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「Checkmate King 2, this is White Rook, over.」
(チェックメイト・K2、こちらホワイトルーク、どうぞ!)
――― 斥候サンダース軍曹です! ―――
アメリカ南部の都市ニューオリンズは全米でも有数の観光都市である。ルイジアナ州南部のメキシコ湾に通じる港湾都市で、北米最長のミシシッピ川河口に位置している。
フランスとスペインの植民地時代の街並みを残すフレンチ・クォーターから2ブロック内陸に、1897年に一大歓楽街の“ストーリーヴィル”が誕生する。
この歓楽街を中心にラグタイムやジャズも躍動し生れる。1917年にストーリーヴィルが閉鎖されると失業した音楽家たちはシカゴや北部の工業都市へと拡散した。
ストーリーヴィルが閉鎖された大きな理由は、高級娼館から通俗な売春宿が立ち並ぶ紅燈街だったからだ。映画監督のルイ・マルが米国に渡り、最初の作品である『プリティ・ベビー』の舞台にしたのが、ストーリーヴィルの高級娼館である。閉鎖される直前の1917年が時代背景となる。
1978年公開の、この映画で、当時12歳だったブルック・シールズが衝撃的なデビューをはたす。赤線地区の歓楽街であるストーリーヴィルの中でも、マダム・ネルの経営する娼館は、上流階級を顧客にする老舗である。物語の冒頭で12歳の少女ヴァイオレット(ブルック・シールズ)の母が男の子を出産する場面から物語は始まる。
ヴァイオレットの母(スーザン・サランドン)はマダム・ネルの店で働く娼婦であり、ヴァイオレットはもの心つく頃から娼館で育った。マダム・ネルの身のまわりを手伝ったり、店の小間使いを日常としている。
ヴァイオレットは娼婦たちの妹のような存在であり、誰からも愛されている。娼館にはヴァイオレットと同世代の子供も多く、子供らしい遊びにも充実していた日々を送る。
ヴァイオレットはやがて自分も娼婦になることには疑問も抱かず、早く身をもって稼ぎたいとすら日常考えていた。娼館の生活は朗らかなもので、退廃的なムードは一縷もない。
娼婦も、客も、店で演奏するミュージシャンやバーテンダーたちは、皆、健気で陽気な世界の住人である。撮影を担当するスヴェン・ニクヴィストの映像が美しく高踏的なのが格調高いカメラワークとなっている。
このマダム・ネルの娼館に、或る日、無名のカメラマンがやって来る。この写真家はエルネスト・ジェームス・ベロック(キース・キャラダイン) という青年だ。
ベロックはヴァイオレットの母をモデルにして写真を撮りたい旨をマダム・ネルに求める。そして娼館にやがて入り浸りとなっていく。ベロックの情熱は乾板に娼婦たちを被写体にすることだけであった。
ベロックは娼婦たちにフランス風に“パパ”と渾名される。ヴァイオレットや娼婦たちが昼日中に娼館で“かくれんぼ”をして遊ぶさまは微笑ましい場面である。
実はベロックは実在の人物をモデルにしている。1971年にストーリーヴィルの娼婦たちを写したE・J・ベロックの写真集が刊行される。ルイ・マルと脚本のポリー・プラットは、この写真集から物語をふくらませて原案にしたと思わしい。
さて、ヴァイオレットは娼館で“水揚げ”の日を迎える。400ドルの高値でセリ落とされて、初めての客をとり稼ぎ手として役割を十分にお勤めする。
それでも恋の駆け引きは大人でも、まだまだ幼いヴァイオレットであり、子供たちと悪ふざけが高じてマダム・ネルにお仕置きを受けて家出する。家出した場所はベロックの仕事場であり郊外の住宅だった。
やがてベロックと親密な関係になるヴァイオレットであるが、そんな或る日のこと、ヴァイオレットの母は常連客と結婚して娼館を去る。母の誘いを固辞してヴァイオレットは娼婦として働く道を選択する。
しかし、時代の流れはストーリーヴィルの閉鎖であり、娼館の廃業の日を迎えることとなる。行き場を無くした娼婦たちと、ヴァイオレット一行を伴いベロックは、ニューオリンズの街を馬車で出て行く。
あらすじは、ここまでとするが、うがった見方でベロックをドジソン教授ことルイス・キャロルと重ねられるむきもあるのだが、どちらかというとベロックはアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックに似ている。
E・J・ベロックの写真を観るからには娼婦との暖かい交流や優しい視線を強く感じる。娼館での人々との打ち解けた雰囲気が被写体を通じて朗らかに伝わってくる。
また主演のブルック・シールズの無垢で奔放な演技力には驚くが、聖にも俗にも傾かない表現力を銀幕に示した名演であった。
1976年のマーティン・スコセッシ監督の『タクシー・ドライバー』で、13歳の娼婦を演じたジョディー・フォスターの妖艶な少女とは違って、ブルッキーの演技はジョディーとは対極的な存在感を見せたニンフェットだった。
・・・・・・こちらホワイトルークでした!
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