「受給者つかまえろ」群がる医療機関
「患者の新規開拓が必要や。そこらへんにいる受給者をつかまえてこい」
大阪府内の診療所で半年前まで鍼灸(しんきゅう)師として働いていた20代の女性は、当時、経営者が男性スタッフ数人にそう指示するのを度々耳にした。
患者の9割以上が受給者。内科と整形外科があり、1日200人近くが来院した。だが、行政が受給者の頻回受診に対する指導を強化したことで患者数は1年間で半減。スタッフらは受給者が住むアパートを回り、路上に寝ている人にも見境なく声をかける“営業活動”に追われていた。
「この前、『久しぶりに入院しませんか』と声をかけられて、無理やり入院させられそうになったんや」。女性は治療を受け持った通院患者から、こんな苦情を言われたこともある。
患者の大半は栄養剤の点滴やマッサージといった簡単な治療を受けるだけ。仮病を疑いたくなる人もいた。それなのに少しでも体の異常や痛みを訴えれば、すぐさまX線や内視鏡の検査に回された。診療報酬を稼ぐためだ。
重度のアルコール中毒や薬物中毒で、院内で暴れる患者もいた。刃物を持ち込まれてもスタッフは見て見ぬふり。経営者からは「どんな患者でも受け入れろ」と指示されていた。
日常化した受給者の囲い込み。「こんなところで働いて大丈夫か」と悩むこともあったが、待遇の良さは魅力だった。週5日、1日8時間の勤務で手取り月収は30万円超。残業はなく、ボーナスも出た。同業者に比べて恵まれていたのは、診療所がひとえに受給者をターゲットにし、確実に受診料を得ていたからだ。
5年近く勤めた末に退職。「受給者を食い物にしている」という後ろめたさから解放され、少しほっとした。女性は「今の制度では、医療機関の裁量でいくらでも稼げる現実がある」と指摘し、こう訴えた。
「不必要な医療を求める受給者も悪いが、そこに群がってもうけようとする医療機関はもっと悪い」
2週間で「ハルシオン」148錠、新管理システムで不正あぶり出し
2月6日28錠
15日60錠
18日60錠
大阪市内のビルの一室。ずらりと並んだパソコン端末の1台に、ある40代の生活保護受給者が処方された睡眠導入剤「ハルシオン」の数が表示された。
わずか2週間足らずの間に計148錠。ハルシオンの服用量は1日2錠とされており、約2・5カ月分に相当する。過剰処方や不正転売などが明らかに疑われるケース。こうした不正をすぐさまあぶり出すのが大阪市が4月に導入した医療情報の新管理システムだ。
同市では受給者の診療報酬明細書(レセプト)だけで月に約30万枚。これだけの量を1枚ずつ点検するのはほぼ不可能だった。
そこで情報サービス会社「日本システム技術」(大阪市北区)に委託し、受給者のレセプトをデータベース化。20人の社員が専用端末を使って、個人の受診歴のほか、1つの医療機関にどれだけ診察されたかなどさまざまな角度からの分析を進めている。
こうして浮かび上がった過剰診療のデータは、ケースワーカーらが受給者や医療機関を指導する際の「武器」となる。市の担当者は「これまでは、ある程度の偏った受診が分かっても、『必要だ』と言われるとそれまでだった。客観的なデータを示せば、より強く指導できる」と期待する。