読書のあしあと

訳あってしばらく閉店します。

全体表示

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

アメリカ文学/映画というもの

つい最近、アメリカの小説と映画を続けて観賞して、思ったことを書き残しておきます。

それは、なぜアメリカ文学/映画ではほとんどのモチーフが「酒、ドラッグ、女、セックス、同性愛、殺人、暴力、離婚」なのかということ。

例えば映画『華麗なるギャツビー』は、ギャツビーの過剰なまでの純愛が破滅へ突き進むプロセスを描いており、観る者はギャツビーに寄り添うニックに共感します。「過剰なものに惹かれ、愛でる」という心情はおそらく世界共通なのですが、それを映画として表現する際の道具がこの映画では「酒、女、殺人」でした。

ピュリッツァー賞を受賞した書評272:『オリーヴ・キタリッジの生活』も、アメリカ文学にしては割と淡々とした筆致で、田舎町を舞台にした庶民の生活を描いているということもあり、表面上は『ギャツビー』ほどの華やかさはありません。むしろ、人生の渋味を味わうための地味な小説です。ところがこの作品にして、小説を構成する材料になっているのは「酒、暴力、離婚、強盗」です。


確かに、こういった「アメリカ的モチーフ」は文学/映画の題材になり易い。そのため、ほとんどのアメリカ作品ではそういうものが出てくる。しかし、過剰なものを愛でるとか、田舎町のあれこれを描くとか、そういう文学/映画をつくるときに、必ずしもそういったモチーフを使わなくてもいいわけです。
では他の国の作品はどうか。例えば、フランス映画なんかでは日常生活をダラダラと続ける映画がたくさんあると思いますし、イギリス文学の伝統に掉さす名作書評54:『日の名残り』は『オリーヴ』と同じテーマを扱いながら、アメリカ的モチーフは出てきません。
そもそも、変人奇人を愛し、その伝統の中で涵養することにこそイギリス文化の最大の特徴があります(書評77:『イギリス的人生』参照)。

つまり、アメリカ文学/映画で表現したいことは(程度の差こそあれ)普遍的なのに、その表現方法にアメリカ作品の特徴がある。


この、アメリカ的モチーフの出現頻度がアメリカ作品に極端に多い、という現象はなぜ起こるのか。
単純に、アメリカでは他の国よりもそういったものが日常に根付いているということなのか。

今後とも考えていきたいテーマの一つです。

開く コメント(10)

イメージ 1

書評272 エリザベス・ストラウト

『オリーヴ・キタリッジの生活』

小川高義(ハヤカワepi文庫、2012年)

ぼやっとさんにお薦めいただいた本。
私からは書評264:『観光』をお薦めしたので、ハヤカワepi文庫の交換会みたいになってしまった。


【著者紹介】
Elizabeth Strout (1956年―)
アメリカ・メイン州ポートランド生まれ。第一長篇『目覚めの季節エイミーとイザベル』(1998)でオレンジ賞とPEN/フォークナー賞の候補となり、“ロサンゼルス・タイムズ”新人賞および“シカゴ・トリビューン”ハートランド賞を受賞。第二長篇Abide with Me(2006)を経て、2008年に発表した『オリーヴ・キタリッジの生活』は全米批評家協会賞最終候補となり、2009年度ピュリッツァー賞(小説部門)を受賞した


【本書の内容】
アメリカ北東部にある小さな港町クロズビー。一見何も起こらない町の暮らしだが、人々の心にはまれに嵐も吹き荒れて、いつまでも癒えない傷痕を残していく―。住人のひとりオリーヴ・キタリッジは、繊細で、気分屋で、傍若無人。その言動が生む波紋は、ときに激しく、ときにひそやかに周囲に広がっていく。人生の苦しみや喜び、後悔や希望を静かな筆致で描き上げ、ピュリッツァー賞に輝いた連作短篇集。


お薦め度:★★★☆☆

【本書の感想】

<全体の感想>
オリーヴという女性とその周りの人々に起こるとりとめもない出来事を、数十年間のスパンで描いた連作短篇集。
さらりと書かれているようで、一篇一篇が重い。
まるで十数年寝かせておいたウィスキーのようだ。口当たりは軽いのに、よく味わってみるとだんだん奥深さが感じられてくる。本当に美味いウィスキーを飲むと黙ってしまうように、本書の感想を書くのも難しい。

なぜ重いのか。
一つは、本書の背景が典型的なアメリカ社会であるためではないか。
舞台は田舎の小さな港町だが、酒、離婚、ドラッグ、殺人などアメリカ社会に巣くう病巣が垣間見えるのは、それが大都会に限らないということだろう。

いま一つは、解説の井上荒野が言うように「時は無常なり」というテーマが根底に流れているからだと思う。
本書の中でオリーヴは40代から70代まで歳をとる。周囲の人も立ち去ったり死んだりする。息子は成長し、親を煙たがるようになる。
泣いても喚いても時は流れる。時は傷を癒すどころか、新たな傷をつくることもある。そういう残酷な現実を、もがきながら受け止めるオリーヴを、本書は淡々と描いている。
この、砂嵐が吹き荒れるような登場人物の内面を、あくまでも淡々と描写しているところに本書の味があると思う。

以下、いくつかの短篇を取り上げて所感を記す。


「薬局」
「時が経つ」ということの意味、それを思い出すことの意味を噛みしめることができる一篇。
あったかもしれない人生を回想する壮年の男の、後悔とも自己否定(肯定)ともつかぬ複雑な感情を描いて間然としたところがない。見事の一言である。
こういう思いは誰もが持っているはずで、特に女性より男にそういう思いが強いような気がする。
これが長篇になってイギリス文学になると書評54:『日の名残り』に近くなるのかもしれない。


「飢える」
主人公のオリーヴ・キタリッジは、無愛想で傍若無人、口も悪い。図体が大きいことがその印象に拍車をかけている。「この町で絶対に泣き顔を見せない人物がいるとしたらオリーヴだろう」と思われていたくらいだ。
そのオリーヴが、初対面の女の子を見ていきなり泣き出す場面がある。

「会ったばかりの他人だけどさ、あんたみたいなお嬢さんを見てると、つらくて泣けてきちゃうのよ。……あたしはね、32年間、学校の先生やってたの。でも、こんなに病んでる子は見たことない」(159項)

厚い面構えの顔の下に隠した、繊細な感性が流させた涙なのか。ショッキングなシーンである。


「犯人」
あたしの人生、こんなはずじゃない、と考えていた。そしていま、これまでの人生の大半は、そのように考えて過ごしたのではないかと思った。あたしの人生、こんなはずじゃない……。(405項)

これはオリーヴの台詞ではないけれど、この短篇集を象徴しているように思う。もちろん、人生はマイナスばかりで埋め尽くされているわけではない。しかし、往々にして思った通りにはいかないものだ。


<おわりに>
個人的に、すごく共感できる作品とそうでもない作品の差が激しかった短篇集だったが、その理由をまだ整理できていない。
はじめに述べた「アメリカ社会」的な背景なのか。
「薬局」がわかる、というのはどちらかというと男性的心理だと思うので、男女差なのか。
いずれも決定的要因ではないように思うが、これは個人的な整理の問題。

開く コメント(6)

イメージ 1

映画『華麗なるギャツビー』

話題作を観てきました。原作は未読です。
これだけ世界中で読み継がれている原作ですから、原作ファンだったら文句の一つも言いたいところでしょうが(笑)、以下はシロウトとしてのレヴューです。

監督:バズ・ラーマン
原作:F.スコット・フィッツジェラルド
出演:レオナルド・ディカプリオ(ジェイ・ギャツビー)、トビー・マグワイア(ニック・キャラウェイ)、キャリー・マリガン(デイジー・ブキャナン)、ジョエル・エドガートン(トム・ブキャナン)、アイラ・フィッシャー(マートル・ウィルソン)、ジェイソン・クラーク(ジョージ・ウィルソン)、エリザベス・デビッキ(ジョーダン・ベイカー)

《ストーリー》
証券会社に就職し、ニューヨーク郊外に移り住んだ青年ニック・キャラウェイ。隣は宮殿のような豪邸で、夜な夜な豪華なパーティが開かれていた。しかし、そんな騒乱の屋敷に住んでいるのはジェイ・ギャツビーという謎めいた男ひとりだけ。ある日、ニックのもとにもパーティの招待状が届く。招待客はギャツビーについて様々な噂をたてるが、誰も彼の素性はおろか、パーティを開く理由さえ知らなかった。そんな中、ついにギャツビー本人と対面したニック。やがて、ギャツビー自らが語る本当の生い立ちを聞かされるのだったが…。(allcinemaより)

なかなか良かったです。原作を読んでないから良かったのかもしれませんが。

時は1920年代、海辺の豪邸で夜な夜な開かれる狂乱パーティーを主催するのは、謎の男ジェイ・ギャツビー。
ギャツビーがなぜこのようなパーティーを開くのか、彼はいったい何者なのか、その謎が解き明かされるかたちで話は進みます。

果たしてギャツビーの正体は、一途に一人の女性を想い続け、自分の夢のために努力を惜しまないが思い込みの激しい、一人の孤独な男でした。
狂言回し役となる青年ニックは、ギャツビーの生い立ちから現在の成功を知るに至り、彼の良き理解者となります。

ギャツビーの過剰なまでの純粋さ、それゆえのすれ違いは切ないですね。ギャツビーの気持ちがわかるというよりは、ギャツビーに最後まで寄り添ったニックに共感しました。
ギャツビーの過剰なやり方、相手の立場を考えずに自分の気持ちだけ押し付けるところなどは、確かに褒められたものではありません。今で言えばストーカーです。しかし、自分の夢――愛する女性と一緒になることを実現するために途方もない努力を続けたこと、その意志の強さは、ニックが最後に親指を立てて賞賛したように、「君には価値がある」。


キャストは、何と言ってもディカプリオ。映画『J・エドガー』もそうでしたが、「強烈な個性を持つ孤独な男の一生」を演じさせたらハマる俳優になってきた、ということがわかりました。もはやアイドル俳優というより、光も影もある大御所という感じです。
ヒロイン役のキャリー・マリガンは可愛かったなあ。好みの問題かもしれないけど(笑)。
ニックを演じたトビー・マグワイアは、『スパイダーマン』のイメージしかなかったのですが、キャラもそのまんま、奇抜な出来事に翻弄される好青年という感じでした。適材適所ですね。


原作は、バブルな匂いとアメリカ的病の雰囲気がプンプンするので手が伸びなかったのですが、あらすじを知ってしまったのでますます読まなくなるかも。
でも一度は読むべきですよねえ。

開く コメント(10)

開く トラックバック(1)

イメージ 1

書評271 上野一彦・市川宏伸

『図解 よくわかる 大人のアスペルガー症候群』

(ナツメ社、2010年)

アスペルガー症候群について、個人的に勉強する必要が出てきたため、入門書として買ってみた。


【著者紹介】
うえの・かずひこ 東京学芸大学名誉教授、日本LD学会理事長。
東京大学大学院を修了後、東京学芸大学教授などを経て現職。LD教育の必要性を説き、支援教育を実践するとともに啓発活動を行う。1990年に全国LD親の会、1992年に日本LD学会の設立にかかわる。文部科学省や東京都の委員会委員を歴任。

いちかわ・ひろのぶ 東京都立梅ケ丘病院長。東京医科歯科大学医学部臨床教授。東邦大学医学部客員教授
1979年北海道大学医学部卒業。医学博士、薬学修士。1982年医員となり、同病院副院長を経て2003年より現職。日本児童青年精神医学会理事、自閉症スペクトラム学会理事、日本司法精神医学会理事


【目次】
序章 あなたはどのようなことで悩んでいますか?
1章 アスペルガー症候群の特性を知ろう
2章 アスペルガー症候群は発達障害に含まれる
3章 「自分はアスペルガーかもしれない」と思ったときは
4章 らくに生きるためのサバイバルスキル&ヒント
5章 必要なスキルを身につけて仕事に就くには
6章 支援のポイント-ご家族や職場など、まわりの方へ
7章 ケーススタディ-アスペルガー症候群当事者の声


【本書の内容】
らくに生きるためのサバイバルスキル&ヒントを紹介。コミュニケーションを円滑にする、支援のポイントを解説。


お薦め度:★★★☆☆

【本書の感想】

<全体の感想>
アスペルガー症候群を知っておきたい人に薦めるならまずこの1冊、という感じの本。
大文字で誰にでも読み易い文章、全ページに挿入された図やイラストは、本を読み慣れていない人にとってもわかり易いものだろう。

アスペルガー症候群の特徴、本人の感じ方、仕事や社会関係、支援の方法まで、カバーしている範囲は広く、また説明の仕方も具体的な症例を入り口に他の発達障害との関連まで視野に入れており、頭に入りやすい。

アスペルガー症候群については以前の限定エントリで書いたので、ここでは新たに知ったことを中心に取り上げたい。


<「スペクトラム」という柔軟な発想を>
発達障害を考える際のキーワードに「スペクトラム」というものがある。
これは「同じような特性を持った境界線のない一群の連続体」(18項)という意味である。

アスペルガー症候群は「自閉症スペクトラム」に位置づけられ、その共通する特徴として挙げられるのは
‖仗祐愀犬侶狙が難しい「社会性の障害」
△海箸个糧達に遅れがある「言語コミュニケーションの障害」
A杼力や柔軟性に乏しい「想像力の障害」

アスペルガーは知的能力も言語能力も高度に発達しているが、同じ自閉症スペクトラムの中では、自閉症は△糧達に遅れが見られ、さらにカナータイプ自閉症は知的な遅れも伴っており、これらの間には境界線がなくグラデーションのように連続していると見るのがスペクトラムの考え方である。


また、覚えておきたいのが「発達障害自体がスペクトラムである」という考え方(34項以下)。
発達障害と呼ばれるものの中には、上記以外にもLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、発達性言語障害、発達性協調運動障害などがあるが、一人の人間にこれらの複数が併存していたり、成長するにつれて診断名が移り変わったりすることがあるという。
これは、いずれも脳の機能不全(=インプット)が発達障害として見える症状(=アウトプット)の原因であり、人によって先天的に、あるいは成長の過程によってインプットの組合せが様々だと、アウトプットも十人十色になるためである。

ここは個人的に重要だと思っていて、ある時点(ある医者)から○○症だと診断されたとしても、もっと柔軟に幅をもって障害を捉える必要があることを示唆している。
診断名にこだわらず、具体的にどのようなことで困っているのか、どのようなことができないのか、どのような暮らし方をすれば生きにくさを感じないか、を考えるべき(72項)と書いてあるが、その通りだと思う。


<おわりに>
巻末に収められた、アスペルガー障害者本人による手記も、本人がどう感じているか、本人からどう見えているのかを知る上で貴重なもの。

特に、発達障害者には「福祉施設や学校で勉強から生活態度まですべてを指導するのではなく、一つのことに特化して指導する“教習所スタイル”が適している」(119項)という指摘は、なるほどと思った。

障害者と接する機会がある方は、このような本を何でもいいから1冊読んでおくのとそうでないのでは、全く接し方が違うと思う。ぜひお薦めしたい。

開く コメント(3)

一部の方にご指摘いただきましたが、今月でこのブログが8周年を迎え、9年目に突入しました。
毎度書いていることですが、ただの素人が書いているブログに毎日これだけの方に訪れていただき、コメントを残していただけることは、大きな励みであり、モチベーションになります。ありがとうございます。
 
ブログ開設当初の本楽家協会の活動など、「括り」での交流はなくなってしまいましたが、それでも毎日のように読んで下さる読者はいるわけですし、細く長く続けていきたいと思っています。
今年は「回想のMy Best Books」企画も始めて、まだ記事が一つではありますが、今後とも様々なかたちで本のこと、本を読んで考えたことを共有し、話し合えることができたら、と思っています。
 
 
さて今年も、過去たくさんのコメントをいただいた方のお名前を挙げ、感謝をしるしたいと思います。
 
 
《200コメント越え》
JOさん、mepoさん
 
《150コメント越え》
あつぴさん、あんごさん、凛さん、さんぽさん、ぼやっとさん
 
《100コメント越え》
すてさん、こーりゃさん、あおちゃんさん、AKIKOさん、NONAJUNさん
 
《50コメント越え》
オブ兵部さん、Choroさん、gakiさん、みかんさん、しろねこさん、ちいらばさん、Mineさん、CAVEさん、はざくらさん、Cuttyさん、ソフィーさん、KING王さん、コウジさん、蓮さん、きいちごさん
 
《20コメント越え》
アズライトさん、yumikoさん、もたんもぞさん、かえるさん、わかめさん、akihitoさん、みこぴょんさん、永田さん、Mielさん、inmysunshineさん、Kimmiさん、ちょいこさん、だいちゃんさん、ペコスマイルさん
 
 
ありがとうございました。
そして、これからもよろしく。
 

開く コメント(24)


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事