書評261 ジョン・アーヴィング
『ガープの世界』
筒井正明訳(新潮文庫、1988年)全2巻
現代アメリカを代表する作家、ジョン・アーヴィング。
色んな人が絶賛しているので、読書好きとしていつかは読まないわけにはいかないと思っていた。
【著者紹介】
Irving, John Winslow (1942年―) アメリカの作家。
ニューハンプシャー州生まれ。ウィーン大学、アイオワ大学などで学び、カート・ヴォネガットに師事。1968年『熊を放つ』でデビュー、1978年『ガープの世界』が世界的なベストセラーとなる。映画化された『サイダーハウス・ルール』では自ら脚本を手がけ、アカデミー賞最優秀脚色賞を受賞。
他の作品に『ホテル・ニューハンプシャー』『第四の手』『また会う日まで』など。
【本書の内容】
看護婦ジェニーは重体の兵士と「欲望」抜きのセックスをして子供を作った。子供の名はT.S.ガープ。やがて成長したガープは、ふとしたきっかけで作家を志す。文章修業のため母ジェニーと赴いたウィーンで、ガープは小説の、母は自伝の執筆に励む。帰国後、ジェニーが書いた『性の容疑者』はベストセラーとなるのだが――。現代アメリカ文学の輝ける旗手アーヴィングの自伝的長編。
【本書の感想】
変な小説である。いや、いい意味で。
作家T.S.ガープの一生を描いた小説、と言えばそれまでなのだが、とにかく読者に“読ませる”引力といったらない。
社会風刺と下劣なジョーク、これでもかと続く奇妙な事件の数々、てんこ盛りにされたセックス・暴力・不貞・事故。
不思議なのは、それが単にバラバラに書かれているのではなく、何の違和感もなく物語の構成要素になっている、つまり文字通り「ガープの世界」の一部になっていることだ。
まず、登場人物が奇妙である。吃音、性欲、感情、家族、舌の一部……みなどこかに欠陥を抱えており、個性が必要以上に誇張されている。そこには「小説とはそういうもので、だからこそ面白い」という著者の信念のようなものさえ感じる。
物語の核となるエピソードも、並の想像力では思いつかないものばかりだ。「男と住むのは嫌だが子どもは欲しい」という母ジェニーが、寝たきりの負傷兵の精子でガープを妊娠するという生い立ちから始まり、犬に耳を噛みちぎられ、「性の容疑者」とされた母の自伝がベストセラーになり……果ては、夫婦スワッピングであっても平然とストーリーの一部となる。
爆発したディテールが唯一最大の魅力であり、それを息もつかせず連発することによって、ストーリーの勢いを生むという逆説。
やっぱり変な小説である。おそらく、こんな小説は他にない。
期待値が高かっただけに、以下は少し厳しい評価になるかもしれない。
ぐいぐい読ませる腕力は天下一品である一方、読んだ後に心に何かが残るかというと、残念ながら私にはそうは感じられなかった。
もちろん、読んでいる間の手は止まらない。おっと思わせるフレーズもたくさんある。
「するときみは次がどうなるか知りたくて本を読むわけだね?」
「ほかに本を読む理由なんて、ないのとちがうっけ?」
このやりとりは、本書の魅力をそのまま表していると言えよう。
だけど、心に残る小説とは、何かが違うんだな…。
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映画は観た記憶があります、多分。原作は読んでいない。。。かな
書名はなぜか忘れられないですね。
2013/1/28(月) 午前 8:35
「ガープの世界」は学生の頃からずっと気になっているのに、どうしても買って読もうというところまでいかず、今に至っています。多分、私には合わないんじゃないかという気がします。^^;
2013/1/28(月) 午後 8:41
取り上げられている小説を読んでいなくても、読者としては筆者の感想に、文学に対する考え方や、筆者の生き方を感じ取ることができれば、それでいい。そのようなものを感じることができないものを、ぼくらはレビューと呼ばない。
ますますの健筆を期待しています。
2013/1/28(月) 午後 8:52
「サイダーハウスルール」と「ガープの世界」両方とも
映画で観ました。
「サイダーハウスルール」は内容のまとまりもストーリーの面白さも
社会批判のまなざしもすべてAクラスだと思いました。
原作はいかがなんでしょうね?
2013/1/29(火) 午後 9:30 [ pilopilo3658 ]
>はざくらさん:最初は、最高傑作の声も多い『ホテル・ニューハンプシャー』から読もうかとも思ったのですが、やはりデビュー作から、と思い手に取りました。ほんとに、この読後のもやもや感は相性としか表現できないですね。
2013/1/30(水) 午前 2:03
>Tomatoさん:そうですか、やっぱりぶっとびますよねえ。アーヴィングの代表作ってどれなんでしょう。『ホテル・ニューハンプシャー』でしょうか。『未亡人の一年』でしょうか。でもどれも、作風としては『ガープの世界』に似ているようなので、どうも自信がありません。
2013/1/30(水) 午前 2:17
>凛さん:映画も評判らしいですね。映画版は観てないし、小説を批判した後で何ですが、これは小説の方がいいような気がします。こんな奇天烈なキャラクターをどう映像化するのか、想像もつきません。
2013/1/30(水) 午前 2:20
>ぼやっとさん:確かに…ぼやっとさんには合わないかもしれません。どうやら私にも合わなかったようですから^^;
2013/1/30(水) 午前 2:21
>蓮さん:いつもありがたいコメントありがとうございます。そう言っていただく度に、ただの素人がブログを書いている意味を教えてもらえる気がします。
2013/1/30(水) 午前 2:22
>あおちゃんさん:『ガープの世界』の映画はどうでしたか?『サイダーハウス・ルール』は映画も原作も評判はそこそこのようですが…。
2013/1/30(水) 午前 2:27
面白そうな本ですね。。。
自伝的長編、、、ちょっと悲しい生い立ちですね。。。
そこに作家としてのエネルギーがあるのでしょうか。。。
(*^-^*)/~
2013/1/30(水) 午後 7:19
読んでみたいと思いつつ躊躇してました。気持ち悪いという感想もあったし…筒井康隆やマルケスが読めれば大丈夫かな?
2013/1/30(水) 午後 8:08 [ - ]
この映画、ぜったい昔、観ました。
ヘンテコだったような覚えが…。
でも、たしかに何にも残っていません。小説も同じなのでしょうか。
やっぱり読んだ後に、心になにか残るものがほしい。
以前、「オウエンのために祈りを」というのにチャレンジして、下巻のはじめで挫折しました。
面白かったんですけど、あまりに長くて途中で疲れちゃったんですよね。翻訳の長編小説は、かなり気力体力が満ちている時でないと…、ちょっと手ごわそうです。
2013/1/30(水) 午後 9:23 [ わかめ ]
>さんぽさん:確かに、得体の知れないエネルギーを感じる本です。たたみかけるようなエピソードの連続は、並の筆力ではないですね。
2013/1/31(木) 午前 1:29
>ちょいこさん:マルケスはわかりませんが、確かに筒井康隆もぶっとんでますね。でも、ぶっ飛び方は若干違うかも。
盛り込まれたエピソードの半分くらいは「気持ち悪い」ものですが、不思議なのは、その筆がどこか乾いていることです。じめじめしていない。自伝形式なんですが、客観的なんですね。でも内容は確実に「気持ち悪い」ものもあります(夫婦スワッピングとか)。
2013/1/31(木) 午前 1:33
>わかめさん:やっぱりヘンテコでしたか。小説もヘンテコですよ(笑)。
そうそう、面白いんだけど、それだけというか、それが延々と続くの…?という感じ。やはりほかの作品も同じ感じなんですかね。
2013/1/31(木) 午前 1:42
大三元様
ガープ・・・は完全についてゆけなかった(笑)
サイダー・・・は私にとってはそこそこどころじゃない!
大感動しました。マイケル・ケイン、どの映画みても
ちっとも魅力を感じなかったけど、この映画で真価を見極めた!
2013/2/2(土) 午後 10:04 [ pilopilo3658 ]
>あおちゃんさん:そうなんですか、そういうことなら映画版で観てみる方がよさそうですね。『ガープの世界』は、映画になったところで…という感じだったので。
2013/2/4(月) 午前 1:05
なるほど〜〜!「次がどうなるか知りたくて読む」って確かに読書の醍醐味だけど、何か違うって、わかりますね。現代の小説って、本当に読みやすくて面白いんですけど、自分が感想を書きたいって思うほどじゃないんですよね。
でも、この作者はぐるっと一周して「ほかに本を読む理由ってないのとちがうっけ?」になってるのかもしれないですねー。
2013/2/13(水) 午後 10:45
>mepoさん:おっしゃる通り、一周して行き着いた感じはしますね。でもね、本当にそれだけかと。“次”への引力でページをめくるのはわかりますし、本書もそれだけの力はある作品ですが、本当にそれだけか、と思うんです。
2013/2/15(金) 午前 11:35