読書のあしあと

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書評276 竹森俊平

『ユーロ破綻 そしてドイツだけが残った』

(日経プレミア、2012年)

書評147:『1997年 世界を変えた金融危機』で目からウロコだった竹森俊平がユーロ危機の構造を論じた本。


【著者紹介】
たけもり・しゅんぺい (1956年─) 慶應義塾大学経済学部教授。専攻は国際経済学。
1985年慶應義塾大学大学大学院経済学研究科修了。1989年米ロチェスター大学より経済学博士号(Ph.D.)取得。経済産業研究所ファカルティフェローなどを経て現職。『経済論戦は甦る』(東洋経済新報社、2002年)で読売・吉野作造賞受賞。他の著作に『世界デフレは三度来る』上下(講談社、2006年)、『資本主義は嫌いですか』(日本経済新聞出版社、2008年)など多数。
本ブログで取り上げた著作に書評147:『1997年 世界を変えた金融危機』がある。


【目次】
第1章 大恐慌の神話
第2章 危機は今回もアメリカから欧州へ
第3章 危機は周辺から始まる
第4章 インフレに群がるマネー
第5章 ギリシャ債務不履行の政治経済学
第6章 苦悩するリーダー国ドイツ
第7章 危機拡大の構造
第8章 ユーロ分裂のシナリオ


【本書の内容】
平和と経済統合の理想から出発したユーロは、当初からの構造矛盾を克服できず、南欧諸国の経済危機を拡大させている。この経済・金融危機は全世界を震撼させる大恐慌へと発展する勢いだ。独仏伊など欧州各国の利害対立や、国際機関の行動、深まる危機の様相を明快に解説。


お薦め度:★★★★★

【本書の感想】

<全体の感想>
タイムリーで、ためになって、面白い。
と、前作の書評でも書いたような気がするが、本書もそんな三拍子揃ったすごい本。
理論と歴史を自在に奔走しながらユーロ危機の構造を解き明かしていくプロセスは、知的好奇心を喚起するどころかスリリングでさえある。


<ユーロ危機の構造と「ユーロ」そもののの欠陥>
要するに、今回の危機の連鎖を引き起こした原因は、欧州経済をあたかも一国内であるかのように統合を進めてきたという、善意に基づいた試みそのものにあった。(25項)

ユーロ危機の原因は「ユーロ」というプロジェクトそのものにある、という著者の診断の意味は2つある。

A.ユーロ圏は最適通貨圏(似通った経済状況にあるため通貨を共通化するメリットが大きい地域)ではないにもかかわらず、共通通貨(ユーロ)を導入してしまったこと。
B.ユーロ圏は金融政策を統一的に行う一方、財政政策は各国に委ねられていること。

要するに、共通通貨が成り立つ基盤がなかったところに無理やり導入したのがそもそもの間違いで、しかも導入後も経済圏を維持・制御するシステムが不在であるため崩壊するのも必然であるということ。
元も子もない批判だが、ここの説明は明快でわかり易いので、是非多くの人に読んでもらいたい。


その結果、ユーロ圏は次のようなトリレンマに直面していると著者は指摘する(79項以下)。すなわち、
.罅璽躔をトランスファー(所得移転)同盟に転化させたくないリーダー国(ドイツ)の願望
共通通貨(ユーロ)を存続させたいという願望
6チ萠呂亮紊て遒了唆箸崩壊⇒南から北への大量移民が発生⇒北に移民のスラム形成といった事態を避けたい欧州全体の願望

この3つを同時に実現させることは不可能であり、どれか1つは諦めなければならない。
例えばドイツは東西統一のプロセスで、共通マルクの導入とスラム形成の防止のために,鯆め、東ドイツに対し巨額の財政援助を行った。南北で生産性が著しく異なるイタリアも同様で、両国は今でもこの所得移転政策を続けている。


<ユーロは存続できるのか?>
だが今回のユーロ危機では、ドイツは,砲海世錣蠡海院GIIPS(ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン)への財政支援を行おうとしない。さらにのスラム形成防止も捨てられないとすれば、△鮗里討襦即ちユーロが崩壊せざるを得ないのである。


では、今後考えうるシナリオはどういうものか。著者が想定する選択肢とその見通しは以下の通りである。

ケース1:ユーロ圏がトランスファー(財政支援)同盟化する、即ち,鮗里討襦
  ⇒これはドイツ国民が許さないだろうから、非現実的。
ケース2:ドイツが優良格付国(ルクセンブルクなど)を引き連れてユーロを離脱する、即ち△鮗里討襦
  ⇒ドイツマルクがたちまちユーロに対し増価し、ドイツが国際競争力に苦しむことが予想される。
ケース3:ドイツがGIIPSを「生かさず殺さず」程度に支援し続け、問題を先送りにする。
  ⇒これが一番ありそうな話だとしており、実際のドイツの行動もこの通りになっている。

著者の予測では、ドイツが短期的にケース3を選択したとしても、長続きはしない。程度の差はあれトランスファーの負担を負うことにドイツ国民の不満はいずれ爆発するだろうし、必要最低限の支援しか受けられないGIIPSの経済がドイツ国民の不満が爆発する前に復活するとも思えない。
かくしてユーロは結局崩壊する、というのが著者の長期予測である。


<おわりに>
このような著者の悲観的な予測が当たるかどうかは今後を見てみないといけないが、ユーロ危機の構造を説得力をもって解明し、ドイツの苦悩を克明に浮かび上がらせる過程は非常に面白い。
ヨーロッパ共通の決済勘定「ターゲット」など、やや難解なシステムについても根気よく説明してあり、他にも経済を考える上での示唆的な指摘が散りばめられているので、以下に抜き書きしておく。
おススメです。

・大恐慌に対応したフーバーは、経済認識は一流でも政治家としては二流であった。同様の例として宮沢喜一。(55項)

・危機は周辺から始まる。1920年代バブル@アメリカとその崩壊。1980年代バブル@日本とその崩壊。そして今回のサブプライムローンとユーロ危機。

・金融機関にとって、最も安全で計算のできる「中核」の借り手が、金融機関から借りないようになった。それで仕方なく、金融機関は「周辺」に新たな市場を開拓しようとした(110項)。成熟経済下では企業は内部留保で資金繰りできるため、もはや金融業はいらなくなる。

閉じる コメント(2)

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ユーロ圏は、経済的にドイツ一国に頼りすぎみたいですね。ドイツ人すごいな〜〜^^;。
経済的に近隣諸国より恵まれている国は、あくまで「いい意味で」、リーダー的存在となって、世界的にも貢献していけたり、意見を述べたりできる立場にもなりうると思うのですが…、なかなかそうはいかないようですね。
そこで日本は…?、って考えたら、ちょっと暗い気持ちになってしまいました(笑)。

2013/8/24(土) 午後 11:57 Cutty

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>Cuttyさん:歴史的に見れば、そういうことができたリーダー国もあります。19世紀イギリスや、第二次戦後のアメリカなどはその役割を果たしていたと思います。それができなかったのが、第一次大戦後のアメリカ、そして今のドイツですね。そのとき漏れなく世界恐慌が起こっているのも、こう考えてくると必然なわけです。
日本は基軸通貨までいかないまでも、地域のリーダー国であることは間違いないんですが…ね(笑)

2013/8/29(木) 午前 6:08 大三元


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