かさぶたろぐ

旅行反芻的部落格。貝類很好。

貝と海

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タマキ貝

 
宮崎県、石波浜でひろった貝殻の詳細、その6。

ベンケイガイ Glycymeris albolinata
タマキガイ Glycymeris vestita
トドロキガイ Glycymeris fulgurata


「タマキ」は「環」で、縄文時代にベンケイ貝などに大きい穴を開けて腕輪が作られていたことから、腕輪の材料となる貝がタマキ貝と呼ばれるようになった。
https://www.city.ichihara.chiba.jp/maibun/pdfhtml/taiken_1/taiken01_03.htm

宮崎県串間市の石波浜にも、多数のタマキ貝類が打ち上げられていた。
それらのうちで、やや四角っぽい形をしているのは、ベンケイガイ。

イメージ 1
         ベンケイガイ Ishinamihama, Miyazaki prif., Japan, May, 2009

図鑑にはベンケイ貝とタマキ貝は並んで載っている。新しい図鑑(2)には丸い形の「ミタマキガイ」が掲載され、これまで「タマキガイ」と思っていた貝は「ミタマキガイ」、「ベンケイガイ」と思っていた貝が「タマキガイ」の可能性も出てきた。

石波浜でひろった上の3枚は、褐色の色合いの濃淡や、殻頂ちかくが直線的なことから、「ベンケイガイ」と判断した。

一方、関東近辺でよく見かける、もっと丸みがあって明るい茶色のタマキ貝は、石波浜ではあまり見かけない。そのかわりに、白地に茶色のイナズマ模様の貝殻が落ちていた。これらもタマキガイだろうか?

イメージ 6
           トドロキガイ と タマキガイ Ishinamihama, Pacific coast of Kyushu, Japan, May, 2009

図鑑でタマキガイを調べると、『殻表の模様は変異が多く、ほとんど白色の個体まであり』(1)とあるので、これらの貝も「タマキガイ」と思われた。

(1) 保育社「標準原色図鑑全集3 貝」波部忠重,小菅貞男共著,1967,p.151-152
(2) 世界文化生物大図鑑「貝」, 2004, p.283


(2016年 8月追記)
和歌山県みなべ町千里の浜でひろったタマキガイも稲妻模様であった。

イメージ 4
タマキガイ Glycymeris modesta (2016. 8 追記)⇒ トドロキガイ Glycymeris fulgurata (2016.11 修正)
Minabe, Kii peninsula, Pacific coast of Japan
※ 4621j は殻長方向で破損しているので、実測では L=37.1mm だが破損前の大きさを約39.4mmと推定した。


z77さんによる鎌倉材木座海岸での貴重度:
ベンケイガイ ★★(減少中)
タマキガイ ★★★
http://homepage2.nifty.com/zaimokuzasan-kairui/uguisugaimoku.html
(スクロール・バーで上から20%くらいのところ)

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§ 過去に拾った貝との比較

これまでタマキ貝と思っていた貝が、ベンケイ貝やトドロキ貝である可能性がでててきた。種を判別するために、殻のサイズを計測し、タマキガイに含めていたものを、ベンケイガイとトドロキガイに分けてみた。なおイナズマ模様のものはトドロキガイと見なした。

イメージ 5

「タマキガイ」「ベンケイガイ」「トドロキガイ」の計測値には、たがいに重なりがあり、計測値だけから種を判別するのは難しい。とはいうものの、結果の平均値をまとめてみると下のようになった。

ベンケイガイ   H/L=89%  2w/L=50%  (n=11)
タマキガイ    H/L=94%  2w/L=60%  (n=7)
トドロキガイ   H/L=94%  2w/L=55%  (n=6)
ミタマキガイ   H/L=104%  2w/L=65%  (n=2)

ベンケイガイは、殻高さ(H/L)・殻のふくらみ(2w/L: wは片貝の幅)とも他の種よりも小さい。
タマキガイとトドロキガイでは、殻高と殻長の比は同等だが、タマキガイの方が殻のふくらみ(2w/L)が大きく、トドロキガイは殻のふくらみが小さい。
ミタマキガイ:殻高比(H/L)・殻幅比(2w/L)ともに他の貝よりも外れて大きい。

すなわち 殻幅-殻長比(2w/L)に種類によるちがいが認められ、
ベンケイガイ<トドロキガイ<タマキガイ<ミタマキガイ の順で殻の膨らみが大きくなる。

殻のサイズの計測によって貝の種類を区別する上記の方法では、貝の成長にともなう殻の形の変化が貝の種類による差とオーバーラップする場合には、誤った答えを出す危険性がある。
そこで、同じ個体の成長ではないが、殻長Lを貝の成長度にみたて、殻高比H/Lと殻幅比2w/Lを仮の「成長度」Lに対してプロットしてみた。

イメージ 7
 

n数は十分ではないが、タマキガイ科の種が、貝殻の計測によって、かなり判別できそうな結果が得られた。


イメージ 2
                房総半島南端、根本海岸のタマキガイ

イメージ 3
                        ミタマキガイ


成長した貝の大きさは、ミタマキ < トドロキ < タマキ < ベンケイ の順なので(2)(4)
ベンケイ貝が腕輪の材料として最適で、「タマキ(環)貝」と呼ばれるにふさわしい。
ミタマキとトドロキは貝環を作れるほどに大きくは育たない。


世界各地のタマキガイhttp://www.idscaro.net/sci/01_coll/plates/bival/pl_glycymerididae_1.htm
フランス産のタマキ貝が紹介されていることから、大西洋にもタマキ貝が棲んでいることがわかる。
ニュージーランド産は白地にイナズマのような点々があり、石波浜のタマキガイと通ずる模様をしているが、殻全体の感じがかなり異なるので別種だろう。

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(2016年 8月 追記)
大西洋のタマキ貝については、『ノースカロライナの貝殻』図鑑(3)に、2種が紹介されている。
そのうちの giant bittersweet の記事を見てみると:

ARK-SHAPED −bittersweets (Glycymerididae)

・オオタマキガイ giant bittersweet Glycimeris Americana (DeFrance)

外観: 4インチ、円形でやや平らな貝。不明瞭な放射肋をもつ。蝶番の突起は中央に位置し、蝶番は長くて19〜24の歯が彫られている。ホタテガイ状の縁。套線の湾入(pallial sinus) は無い。ビロード状の殻皮。

色: 外面は日焼けした灰色で、黄褐色のぶちがある。殻皮は暗褐色。

棲みか: 沿岸にすむ。フィア岬沖の深さ75フィート(約20m)のところに密集して生息。近くの浜や、フィア岬の南でよく見つかる。たまに沖合の漁業の網にかかることがある。

分布: ノースカロライナからフロリダ。

注記: 名前の通り苦い味がするので、海産物とは見なされない。筋肉質の足がある。

(3)“Seashells of North Carolina”, Hugh J. Porter & Lynn Houser, North Carolina Sea Grant College Program, 2010, p.15.



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(2016 11月追記)
日本貝類学会誌"VENUS"にタマキガイとトドロキガイは別種と考えられる根拠が示されました(4)。タマキガイ(関東に多い)とトドロキガイ(紀伊半島以南に多い)は産地の違いによる差のように見えるのですが、鹿児島・土佐湾・紀伊半島には両種が共存し、土佐湾で採取された個体について、酸素同位体含量の計測により殻の成長速度が求めらました。初めはトドロキガイの成長がわずかに早いが、その後遅くなり、タマキガイの方が長生きして大きくなることが分かりました。この研究成果にもとづき、上の記事のタマキガイを、トドロキガイとタマキガイに分けて記載しなおしました。

(4) 「酸素同位体比分析から推定した土佐湾産タマキガイ科二枚貝トドロキガイとタマキガイの殻成長速度と成長パターン」 山岡勇太・近藤康生・伊藤寿恵
"Rate and Pattern of Shell Growth of Glycymeris fulgurata and Glycymeris vestita (Bivalvia: Glycymeridae) in Tosa Bay as Inferred from Oxygen Isotope Analysis", Yuta Yamaoka, Yasuo Kondo and Hisae Ito
VENUS, vol.74, p.61-69, 2016

2年間入会した貝類学会から、この春退会させていただいたが、27年度の学会誌が昨日届き、内容がちょうど本記事に関することでしたので、早速参考にさせていただきました。ありがとうございました。

種の判別については、新鮮な貝殻を見つけて腹縁の鋸歯状デコボコの数を調べるたり、日本海側のタマキガイについても調べる必要があり、まだ分からないことが多いです。

図鑑を作る(二枚貝編):タマキガイとトドロキガイの見分け方
http://blogs.yahoo.co.jp/kudamaki2016/40164855.html
腹縁の歯の数を、貝柱跡の延長線の間で数えると、
トドロキ:25〜29
タマキ:33〜39
とのことです。見分け方ありがとうございます。

私の貝での計数結果
トドロキ:26〜29
タマキ:27〜38
ベンケイ:25〜31
ミタマキ:25
で、歯数で種を判別するのも難しいです。

あうるの森:志賀島のいろいろな模様のタマキガイ
http://owlswoods.cocolog-nifty.com/blog/2015/01/post-8e1a.html

贅沢堪能日記:タマキガイは美味しくない。
http://blogs.yahoo.co.jp/nap4b/10334308.html 
 


(2018.5月追記)
三重県熊野市の七里御浜で摩耗したタマキ貝を3枚ひろいました。

イメージ 8
 

3枚の殻長 38, 54, 56mm のデータを上の散布図に追記。
殻高さも殻幅も、これまでにひろったタマキ貝の範囲内。
おなじ紀伊半島だが南西側のトドロキと比較すると、殻高さは同等、厚さはタマキ貝の方が若干厚めでした。



愛知県の44万年前の地層からタマキ貝の化石が出たそうです。
https://blogs.yahoo.co.jp/dqsgg488/15399343.html


(2019 2月 追記)
鹿児島県いちき串木野市、八房川上流約3kmの台地に貝塚が形成されていて、タマキガイの貝輪の各製作段階を示すような遺物が見つかっている。

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タマキガイとトドロキガイが別種であることが示されましたので、記事を修正しました。

2016/11/19(土) 午後 11:20 hop*519


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