読書のあしあと

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書評253 太宰治

「新釈諸国噺」

(『太宰治全集6』ちくま文庫、1989年所収)

昨年書評した『太宰治全集6』の中で、読み残していた短篇集「新釈諸国噺」を読んだので、単独書評する。


【著者紹介】
だざい・おさむ (1909─1948年) 作家。本名、津島修治。
青森県生まれ。東京帝大仏文科に入学するも、講義についてゆけず中退。学生時代から作家を希望するが、自殺未遂を繰り返す。結婚後流行作家となったが、1948年、玉川上水に愛人と入水心中。主な作品に『晩年』、『女生徒』、『走れメロス』、『新ハムレット』、『駆込み訴へ』、『津軽』、『新釈諸国噺』、『お伽草紙』、『斜陽』、『人間失格』など。
過去に本ブログで取り上げた作品に、書評87:「畜犬談」書評92:『太宰治全集3』書評100:『太宰治全集4』書評140:『太宰治全集5』書評238:『太宰治全集6』がある。


【目次】
貧の意地/大力/猿塚/人魚の海/破産/裸川/義理/女賊/赤い太鼓/粋人/遊興戒/吉野山


お薦め度:★★★☆☆

【本書の感想】

<全体の感想>
「新釈諸国噺」は、太宰が「世界で一ばん偉い作家」と仰ぐ井原西鶴の作品を下敷きに、太宰独特のアレンジを加えた連作短篇集。要するに西鶴へのオマージュである。

私は西鶴の原作を読んだことがないけれども、面白く読めた。こういう作品を書いてしまうところに、太宰の才能を感じるわけですね。

あらすじの元ネタもパターンがあって、お決まりのネタは
  ・貧乏人の悲哀
  ・茶遊びで身を滅ぼす
  ・無駄なプライドを通すことの滑稽さ
などが、かたちを変えて顔を出す。
太宰の才能を感じる、と書いたのは、こういう他愛もない話をおもしろおかしくデフォルメできるという意味である。

以下、印象に残った作品の短評。


「貧の意地」
いかにも講談にありそうな話。
展開が二転三転して結局そういうオチ?っていう。落語にもこういうネタありそうだな。
太宰のストーリーテラーとしての手腕が冴えている。


「猿塚」
駆け落ち夫婦と義理固い猿の話。
失って気づく大切なもの、とはこういうものなのだろう。
人間になつく義理固い動物といえばまず犬が思い浮かぶけど、猿も飼い慣らせばこういうふうになるのかもしれない。


「裸川」
たった十一文の銭を捜すために四両を使って得意満面な武士。
やっぱり太宰は上手い。生真面目であるがゆえの滑稽さを描く上手さは、現代で言えば森見登美彦に通じるところがある。森見も『新釈 走れメロス』なんか書いてるだけあるな、と全然関係ないことを考えてしまった。


「義理」
友人に義理立てせざるを得ない武士の悲しさ、というありきたりなあらすじだけど、特筆すべきは太宰の人物造形。友人の息子の小憎たらしさといったら、読んでいるこっちまで腹立たしくなる。その小僧のために犠牲にせざるをえない武士の命のあっけなさ。


「赤い太鼓」
小噺、という表現がぴったりくる、とんちの妙味が味わえる一品。
ミステリの一種にショート・ショートという分野があるが、これなんかはその中に入れても遜色ないと思う。


「吉野山」
だらしないダメンズが、自虐ネタを滔々と語るモノローグのかたちをとっており、その意味で完全に太宰カラーの作品である。西鶴の原作からどの程度手が加わっているのかわからないが、この語り部はまったく太宰そのものと言ってもよい。たとえばこれを「右大臣実朝」の公暁のモノローグだと言って人に読ませても、違和感なく読んでしまうに違いない。
 

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