読書のあしあと

訳あってしばらく閉店します。

全体表示

[ リスト ]

イメージ 1

書評267 神門善久

『さよならニッポン農業』

(NHK生活人新書、2010年)

目下TPP交渉の最大の争点となっている農産物。
市場原理vs.農業保護のどちらが正しいのか?
農業は本当に「成長産業」なのか?

図式的に見えがちなこの問題を理解するため、まず現在の日本農業の実態を知るために手に取る。


【著者紹介】
ごうど・よしひさ (1962年―) 明治学院大学経済学部教授。専攻は農業経済学。博士 (農学)。
1984年京都大学農学部卒。2006年 『日本の食と農――危機の本質』(NTT出版)でサントリー学芸賞受賞。
他の著書に『偽装農家』(飛鳥新社)、『日本農業の正しい絶望法』(新潮新書)などがある。


【目次】
第1章 消えていく農地――農業ブームの陰で起きていること
第2章 なぜ農地は無秩序化したのか――日本農業の足取り
第3章 競争メカニズムの欠如――農地と農業効率の関係性
第4章 政権交代と日本農政――小泉政権以降の模索と迷走
第5章 日本農業の理想像――市民参加型の土地利用へ


【本書の内容】
農地の10%に及ぶ耕作放棄地、蔓延する無計画な転用…農地の荒廃が進む中、台帳の不備で実態把握すらままならない。昨今の農業ブームに隠れて、これまでマスコミが触れてこなかった農地行政の真相を明かすとともに、歴史的な視点や市場効率の考察を踏まえ、崩壊前夜の日本農業を救うための方途をも示す。


お薦め度:★★★★☆

【本書の感想】

<全体の感想>
日本農業の実態と解決策を議論する際の叩き台になる好著だろう。
自由化による市場経済一本槍でもなく、「週末農業」「食糧自給率」といったイメージ先行の農業ブームに掉さすでもなく、日本農業が生き残るための道を真摯に模索している。

農業への情熱が強すぎるためか、感情的な表現も散見されるのがタマにキズだが、それもご愛嬌か。


<荒れた農地――ゴミ捨て場が「農地」?>
著者がまず指摘するのは、野放図な農地転用とそれを生んだずさんな農政の問題である。

日本では「農地」は税制上の優遇を受けるため、農地を宅地や駐車場、ショッピングセンターや廃棄物処理場へ転用するケースが絶えないという。あろうことか民主党の輿石元幹事長も農地を宅地に転用するなど、政治家までもが罪の意識がないのが現状である(23項以下)。

こんな事実ははじめて知ったが、「農業基本台帳」に駐車場やごみ捨て場が農地として登録されていては、確かに農業政策以前の問題である。

農地転用の弊害は甚大だ。優良な農地を減らすだけではなく、周りの農地にも被害が及んでしまう。
日本の水田は周りの農地と水を共有しているため、転用されて虫食いになった農地一帯は水回りに支障をきたすことになり、近隣の優良農家にも被害を与えてしまうのだ。


<農産物貿易自由化は途上国のために!>
そもそもなぜ農地転用が絶えないのかというと、農地を農業に使うより転用した方がカネになるからである。
効率的な営農のためには15ha程度は必要だが、日本の農地の7割以上は3.0ha未満というのが現状。
それを零細農家が個別に営農しているため、専業で稼げるレベルにならない。彼らの関心が農地転用や兼業収入に向くのは自然の流れである(81項)。

まだ高い関税で守られているからいいものの、こんな惨状の日本農業がグローバル化の中で生き残れるはずがない。
世界的にも、先進国から途上国への農産物の過剰輸出が問題視されている。途上国に競争力がある輸出品は農産物だが、途上国は農家保護の財政的余裕がないため、補助金つきで作られた先進国の農作物が流入してきてはひとたまりもない。
そのため、増産効果の強い農業補助金(OTSD)の削減がドーハ・ラウンドの柱の一つになるなど、農産物貿易の自由化・公正化は世界的潮流なのである。


目下日本が参加を表明したTPP交渉も、この文脈で考えるべきだろう。そのためには、大規模化をはじめとする日本農業の競争力強化が不可欠だと感じる。
「零細農家」を潰すのかと言われそうだが、それなら専業にして大規模営農する方法もある。転用した方が儲かると考えている片手間兼業農家がほとんどなのだから、そこから農地を買い取れば良い。そうでなければ共倒れである。
もちろん個別に努力している農家はいるのだろうけれど、本書に書かれた農地の荒れ様を読むと、本気で農業をやっている農家がどれだけいるのか?と訝しく思ってしまう。


<ニッポン農業への処方箋>
これらの問題の解決策として、著者は独自の提案をしており、これがよく練られていて面白い(162項以下)。
キーワードは「人から土地へ」、「日本農業の強みを活かす」である。
うち、主なものを抜粋。

 嵎神検地」の実行…どこに農地があるのか、所有者/耕作者は誰なのかを記す農業基本台帳を徹底的に見直す。
◆嵜佑ら土地へ」というコンセプト…「農業にふさわしい人」ではなく「農業にふさわしい土地」に補助を行う。農地利用のルールをきめ細かに規定する代わりに、それを守りさえすれば誰でも農業ができるようにする。無理に切り拓いた農地は耕作を諦め、山野にかえすべきはかえす。
「食のアキハバラ」構想…こだわりが強く注文が多い消費者向けの、高品質農作物をアジア向けに輸出する。ただし価格の安い、途上国の方が生産に有利な農作物は積極的に輸入してバランスをとる。


もっとも、上に見たような農水省の体質からして、このような大規模な検地や根本的な政策転換は難しいかもしれない。
いずれにせよ、混迷する農政を議論する叩き台として多くの人に読んでもらいたい本である。

閉じる コメント(2)

顔アイコン

領土問題の次は農業問題ですか。
大三元さんは文学にも興味をもたれていて、その問題意識の広さ、バランス感覚に感心させられます。ぼくも若いときからこのような読書をしていたら、もう少しはまともな社会人になれたのに、と思います。
今後はせいぜい大三元さんを見習いたいと思います。

2013/4/24(水) 午後 6:41 蓮

顔アイコン

>蓮さん:このブログのウリは守備範囲の広さくらいしかありませんので。。。笑
社会の様々なことに対する関心は失いたくないものです。一方で、現代の軽い本ばかりではなく重い古典をじっくり読まなければ…という思いもあり、結局時間が足りない…という話になるのですけれど。

2013/4/28(日) 午前 9:40 大三元


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事