こうして、アジアのメガ都市は、海外の資本と市場を手にし、地方・農村の人口を吸収し続けることで膨張し、周辺地域にも経済発展の影響が波及することでメガリージョンを形成した。これが巨大な消費市場として見えている「消費するアジア」である。


<成長のグラデーションは解消されない>
メガ都市・メガリージョンが先進国並みの発展を見せる一方で、まだ貧しいままの農村人口もまた多い。
つまりアジア諸国の経済発展は、途上国→中進国→先進国のように画一的ではなく、途上国→先進地域/中進地域/途上地域というようにグラデーションがあるということなのだ。


では今後、メガ都市の経済発展が地方・農村に波及するのかというと、著者は否定的である。
もっとも、地方・農村の経済が全く改善されていないわけではない。世界的に見てもアジアの貧困率が急激に低下していることはデータが示している。

しかしこれまでメガ都市が享受してきたような成長が地方・農村に訪れることはない。なぜなら、これまでのメガ都市の成長を支えたのは「人口ボーナス」効果であり、これからは少子高齢化による「人口オーナス」効果しか残されていないからである。

人口ボーナスとは、ベビーブームとその後の出生率の低下⇒働き盛りが増えると同時に子どもが減少⇒労働力の増大、子どもの減少にともなう貯蓄率の増加⇒経済成長をもたらす、という考え方。
アジアのメガ都市の場合は、ベビーブームに加えて地方・農村から生産人口だけを吸収し続けたため人口ボーナスの効果が倍増されたというのが著者の見立てである。

これからの地方・農村には人口ボーナスが期待できない上に、日本のようにUターン現象が起こらなかったアジア諸国の農村には多くの老人だけが残されており、彼らに対する社会保障制度を整える負荷も増大すると想定される(人口オーナス効果)。

このように、問題は急激な成長を見せるメガ都市およびその恩恵を受けるメガリージョンと、貧困率は低下しているもののメガ都市とは比べ物にならないくらい貧しいままの地方・農村との格差である。


<おわりに――アジアが直面する難題>
著者はこの格差問題が政情不安を生み、アジアの将来にとって致命的な問題になるとし、例として近年のタイのクーデタを挙げている。

地方・農村との格差是正に対する対策として、著者はインフラ整備とマイクロファイナンスの2点を挙げているが、いずれも慎重な留保つきであり、万能薬ではない。
地方・農村地域からメガ都市・メガリージョンへ「アクセス」できるインフラを整備すれば経済成長が波及するという考え方もあるが、実際には効果が怪しい(インドシナ半島の東西回廊を見よ)。
マイクロファイナンスも近年注目されているが、その危うさをまさにサブプライム・ローン問題で私たちは学んだはずである。


こう見てくると、アジア諸国は相反する目的を抱えている。
メガリージョンの競争力を強化しなければ国際競争で生き残れないが、メガ都市と農村の格差を是正しなければ、民意の支持は得られないのだ(189項以下)。

「未富先老」という中国語が表す通り、アジア諸国は中進国でありながら、国全体が富む前に高齢化や格差社会などの先進国的課題を抱え始めたのである。

閉じる コメント(8)

顔アイコン

いつもながら丁寧な本の読み方に頭がさがります。
アジア諸国が「未富先老」なら、ぼく自身は「少小不努力、老大徒傷悲」という状態です。

2012/10/14(日) 午後 1:05 蓮

アジア経済も日本のようにならないように
新しい展開を期待したいです。

2012/10/15(月) 午前 10:13 みかんジュース

顔アイコン

>蓮さん:もったいない言葉、恐縮です。でも最近は詳細な書評を書く時間も削がれてきました。。
私自身も、おそらく歳をとったら蓮さんと同じような心境になるのでは、と思います。

2012/10/16(火) 午前 0:49 大三元

顔アイコン

>みかんさん:実は、日本の場合はまだよくて、記事にあるように大都市⇒田舎への働き盛りのUターンがありましたから、都市と地方の格差はそれほどではありません。アジアの場合はそれが顕著なので、さらにややこしいのですね。

2012/10/16(火) 午前 0:50 大三元

中国のようなべらぼうに人口が多い国が、少子高齢化するといったいどうなってしまのか。
ちょっと空恐ろしい気がします。

2012/10/18(木) 午前 0:49 オブ兵部

顔アイコン

こんにちは。
ちょうど、現代中国について勉強しようと思っていたところでした。この書評でかなり読んだ気になってしまったので、「老いてゆくアジア」のほうを読むことにします。ありがとうございました。

あと、追加で、私のブログを今度引っ越すことにしました。
よろしかったら、またお訪ね下さいませ。
http://blog.goo.ne.jp/taby_sweden

2012/10/20(土) 午前 9:42 [ だいちゃん ]

顔アイコン

>オブ兵部さん:そうでよね。あの中国が高齢化したら…街中仙人みたいな光景に(笑)

2012/10/22(月) 午前 1:36 大三元

顔アイコン

>だいちゃんさん:『老いてゆくアジア』は、この書評の「人口ボーナス」と「人口オーナス」の効果を現実のアジアに当てはめて分析しているもので、どちらかというとこちらの方が視野が広い気がします。「読んだ気」にさせてしまう私の書評も、功罪半ばといったところでしょうか(苦笑)
ところで、お引越しされるのですね。読書の範囲がかぶるブロガーさんはYahooでは数少なかったので、残念ですが、今後ともよろしくお願いします。

2012/10/22(月) 午前 1:39 大三元


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事