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【著者紹介】 たけもり・しゅんぺい (1956年─) 慶應義塾大学経済学部教授。専攻は国際経済学。 1985年慶應義塾大学大学大学院経済学研究科修了。1989年米ロチェスター大学より経済学博士号(Ph.D.)取得。経済産業研究所ファカルティフェローなどを経て現職。『経済論戦は甦る』で読売・吉野作造賞受賞。他の著作に『世界デフレは三度来る』、『資本主義は嫌いですか』など多数。 本ブログで取り上げた著作に書評147:『1997年 世界を変えた金融危機』、書評276:『ユーロ破綻 そしてドイツだけが残った』がある。 【目次】 第1章 危機で円高になるのはなぜか 第2章 アベノミクス成功の条件 第3章 通貨安とV字型回復 第4章 実質金利の低下こそ重要な鍵 【本書の内容】 通常、金融危機に陥った国の通貨は下落するのに、危機に際してなぜ円高になるのか?デフレ以上に、この円高こそ、日本経済長期停滞の原因だ。「失われた10年」の核心に迫り、アベノミクスの成否を占う。 お薦め度:★★★★☆ 【本書の感想】 <全体の感想> このブログで扱った前二著の書評で「タイムリーで、ためになって、面白い、三拍子揃った傑作」と書いたが、今回の新書も例に漏れない好著である。 本書のテーマは主に二つ。一つは「なぜ他の通貨とは違い円だけが危機に際して高騰するのか?」という謎。もう一つはアベノミクスの行方である。 歴史と理論と時事とエピソードを縦横無尽に論じ尽くすスタイルは相変わらず知的好奇心をビンビン喚起するが、これまでの著書に比べると若干まとまりを欠いているのはご愛嬌。 以下、本書の二つの柱を中心にレビューしていきたい。 <日本だけが円高になる理由> 2008年のリーマンショックから東日本大震災に至ってピークを示した“超円高”の傾向に際して、一部のエコノミストや日銀総裁は「強い円は日本の国力の証明」と強弁した。しかし大震災のような国家的危機が日本の国力を強くし円高になる、というのは明らかにおかしい。 「金融危機などが起こればその国の通貨は弱くなる」という経済の常識に反してなぜ日本だけが円高になるのか、という疑問に、本書は1ページで答えている。 日本の民間企業は、国内で困ったことが起こると、海外に蓄えているドル資産を取り崩して、国内に持ち込もうとする。それで国内の資金繰りをつける。この場合、ドルを円に戻す必要が出てくるから、円買い、ドル売りの殺到となり、「円高」になるわけだ。さらにそれに「思惑」が拍車をかける。資金繰りに問題のない投資家まで、「円高」への流れを読んで、円買い投機をする。それでただの円高ではなく、「超円高」になるのである。(30項) 要するに、日本が多額の資本輸出国であることが全ての発端であり、しかもこの「海外資産の国内への逆流⇒それを見越した投機的円買い」のサイクルがリーマンショックのみならずバブル崩壊以降の平成不況を長引かせてきた主要因だというのだ。 多額の対外純資産を持つノルウェーでも同じような挙動が見られることから、本書の指摘は非常に説得力がある。 (同様に「失われた20年の主要因は円高」と指摘したものとして書評237:『経済成長は不可能なのか』。) <日本には円安主導の経済回復しか残されていない> 伝統的なレッセ・フェール思想に立てば、ある国が危機に陥っても 海外資本が逃避→通貨が下落→輸出競争力が向上→輸出をテコにV字回復 というシナリオで平常な経済状態に戻ると考えられる。 実際、90年代前半のスカンディナビア危機や90年代後半のアジア通貨危機では、スウェーデン、フィンランド、韓国といった国がこのシナリオでV字回復を果たしている。 ところが、日本だけは円高に振れてしまう。ではどうしたらよいのか?著者の結論はこうだ。 「日銀が長期国債に焦点をあてた買いオペを進め、円安に誘導して輸出主導で経済を軌道に乗せる」 つまりアベノミクスの方向は正しく、「それ以外の方法は、筆者は正直思いつかない」(214項)とまで言う。 実際、小泉政権時代の戦後最長の好景気は輸出主導であり、それもグリーンスパンFRB議長時代のアメリカの好景気に引っ張られたものだった。ゆえに、アベノミクスの成否もアメリカをはじめとする世界景気に依存している、という当たり前といえば当たり前の結論になる。 日銀と結託した政府の円安誘導政策に対する批判に対しては、以下のように答えている。 ・通貨安政策は貿易戦争を招くのではないか ⇒「外需」を「輸出マイナス輸入」とするのはマクロ経済学の悪しき伝統であって、重要なのは「輸出」である。輸出を伸ばすと同時に輸入も伸ばせば、設備稼働率は上がるため経済は成長する。 ・政府が日銀に圧力をかけるのは中央銀行の独立性を侵している ⇒「中央銀行の政治的独立性」という言葉はもはや時代遅れ。FRBやECBは政治の領域にかなり踏み込んで仕事をしており、それは現代では当然のこと。 <おわりに> 本書にはトリビア的な面白ネタも満載で、それがまとまりを欠いている要因ではあるのだが、著者の小泉首相に対する評価が面白かったので最後にメモ。 当時の小泉首相の発言「いま日本は構造改革の結果復活した米英と同じことをやろうとしている。しかし改革の最中の米英では通貨は弱くなったが、日本はデフレの上に円が強くなっている。これはおかしい」を評して曰はく、「ワンフレーズ・ポリティクスの小泉氏とは思えない、深淵な思想である」「別に経済学博士号を持っていなくても、経済がよくわかる人がいるという当たり前のことの証明だろう」。
一方で、郵政民営化は「あれだけはやってはいけません」。 |
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2014年02月09日
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