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差別・偏見・死の恐怖…B型肝炎と闘う原告の母
http://www.asahi.com/health/news/TKY201102160202.html
2011年2月16日
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娘と手をつないで歩く札幌地裁の原告の女性=昨年12月、札幌市中央区、上田幸一撮影
「B型肝炎の患者に近づくと、病気がうつる」。そんな誤解に基づく差別に、集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染したとして国を訴えた患者らは苦しむ。原告団は集団訴訟の和解案受け入れ条件の一つとして、差別をなくす対策の実施を国に迫っている。和解協議は、今年度内の基本合意に向け本格化している。患者らは胸を張って生きられる日の実現を願っている。
札幌訴訟の原告団に加わる札幌市の40代の女性は、約20年前、虫垂炎で入院、B型肝炎ウイルス感染がわかった。その日の夕食で出された給食の各食器に油性ペンで真っ赤な「○」が大きく描かれていた。同部屋の別の患者にはない。明らかに区別されていた。「なぜ私だけ」。悲しくなった。当時は病院でも理解はこの程度だった。
退院後、会社を3カ月に1度検査で休んだ。2年近くたち、理由を上司に打ち明けた。翌日、「近寄ったらうつる」と社内でうわさになっていた。誰も話しかけてこない。「もういられない」と会社を辞めた。
転職して結婚し、娘が生まれた。感染が直接の理由ではないが、夫と離婚。母子家庭となった。2006年春、高熱で受診すると、慢性肝炎とわかった。「お子さんが大きくなるまでは生きられない」と医師に言われた。生まれて初めて「死ぬ」と言われたことにショックを受け、その場で泣き崩れた。「お母さん死んじゃうかも。ごめんね」
しかし、泣き終えると娘と生きたい一心に変わり、退職して入院した。半年ほどしてウイルス量が減り始め、症状は治まった。
娘との生活のため、良い条件を求めて転職を重ねた。感染がわかれば採用されないという不安。苦い経験もある。同僚の誰にも、今も病気のことは明かしていない。後ろめたさも消えない。昨秋、原告団の川柳集にこうつづった。
履歴書の 健康状態 嘘(うそ)ばかり
提訴から2年余。小学生になった娘を原告団の街頭活動に連れて行った。「闘う母の姿を娘の心に刻んでおきたかった」。病状が進んで肝がんで死ぬ恐怖が、いつもある。昨年末の定期検査。腹部を超音波で調べてもらい、検査結果を聞いた。病状が落ち着いた今も死刑台にいる気分だ。
なぜこんなに苦しまないといけないのか。それが知りたくて原告に加わった。菅政権は1月28日、和解案を受け入れると表明した。ニュースで知った女性は「差別や偏見を生み出した事実を謝罪してほしい」と言う。苦しみ続けた人生に、区切りを付けたいと願っている。
訴訟の資料や記事をたくさんしまってある。一緒に闘ったことを、いつか娘に話して聞かせたい。(石塚広志)
■「職場感染ありえない」厚労省
厚生労働省は「肝炎ウイルスの職場での感染は、血液に触れることの多い医療機関を除き、まずありえない」とし、就職差別につながりかねない採用選考時のウイルス検査をしないよう呼びかけている。
ウイルス肝炎研究財団は、肝炎ウイルスの感染で注意が必要なのは、(1)けがの手当ての際に血液などがつかないようにする(2)カミソリ、歯ブラシなどは他人に貸さない(3)乳幼児に口うつしで食べ物を与えない、などを挙げている。
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