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欧州で広がる木質燃料価格の下落をどう見るか(1)
はじめにこの数年来欧州ではチップやペレットなどの木質燃料の価格が下がり続けている。変動の激しい原油の先物価格やスポット市場での卸電力価格に比べれば、木質燃料の値動きは至極穏やかで、あまり目立たない。しかし詳しく見ると、看過できない重大な変化が起こりつつあるように思う。
これまで何回かに分けて述べてきたように、ドイツでは風力や太陽光由来の「燃料費ゼロ」の電気が電力市場に流れ込むようになって、電力の卸価格は大幅に引下げられた。この過程で通常の火力発電は市場競争力を失い、化石燃料の価格も下がってきている。燃料費の割合がとりわけ高い木質バイオマス発電は電力市場から真っ先に締め出された感じだが、熱供給の分野でも安くなった化石燃料と競争しなければならず、苦戦を強いられている。
風力発電や太陽光発電は「お天気まかせ」の変動電源であり、その穴を埋める調整役としてバイオマスに期待が寄せられているのだが、現状のままでは前途多難と言わざるを得ない。欧州の一部では、CO2削減の観点から化石燃料とバイオマスの明確な差別化を図るために、炭素税の導入を求める声も聞かれるようになった。
炭素税の話は、またの機会に取り上げることにして、今回は木質燃料の価格が近年どのように動いているかスウェーデンとドイツの統計を使って検証しておこう。
木質エネルギーの先進国:スウェーデンの歩みスウェーデンは木質バイオマスの近代的なエネルギー利用を先導してきた国の一つである。2015年の統計によると、この国の総一次エネルギー供給525TWhのうちバイオマスは134TWh、25.5%を占める。このシェアは原子力発電(29.5%)に次ぐもので、近年では石油・石油製品(22.7%)をも上回るようになった。
バイオマスの大部分は木質系だが、輸入の化石燃料を国産の木質燃料に代替しようとする努力は1970年代から始まっている。まずバイオマス熱供給に対する助成は、石油代替基金を財源とした投資補助に始まり、1991年の炭素税の導入で本格化した。この炭素税は、気候変動問題への対応を意図したもので、熱量当たりのCO2排出量が大きい石炭や石油に、当初CO2トン当たり25ユーロほどの税が課せられた。カーボンニュートラルとされる木質燃料はこの税が免除されており、お陰で最も安価な熱供給用の燃料となったのである。
ただし発電用の燃料については、炭素税の対象になっていなかった。スウェーデンが再エネ電力の促進を図るべく取引可能なグリーン証書(TRECs)の制度を取り入れたのは2003年のことである。すべての発電事業者は発電量の一定割合(クォータ)に相当する証書を購入しなければならなくなり、その一方で大型の水力発電を除く再エネ電気の生産者は生産した電気をTRECsにすることができる。この証書を売れば収入になり、市場での売電収入に付加されることになる。
スウェーデンの地域熱供給の施設では、炭素税の導入で化石燃料からバイオマスへの燃料転換が進み、さらにグリーン証書の導入でバイオマスプラントでの熱電併給が進展した。CHPの展開プロセスとしては比較的うまくいったケースと言えるであろう。
以上のようなエネルギー政策にも支えられて、バイオマスの一次エネルギー供給は、1980年の48TWhから2015年の134TWhまで、ほぼ直線的に増加している。この間、木質燃料の価格はどのような推移を辿ったであろうか。
木質燃料価格の展開まず図1を見ていただきたい。森林から下りてくと木質チップの価格とスポット市場における卸電力価格とを対比したものだが、いずれも発熱量MWh当たりのスウェーデンクローネ(SEK)で表示されている。1SEKはおおむね1/10ユーロだ。
見られる通り、Nordpoolにおける月別電力価格の変動(点線)はまことに激しい。傾向としては2010年ころまでが上昇基調、それ以降が下降基調と言えようか。実線はグリーン証書の売却収入を加えたものだが、再エネの発電者にとって相当有利になっていることが知られよう。
それはともかく、電力卸売価格の激しい変動に比べると、木質チップの価格のほうは動きがすこぶる穏やかだ。一見したところ両者の間に何らかの関連があるとは、とても思えない。イギリスで高品質の木質チップを生産・配達しているChip Chip Ltd.が自社のホームページに次のような宣伝文を載せているのも頷ける。
「木質燃料の価格は、これまで他の燃料とは比べものにならないほど安定して推移してきた。石油やプロパンガス、さらには天然ガスなどと中長期的に十分競争できる熱供給源の一つと言っていい。木質燃料は、上昇を続ける化石燃料からある程度切り離されて、購入しやすい価格で最終利用者に提供されるエネルギーになる可能性がある。それは恐らく数ある再生可能なエネルギー技術の中で最も低コストの技術であろう」
ただし図1には多少不正確なところがある。木質チップの価格が安定しているように見えるのは、一種の目の錯覚であって、縦軸の目盛りを少し拡大して観察すると、事はそれほど単純ではない。
図1 卸電力価格と木質チップ価格の推移スウェーデン、名目価格 1996〜2016年 SEK/ MWh 出所)K. Ericsson & S. Werner: The introduction and expansion of biomass use in Swedish district heating system, Biomass and Bioenergy 94 (2016 ) 57‐65 |
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