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セス・グレアム=スミスさんによるオースティン作品のパロディ小説。図書館で『高慢と偏見』と『高慢と偏見とゾンビ』が書棚に並んでいたのは壮観でした。ゾンビのパロディ本もあると知っていたので、できればこちらも借りたいとは思っていたのですが、まさか堂々と正典の隣にあるとは・・・。
このパロディ、私の予想では、ヘンリー・ジェイムズさんの『ねじの回転』のような、もしくは萩尾望都さんの『ポーの一族』の初期の頃のような趣き深いゴシックホラー的な仕上がりになっているはずでした。正典のストーリーの影に密やかに潜むゾンビ。確かにゾンビがいる、だけど何処に、そして誰がゾンビなのか・・・と言った感じのお話かなと。
でも、予想は全く裏切られました。正典の内容はほとんどそのまま、文章表現も現代的に簡潔になっている部分は多いものの、原作者の書き方そのまま。だけど、物語世界は完全なるパラレルワールドで、イギリス全土に謎の奇病が発生し、いたるところをゾンビが跋扈している設定です。しおらしい典型的英国淑女のはずのベネット五姉妹は、なんと中国の少林寺三十六房等で修行を重ねて来た対ゾンビ用女戦士なのです。要するに、シチュエーション・コメディ的な爆笑狙いなのですが、でも、結構いいとこをついています。
正典でもちょっと教訓的というかお伽噺的に、好感の持てない登場人物の運命はあんまりよくないのですが、このパロディでは徹底的に悲惨なものとなっています。たぶん、ここも笑うところなんだろうな〜。伝統的英国を表現している部分を極端な中国や日本文化に置き換えたり、登場人物の処遇を更に際立たせてみたり、正典のちょっと鼻につくところを狙い撃ちしていて、逆にはっとさせられますね。
ゾンビの設定には科学的なバックグラウンドもファンタジー要素もなく、ただただたくさん出てくるだけなんですけど、でも、正典の物語上、各登場人物の行動の動機がちょっと弱いかな〜と思っていた部分に絡んできて、意外にも効果絶大。登場人物たちがなぜそんなふうに行動したかといえば、「ゾンビに襲われたから」、「ゾンビ化の奇病に感染したから」、もしくは「感染していると思ったから」などなど、強力に動機が補強され納得できてしまうんですよね。
たけどこの小説、高慢と偏見のためにすれ違うラヴ・ローマンスをやりつつ、お金と結婚について考えさせ、しかも多彩な登場人物で社会風刺しながら、暴力とアジアンなゾンビネタで笑わせ、更に正典には絶対ない下ネタまで投入していらんサービスしてきますので、読者は読んでいて忙しい事この上なしです。
まあ、新たなパロディの作り方を学ばせて頂いたと思えば勉強になったなあと思いますし、正典そのままの部分が多いため、正典の内容をおさらいすることができて、お得といえばお得でした。でも、この本のお陰で『高慢と偏見』はゾンビ無くしては思い出せなくなっており、ときどき正典にゾンビが出てきたかのような錯覚に襲われます。この作品、映画化されるようですので、完成したら是非観てみたいと思いますね。
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