明けましておめでとうございます。昨年は電力小売全面自由化(4月)や「貫徹委員会」(9月〜12月)など電力システム改革の流れの中でいくつか重要なイベントもありましたが、今年はどのような年になるのか、電力システム改革は今後どのように進んでいくのか、年頭のコラムにて展望したいと思います。
我々は歴史的変革の只中にいる。
図1に経済産業省が提示した電力システム改革の流れを示します。このような「年表」はどこかで見たことがありませんでしょうか?例えばフランス革命や明治維新など、大きな変革を伴う歴史的イベントは、ある単発の事件で一夜にして歴史が変わるのではなく、複数のイベントがさまざまに発生し、行きつ戻りつしながら進んでいくものです。年表などに描いて俯瞰的に眺めないと、大きな変革の流れが掴めません。電力システム改革の流れも同様で、ある制度変更が施行され一夜にして大変革が起こるのではなく、さまざまなルール変更が段階的に行われ、時には大きく進み、時には残念ながら後退することもありながら、全体的に数年かけて進展していくものです。
図1の資料は、実は2013年の段階で当時の「電力システム改革専門委員会」が公表した報告書に記載されている電力システム改革の工程表です。この年表を2017年の現時点から振り返ると、2015年に広域機関の設立、2016年に小売全面自由化と1時間前市場の創設など、当時想定した工程が現在までに順調に進んでいることがわかります。
一方、2016年9月に発足した「
電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(以下、貫徹委員会)において提案された「ベースロード電源市場」「非化石価値取引市場」など、この工程表にはないものが突然登場し、電力システム改革の流れに逆行する(市場分断や規制強化という意味で)決定が行われつつあるのは本コラムでも既に議論した通りです。
このように、図1のような工程表(年表)を俯瞰する際に重要なのは、いつまでも「過去の考え方」を踏襲しているのではなく、「未来のやり方」に思いを馳せることです。我々は今、電力システム改革という大きな歴史的変革の只中にいます。ひとつひとつのイベントに一喜一憂するのではなく、またルール変更が自分にとって不利か有利かという近視眼的な損得勘定ではなく、大きな流れのゴールに向かって未来志向で進んで行くという「意思」を常に確認することが重要です。
電力システム改革のおける当座のゴールは図1に見える通り、2020年の「送配電部門の法的分離」です。ただし、これはあくまで「当座」であって最終ゴールではないことに留意が必要です(理由は後述)。この
発送電分離は2015年6月17日に国会成立した改正電気事業法(第3弾)で定められた決定事項です。つまり、発送電分離まで残すところあと3年と、カウントダウンが始まっているのです。
「電力会社」は何を意味するのか。
冒頭で、いつまでも過去の考え方を踏襲するのではなく未来のやり方に思いを馳せるべき、と申し上げました。発送電分離や電力自由化などの電力システム改革の流れの中で、過去に囚われた考え方の代表格として、筆者は「電力会社」という言葉を挙げたいと思います。「電力会社」という言葉自体に発想の後進性が内在していると言えるでしょう。
みなさんは「電力会社」という言葉を聞いて、何を想起するでしょうか? おそらく多くの人は東京電力や関西電力などの「
一般電気事業者」を思い浮かべると思います。あるいは、現在は「新電力」や「市民電力」「地域電力」などの新しい形態も登場していますので、そのような(比較的)小さな会社を連想する人もあるかもしれません。そもそも電力会社ってなんでしょうか?電力会社は今後どうなっていくのでしょうか?
発送電分離の工程をもう少しわかりやすく理解するために、図2のような図を描いてみました。現在は発送電分離前夜なので、垂直統合された電力会社(一般電気事業者)が存在する一方、発電部門と小売部門の両者を持つ(ただし送配電部門は持たない)新電力や、発電設備だけを持つ発電会社や、また数は少ないものの、設備を持たず小売サービスのみを行う小売会社などが混在しています(図2(a))。
図2 発送電分離前後の電力産業の構造(筆者作成)
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しかしながら、2020年に発送電分離が行われると、従来電力会社が所有していた発電部門・送配電部門・小売部門は、それぞれ「発電会社」「送配電会社」「小売会社」として3つに分離されます(図2(b))。ただし、2020年の時点では「法的分離」に留まっており、分離された会社は資本関係を持ってもよく、3つの会社はそれを束ねるホールディング会社の傘下のグループ企業として存続することが可能になります。ここで実は、送配電部門は公共財に近い役割を持ち引き続き独占が認められので、公共的な役割をもつ送配電会社と自由競争部門の発電・小売会社同士が資本関係にあるというのは、冷静に考えるとおかしな話です。
本来、送配電会社はすべての利用者(発電会社・小売会社)に公平に差別なく扱わなければならないのですが註1、同じグループ会社を優遇せず本当に他社と平等に扱うかどうかは、性善説に頼るほかありません。また同様に、グループ会社内では会計上の抜け道も多く、透明性も充分保証されません。実は「法的分離」は改革としては中途半端な状態に過ぎず、これが冒頭で「当座であって最終ゴールではない」と述べた理由です。
註1 透明性と非差別性に関しては、下記の筆者の論考を参照のこと。
•安田陽:「
透明で、非差別的な・・・。」、京都大学再生可能エネルギー経済学講座コラム、2016年11月17日掲載
経産省が発表した図1ではこの最終ゴールが描かれていませんが、「法的分離」と呼ばれる形態(図2(b)に相当)の先には、「機能分離」とよばれる形態(図2(c)に相当)がある、ということは念頭におかなければなりません。ここでは送配電会社と発電・小売会社は資本関係も分離され、完全に別会社となります。このような形態になって初めて、すべての発電会社・小売会社が公平に送配電インフラを利用できるようになるわけです。電力システム改革の流れを見るとき、我々は図1に描かれていないその先の「機能分離」の状態まで思い描かなければなりません。それが未来への原動力です。
このように、あと3年で発送電分離(ただし法的分離)が行われる、さらにその先に機能分離が待っている、という状況の中で、いつまでも垂直統合された(発送電分離をしていない)「電力会社」という言葉を使い続けると、本来目指すべきゴールがちっとも見えてこないことになってしまいます。「電力会社」という言葉自体に発想の後進性が内在している、と述べたのはこのためです。
市場プレーヤーとして何を目指すのか。
厄介なのは、新規参入者の中にもこの古い発想に囚われて、自らを好んで「電力会社」「○○電力」と呼ぶところも多いという現状です。筆者は市民団体や地方自治体関係者の方々などとさまざまな講演や委員会などでお話を伺い、ご協議する機会がありますが、その際に「みなさんが思い描くビジネスは何ですか?発電に特化したビジネスですか?小売サービスを売りにするビジネスですか?地域配電網を所有する配電ビジネスですか?はたまたガスや熱なども扱う総合エネルギービジネスですか?」と質問させて頂いています。残念ながら、明確に「我々が目指すビジネスは○○です」と明確に即答して頂けるところはまだまだ少なく、漠然となんとなく「(ミニ)電力会社」を掲げているに過ぎないケースが多く見られます。それは図2(a)に示すような発送電分離以前の発想から抜け出すことができず、従来の大手電力会社のシェアを少しだけ奪い取るミニチュア版「電力会社」をイメージしているに過ぎないからではないか、と筆者は見ています。
また、発送電分離が完了して送配電会社が公共的組織として機能すると、それと同時に電気という商品を取引するための「電力市場」も活性化してきます。なぜなら、従来垂直統合された電力会社内では発電部門から小売部門への社内取引(取引という意識すらないかもしれません)であったものが、複数のプレーヤーが市場を通じて透明性高く効率的に取引できるからです。もちろん、市場を通さずに特定の発電会社と小売会社の間で契約を結ぶ「相対(あいたい)取引」という手もありますが、合理的な経済行動としては、リスクヘッジのために市場取引も利用するのが一般的です。なぜなら相対だけだと与信リスクがあるからです。発電所の運用期間である10〜20年のスパンを考えたときに、10〜20年後も確実に契約相手の会社が存続しているかわからない、というのは当然のリスクとして考えなければなりません。
ところが、筆者が多くの新規プレーヤー(特に市民電力系や地方自治体系)の方に話をお聞きすると、大抵は相対取引のみに関心が集まり(特に一般送配電事業者の管内を越えた越境取引に関心があるようです)、市場取引という言葉が出てくるケースはあまりありません。
電力市場が活性化してくると、単に従来型の発電ビジネスや小売ビジネスだけでなく、バランシング・レスポンシブル・パーティー(需給調整責任会社 BRP)やパワートレーダー(市場取引代行会社)、
アグリゲーター(
デマンドレスポンス管理会社)、再エネ出力予測会社などさまざまなビジネスが勃興してくるということは、本コラム連載でも既に述べた通りです(2016年2月29日掲載「
電力市場と再エネ出力予測ビジネスの最前線」参照)。図3に同コラムで掲載した図を再掲します。規模の小さな発電会社や小売会社だと、高度な知識や経験が必要な市場取引に人材を避けないため、専門性の高い代行ビジネス(証券会社や資産運用会社と同じです)が出てくるのは自然の流れです。
図3 自由化された電力システムにおける電力取引の概念図(筆者作成)
(初出)安田陽:「電力市場と再エネ出力予測ビジネスの最前線」、環境ビジネスオンライン、2016年2月29日掲載
このように、電気の流れとしては送配電会社を中心に、取引の流れとしては電力市場を中心に、さまざまなプレーヤーがそれぞれの得意分野や独自コンセプトを活かしてビジネスを行うのが、図1の工程表の右側に待っている電力システムの未来の想像図です。しかしながら、その未来を担うはずの多くの新規プレーヤーが「電力会社」という古い発想を容易に想起させる言葉に引きずられて、従来型のビジネスに留まっている、というのは何とも残念なところです。新規プレーヤーに必要なのは「新しい発想」です。そのような発想を思い描くことができ、それを実現する能力のあるプレーヤーのみが、今後の公平で透明な自由競争の下で生き残ることでしょう。
「電力会社」に未来はあるか。
恐らく、2020年の発送電分離(法的分離)以降も、現在の一般電気事業者は「○○電力ホールディングス」と名前を変え、「電力会社」という言葉が直ちに消滅することはないでしょう。相変わらず従来の考え方を変えたがらず「電力会社」を好んで使いたい人たちは2020年以降も確実にいるでしょう。発電会社と小売会社を兼ねる会社も相変わらず「新電力」と呼ばれ続ける可能性があります。しかし、2020年以降に「電力会社」と呼ばれるものと、我々が現在「電力会社」と呼んでいるものとでは、確実に中身が異なります。このような状況で、無省察に「電力会社」という言葉を使い続ける限り、古い時代の考え方を知らずに踏襲してしまい、新しい時代に対応できないことになってしまいます。
電力市場に参入する新しい形態の会社がどのような名前で呼ばれるのかは、2020年をもう少し過ぎてからでないとわかりませんが、少なくとも「電力会社」ではなく、「発電会社」「小売会社」という言葉が日常会話として当たり前に使われる日がやがて来るでしょう。さらに電気だけではなくガスや熱などの他のエネルギーを同時に取り扱う会社も増えてくると予想され、最終的には「エネルギー会社」という新しい一般名詞が認知されることになるでしょう。・・・と、将来の夢と初夢が少々混在していますが、筆者の目出たい夢想をもって新春のご挨拶に代えさせて頂きます。