書評259 バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』宮下志朗訳(光文社古典新訳文庫、2009年)今年は海外文学を一冊も書評していないことに気づき、「My Mest Books」用に(笑)読んでみる。【著者紹介】 Honoré de Balzac (1799年─1850年) フランスの小説家。 フランスのトゥール生まれ。超人的スピードで多産された写実的な作品は、19世紀リアリズム小説のさきがけとなる。社会のあらゆる人物、場面を描くことによって、フランス社会史を成す『人間喜劇』を構想・執筆したが未完に終わった。 本ブログで取り上げた作品に書評69:『谷間の百合』がある。 【目次】 グランド・ブルテーシュ奇譚/ことづて/ファチーノ・カーネ/マダム・フィルミアーニ/書籍業の現状について 【本書の内容】 妻の不貞に気づいた貴族の起こす猟奇的な事件を描いた表題作、黄金に取り憑かれた男の生涯を追う「ファチーノ・カーネ」、旅先で意気投合した男の遺品を恋人に届ける「ことづて」など、創作の才が横溢する短編集。ひとつひとつの物語が光源となって人間社会を照らし出す! お薦め度:★★★★☆ 【本書の感想】 <全体の感想> いやあ、これは傑作である。 まず何と言っても、奇怪な事件や幻想的な回想などを操るストーリー・テリングの才能には唸らされるばかりである。 しかもそれが、昨今の軽いミステリやホラー小説をはるかにしのぐ文学作品になっているのは、ストーリーのために人物が死んでいないからであろう。 この傑作短篇集は、これに尽きるように思う。 「グランド・ブルテーシュ奇譚」 表題作は、一つの台詞で人間の静かなる狂気をすくい取る。 「あそこにはだれもいないと、きみは十字架にかけて誓ったではないか」(55項) うーむ、シビレル。ぞっとする。 久しぶりに「小説で背筋が凍る」という感覚を覚えた。 現在巷で流行っているミステリやホラーよりも、よほど引き込まれるし、怖い。 阿刀田高が(例えば書評73:『ナポレオン狂』 なんかで)目指したのも、こういう作品だったのかもしれない。 一方でユーモアも忘れないのが憎い。延々としゃべった後のオジサンの行動の描写が笑える。 こういうと、このりっぱな御仁は話を中断して洟をかんだのである! わたしは、彼の饒舌に敬意を表した(15項) 「ことづて」 「ああ! あなたも恋をしているのね。いつまでも幸せでいてくださいね。あなたの大切な女性を失うようなことがないように!」(85項) ああ! 恋とはこういうことなんですね! 書評69:『谷間の百合』のような長篇もいいけど、バルザックは短篇でも高いレベルで同じことができる。こりゃ参った。 さらに、最初と最後で読者への小粋なサービスも忘れないところも、憎らしい。いや、素晴らしい。 「ファチーノ・カーネ」 これだけは、年上の美人妻に恋をして…というバルザックお好みの設定ではなくて、心躍る冒険譚。でもこれはこれでバルザックらしいと思う。 黄金に目がくらんで、成功と失敗を繰り返し、また牢獄から脱出して…って、何だかバルザックの人生みたい。 これも、ストーリー・テリング、人物造形、力強い筆力が融合した秀作である。 <おわりに>
『谷間の百合』を読み終わった時は、それだけでお腹いっぱいになっちゃってたんだろうけど、今までバルザックを読み進めてこなかったことを反省。 来年は、バルザックをもう少し掘り下げることにします。 |
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バルザックは結構読んだつもりですが、文庫本化されている物だけですからね。2割まで行かないでしょうか?。どれも傑作で若ければ全集で読み尽くしたいとさえ思いました。この作品、読んでみたいです。絶対に期待に応えてくれると信じています。
2012/12/26(水) 午前 0:08 [ kohrya ]
恥ずかしながら、バルザックは読んだことがありません。大三元さんの記事の書きっぷりに、すっかり一冊読んで楽しんだ気にさせてもらいました(笑)が、自分でもまた読んでみたいです。しかし、自分の課題図書が遅々として読み進められず、いつのことになるやら…。
2012/12/26(水) 午前 1:41
偏食というべきか、美味しいものがあることを知らないだけなのか、バルザックの小説は一篇も読んでいません。大三元さんのこの文章の内容を忘れたころに何か読んでみようかな。
2012/12/26(水) 午後 9:20
バルザック、10代の頃読んだ記憶はありますが、どの作品か全く覚えていません。これも来春楽しみに読みたいと思います。
^^
2012/12/26(水) 午後 9:41
>こーりゃさん:私は『谷間の百合』でお腹いっぱいになってそのままでしたが、なかなかどうして、短篇もいいですね。これを機にバルザックに溺れようか、と思ったほどでした。
2012/12/29(土) 午後 9:46
>ぼやっとさん:これは短篇集なので、さくっと読めると思います。しかも、引き込まれてしまえばほんとにすぐ読んでしまう。
バルザックは長篇もいいですが、短篇の完成度にも参りました。
2012/12/29(土) 午後 9:48
>蓮さん:私もバルザックは今まで深く掘り下げてこなかったのですが、反省しました。おそろしくいいです。ため息が出ます。他の短篇や中篇も読んでみたいと思います。
2012/12/29(土) 午後 9:49
>凛さん:バルザックは多作な作家ですから、どれがどれやら、というところでしょうか。作品のモティーフも似通ってたりしますしね。でも、どれも面白いです。もっと読みたくなりました。
2012/12/29(土) 午後 9:53