貝と海
イトマキボラ科§ イトマキボラ科 Fasciolariidae 细带螺科 xi4dai4luo2ke1
巻貝のなかまイトマキボラ科の貝は、種類が多くバラエティにとんでいるが、滅多にひろうことがない。図鑑を見ると、おおざっぱに3つの種族に分類されている。
軟体は赤色、肉食性で、岩礁性のものが多いが、砂底性のものもある。 3亜科、①イトマキボラ亜科Fasciolariinae, ②ツノマタガイ亜科Pristerniinae, ③ナガニシ亜科Fusininaeに分かれる(1)。
2月に、貝のファンクラブから冊子が届いた。「北西太平洋産ナガニシ属貝類」。貝の豊富な図版と、巻末に親切な日本語訳が付いている、特別編集増刊号だ。こういう特集号が届いたのは初めて。緒言に、
「イトマキボラ科貝類は、その多くが比較的大型であり広域分布するにもかかわらず,いまだに分類学的問題を孕むグループの1つである。(中略)ナガニシ属の扱いは研究者によってさまざま」(2)。まだ読み始めたばかりですが、ナガニシ属のことを広く俯瞰され、それにもとづく結論をわかりやすくまとめられていてすばらしい。これまで”Venus”誌や"ちりぼたん”誌に期待していた内容です。 ナガニシを私は1度だけ拾ったことがある。神奈川県三浦半島の南西端にある水戸浜で、大潮の引潮の日に、波打ち際に身入りでうちあげられていた。身は朱色で、ちょっと毒々しい感じ。刺身にして食べると美味しいそうだが(3)、食べる勇気はわかなかった。煮て肉抜きをしたのだが、まぬけなことに貝の蓋をなくしてしまった(写真の#3208:番号は図鑑(3)のPLATE番号と貝番号により付番)。
殻長は13cm。表面に黄土色のビロード状の細毛が生えていて、殻の模様は全く木材のようなもよう。殻の下端の水管が異常に長いことから「ナガニシ」と呼ばれるのだろう。殻口内部は白色で艶がある。こんな立派な貝殻を拾ったことがない。
「貝類」図鑑(1) p.162~163をみると、
ナガニシ イトマキボラ科 Fusinus perplexus (A. Adams) とある。
「市場貝類図鑑」によると、
「別名ヨナキガイ。SL(殻高)20cm前後になる。水管が細く長く擬臍孔がない。各層の糸状の螺肋があり、縦肋が肩で角張る。」 (4) 「北西太平洋産ナガニシ属」(2)では、「
形態変異の大きい種であり,多数の標本を検討しないと同定が困難なことがある。(中略)日本海やその他の内海から得られた標本は,太平洋沿岸産のものに比べ濃色となる」(p.104)。 そういえば、小学校の臨海学校で若狭和田浜へ行ったときに、赤くて小さいナガニシを見かけたが、図鑑では見たことが無い。Fusinus perplexus という名の通り、変異が著しく、こんがらがってややこしいけれど、結局は同じ「ナガニシ」という種にまとまることが多いようだ。 「北西太平洋産ナガニシ属」の冊子をパラパラめくると、ナガニシのほかに、見覚えある貝が収載されていた。p.42の図81-86, 「ミクリナガニシFusinus tuberosus」とある。以前にオーストラリアのダンク島へ遊びに行ったときに、当時10才の娘が拾った名前のわからない貝が、このページの図に似ていた(写真の#3211)。貝殻下端の水管溝が短めで、この貝が「ナガニシ」に属するとすれば、ちょっと意外。
あらためて「ミクリナガニシ」について「北西太平洋産ナガニシ属」(2)を見ると、p.101に「日本固有の種」とある。図版とは外観も異なっているようなので、ふたたび「貝類」図鑑(1)をさがすと、p.161の貝、とくに Latirus属のものが近そうだ。そこで、"Latirus"をGoogleで画像検索すると、比較的近そうな種(Latirus polygonusなど)が並んでいた(6)(7)。これらLatirus属は冒頭の ②ツノマタガイ亜科 Peristerniinae に分類される。 別にフィジーのマナ島へ行ったときに家内が拾った貝(#3215)が、"Latirus"検索で見つかった(6)。Latirus belcheriと、外観も産地も一致している。
両者は、太い縦縞模様で彩られたいかつい縦肋をさえぎるように細かい螺旋模様がきざまれている点や、殻口の形とくに下端に臍孔の痕跡のような形状が認められる点が似ている。進化の過程で、これから水管を長く伸ばし殻を大きくしていく各段階の種がともに生きているのかもしれない。
日本近海に限らず広範囲の海域の貝殻を眺めることができれば、貝の種類についての理解がもっと深まることだろう。というわけで、北大西洋産の貝については「ノースカロライナ貝類図鑑」(8)を開いてみると、イトマキボラ科Fasciolariidaeは、「チューリップ型の貝」としてp.64-65に3種が紹介されていた。そのうちの1種について、
これら大西洋産のイトマキボラ科の貝は、太平洋産のものと明らかに外観が異なっている。貝類の進化過程の比較的新しい時代に発生して、現在も変化をし続けているのではないだろうか。
(1) 世界文化生物大図鑑『貝類』2004, 世界文化社, p.160〜163, 奥谷喬司
(2) “The Genus Fusinus in the Northwestern Pacific”, 華路門 ポール & Martin Avery Snyder, Special Publication of the MalacologicalSociety of Japan, No.4, January 2019, Tokyo. 狩野泰則, 長谷川和範, 高野剛史, 清 麻桐
(3) 標準原色図鑑全集 第3巻 『貝』, 波部忠重・小菅貞男,1967, 保育社
写真の貝の番号は本書のPLATE番号から付けてあります。3208はPLATE32の8番の貝。(4) ぼうずコンニャクの市場貝類図鑑
(5) Wikipedia: 铁锈长旋螺(学名:Fusinus perplexus),亦作长旋螺,是新腹足目旋螺科Fusinus的一种。主要分布于韩国、中国大陆、台湾。常栖息在浅海沙底。
鉄錆びから連想されるナガニシは(2) p.10の日本海や湾内に産する比較的小型で赤茶けた貝であるが、むしろこの 铁锈 (tie3xiu:鉄さびの意)長旋螺は、コナガニシ Fusinus ferrugineus ((2) p.14)のことではないだろうか。ナガニシのことをかんたんに「長旋螺 chang2xuan2luo2」と呼ばないのは下記(12)のホソニシ(纺轴长旋螺)の方がもっと長いためだろうか。
(6) Natural History Museum Rotterdom
(7) Wikipedia: https://en.wikipedia.org/wiki/Latirus_polygonus
多棱旋螺(学名:Latirus polygonus),是新腹足目旋螺科Latirus的一種海螺。常栖息在潮间带岩礁。
(8) “Seashells of North Carolina”,Hugh J. Porter & Lynn Houser, North Carolina Sea Grant College Program,2010, UNC-SG-97-03
(9) 巨大な「ホース・カンク」が「チューリップ・シェル」を食べるBBCの動画(オススメです)
(10) 这货是什么?最近在佛罗里达(フロリダ)海边发现的巨型马螺
https://www.guokr.com/post/542181/ (11) Wikipedia: 金紡錘螺屬(學名:Chryseofusus)是一個海螺的屬,是一種旋螺科的海洋腹足綱軟體動物。本屬原來是纺锤螺属(Fusinus)之下的一個亞屬,於Callomon &Snyder, 2009 獲提升至屬級。
(12) Wikipedia: 纺轴长旋螺(学名:Fusinus colus),又名白长旋螺(学名:Fusinus toreuma),是一個海螺的物種,是一種新腹足類支序旋螺科纺锤螺属的腹足綱軟體動物。
=ホソニシのことです。ナガニシと似ているが殻がさらに細長く、フィリピンや臺灣のものは殻長20cm以上に及ぶ((2) P.58)。
(13) Wikipedia: Cinctura hunteria is a species of sea snail, a marine gastropod mollusk in the family Fasciolariidae, the spindle snails, the tulip snails and their allies. 鬱金香旋螺(學名:Fasciolaria tulipa)是一種大型的海蝸牛。 =チューリップボラのことですね。冒頭の ①イトマキボラ亜科fasciolariinaeに分類されます。分布は大西洋、ノースカロライナからブラジル。 (14) 臺灣貝類資料庫:日本長旋螺=アラレナガニシ http://shell.sinica.edu.tw/chinese/shellbase_detail.php?science_no=1164 「日本近海に産するナガニシ亜科のグループとしてGranurifusus Kuroda & Habe, 1954 アラレナガニシ属がある。(中略)フィリピン,ニューカレドニアやその他の西太平洋域にも分布」((2), p.121)。ナガニシ亜科に分類されてもナガニシ属ではない貝もあるので、ややこしい。
(15) 三浦半島の水戸浜
京急三崎口から歩いて行けます。天気がいいと、富士山が見えます。
(16) ダンク島のマギマギビーチへ
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