書評131 福岡伸一
『生物と無生物のあいだ』
(講談社現代新書、2007年)
昨年のベストセラーであり、サントリー学芸賞まで受賞しているから、既に読んだ方も多いと思う。
私自身も再読となるが、せっかくなので記事に残しておくことにした。
【著者紹介】
ふくおか・しんいち (1959年─) 生物学者。青山学院大学教授。専攻は分子生物学。
1987年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了。ロックフェラー大学やハーバード大学医学部のポストドクトラル・フェロー、京都大学大学院農学研究科助教授などを経て現職。
『プリオン説はほんとうか?』(講談社、2005年)で講談社出版文化賞、本書でサントリー学芸賞を受賞。
他に『もう牛を食べても安心か』(文春新書、2004年)などの著書がある。
【本書の内容】
「生命とは何か」という生命科学最大の問いに、いま分子生物学はどう答えるのか。歴史の闇に沈んだ天才科学者たちの思考を紹介しながら、現在形の生命観を探る。ページをめくる手がとまらない極上の科学ミステリー。分子生物学がたどりついた地平を平易に明かし、目に映る景色をガラリと変える!
【本書の感想】
本書についてはすでに多くのレヴューが出ているし、生物学については全くの素人なので、詳しい内容についてはトラバ先の記事に譲るとして、世間で言われている批判に対する反批判の形で短い文章を残しておく。
まず内容について。「タイトルと内容に関係がない」との批判もあるが、確かに寄り道のエピソード満載で『生物と無生物のあいだ』という書名をずっと追い続ける本ではない。少年時代の虫取りの思い出や、著者がまだ駆け出しの研究者だった頃の経験などが滑らかに語られるので、肝心の本筋を見失う読者もいるかもしれない。
しかし注意深く読めば、著者の「生物の生物たる所以は動的平衡にある」という一貫した主張はわかる。
この主張については「別に目新しいことは言っていない」とか「今西錦司の焼き直しだ」という専門家の意見もあるようだ。
また本書が売れた最大の理由でもあり、批判者も出る焦点になっているのは、本書の文学性にあると思う。著者の文章は理系の研究者にしては珍しくファンタジックである。本書はもともと講談社の雑誌に連載されていたエッセイをまとめたものであり、いわゆる研究書ではないので、理系の読者は「もっとちゃんと書けよ」と嫉妬混じりに思うのかもしれない。
しかし私は、本書の最大の魅力は新書の在り方の模範例を示していることにあると思う。
本来新書は、その道の大家が味のある入門書を書く“教養新書”であり、新進気鋭の若手が鋭い視点で問題提起をする媒体でもあった。その意味で言えば、本書は「退屈な理系の教科書」ではなく、ドラマチックな生物学史としても読めるし、ダーウィニズムへの著者なりの異議申し立てとしても読める。目新しいことは言っていなくても、それを世に広く紹介するだけで、生物学にとって大きな貢献だと思う。
素人にも専門家にも読める本になっていることは、新書ブームの昨今にあって喜ぶべきことだろう。
内容については、非常にスリリングであった。文系の人間でも十分読めるし、個人的にも考えさせられるところは多かった。こういう新書が増えることを期待したい。
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