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白い病室。
目を開けると、個室で一人だった。
入院は初めてなんかじゃない。
だけど、退屈で。
でも、意外と静かな病室は好きだった。
昔の事を思い出した。
最初の入院の時。
俺は母親を怒らせて叩かれて、そして……
『死んであげるよ』
首を切って、自殺未遂。
あの後、三日間ぐらい目を覚まさなかった。
私立の一貫性の学校に入るために、勉強した。
中学受験なんてどうでもよかった。
だけど、俺は宮のために受かるために勉強したんだっけ。
「兄さん」
「どうでした?」
「うっ受かったよ!!」
「そうですか!よかったですね」
涙ながら抱きつかれた。
俺も余裕で合格していた。
それに、津森も渚も受かって。
皆一緒に中学受験は終えた。
「光」
「トー兄」
トー兄は、本名・戸川 由岐。
俺達の親戚で、隣に住んでいるんだ。
しかも、ここの大学に通っていて。
将来、教師になるっていっている。
「そのトー兄はやめろ」
「だって、呼びやすいんですよ」
「受かったのか?」
「うん!!皆受かったよ!!」
そうか、と言って俺達の頭をなでた。
俺は、この行為が好きだ。
落ち着いて。
安心できるから。
そんなこんなで、小学校も終わり。
中学校の入学式。
俺は首席だったため、代表としての言葉を言った。
皆俺を見ていた。
そして、宮も見られていた。
双子とは珍しいらしい。
しかも、その兄が代表なのだから尚更目立つ。
宮は肩がすくんでいた。
仕方ないことだと思った。
だけど……
「兄さんは、なんでいっつも俺の前にいるんだよ!!」
「えっ」
「俺は兄さんじゃないのに!!どうしていっつも兄さんと比べられなくちゃいけないんだよ!!」
コンプレックス。
宮は、成長期。
そして、反抗期。
俺に反発してきたのだ。
俺は、黙って聞いていた。
だけど、宮は収まらなかった。
「兄さんなんか大嫌いだ!!」
そのあと、俺達は縁を切った余ように話さなかった。
会話さえなかった。
俺は家族の一員ではなくなっていった。
下からは笑い声さえ聞こえる。
俺は暗い部屋で一人で食べていた。
だけど、ある日俺は壊れてしまったんだ。
「あぁぁぁああ!!!!!!」
食事を投げ。
本や物をすべて、グチャグチャに投げた。
部屋中をぼろぼろにして。
そして、自分の腕を何回も何回も切りつけた。
血が俺の腕をつたる。
呼吸が苦しかった。
そして、何も見えなくなった。
何もかも、終わりにしたかった。
死んでしまいたくなった。
「クソッたれ」
泣けない。
涙が出ない。
もう、枯れてしまったんだ。
いっぱい泣いたから。
その次の日。
寝なかった俺は、グチャグチャの部屋をそのままにして家を出た。
学校に行って。
保健室に直行した。
「すみません。手当してほしいんです。」
保険医の坪谷先生。
いつもお世話になっていた。
「どうしたの!?これ……」
気づいたら、俺の腕は深い傷ばかり。
パックリと肉が裂けていた。
そして、両方の腕とも血だらけで、それにも気づかなくて。
「君、一回精神科行ったら?」
だけど、俺は首を振った。
これ以上、俺を醜くしてほしくなかった。
だから、手当を受けたら俺は、教室に1人で座り空を見上げた。
ここから落ちたら…死ねる?
窓枠に座り、下を見下ろす。
そして、宮が教室に入ってきた時だった。
「宮、俺が死ぬから生きて」
微笑んだ。
そして、俺は落ちた。
暗闇のどん底に。
凄い衝撃。
背中が痛かった。
頭も、体全身が。
そして、俺は…死んだと思った。
次に目が覚めた時には病院のベットだった。
俺は死んではいなかった。
どうして死んでない。
要らないのに、どうして。
自分を恨んだ。
だけど、手には温かな感触があった。
それは、宮の手だった。
ずっと握り締めていたようだった。
「ん…」
宮は眼を覚ます。
「兄…さん?」
「……宮」
宮の頬には自然と涙が流れていた。
「ごめんなっ!兄さん、俺……」
「お前の…せいじゃない」
俺は力ない手で頭を撫でてやる。
そう、全部俺が至らないばかりだから。
ごめん。
「だって……」
「それ…以上言うな」
無理やり笑ってみせる。
宮は泣いていた。
俺は、頭を撫で続けていた。
俺が入院している間、宮は俺の世話をしてくれた。
体があまり動かせなかったので体を拭いてくれたり。
食べ物を食べさせてくれたり。
そんな中、両親は一度も来なかった。
「兄さん、大丈夫?」
「平気。勉強は大丈夫です。」
「そうじゃなくて。体」
宮が言いたいのは、最近よく発熱すること。
咳が出るということ。
風邪を引き起こしていた。
「大丈夫ですよ。心配いりません」
「兄さん……俺、頼りがいない?」
「ありますよ。大丈夫」
微笑んだ。
だけど、一本の電話。
それは、思いもよらなかった。
両親の死。
俺達は、本当に俺達だけになってしまった。
葬式の準備などの会場。
それも、病院で俺が決めた。
体がダルイ時も、辛くても。
戸川兄さんが来て、手伝ってくれた時もあった。
そして、お通夜。
葬式。
俺は挨拶を続けた。
病院から一週間だけの退院許可が降りた。
「津森、宮泣いてるからお願い」
「おい…」
両親の死。
宮は泣いていた。
だけど、俺は泣かなかった。
だって、泣くほどの事じゃなかったから。
そして、コソコソといわれる。
「光君結局泣かなかったわね」
「感情が出ないとかって噂よ」
「悲しくないのかしら」
知らない。
感情なんて出してたらきりがない。
棺桶に花を入れていく。
俺は一輪の菊を入れる。
真っ白な菊。
そして、心で言った。
『俺を恨んで』
焼かれる。
泣き声が聞こえる。
宮の肩を抱きしめる。
そして、俺は倒れた。
「兄さん!?」
声が遠ざかっていっく。
気がついたら、すべての行事が終わっていた。
俺達は高校に上がるまで、戸川兄さんのお世話になることにした。
楽しい食卓。
だけど、俺は食べることがあまりできなかった。
「光君、おいしくない?」
戸川兄さんの母親が俺に言う。
俺は笑顔で「いいえ」と笑顔で言う。
「トイレ行ってきます。」
席を立つ。
トイレに行く。
「うっ…げぇ」
嘔吐。
受け付けていなかった。
だって、今さらだから。
こんな笑顔あふれる食卓。
いらない、俺には・・・・・
「いらないよ」
ある日のことだった。
戸川兄さんは、俺を外に連れ出した。
二人で公園に行き、温かい紅茶を手にしてベンチに座った。
「どうしたんですか」
「ん?お前さぁ…食べれてないだろ」
「えっ…あぁ…うん」
頷いた。
「お前、何が欲しい」
「えっ」
「お前には何が欲しいんだ」
寒い手をこすり合わせる。
冬。
「何も要らない」
「えっ」
「もう、何も望まないよ」
雪。
「光……」
抱きしめられる。
「俺……何も要らない」
あの時は、俺は何も望まなかった。
だけど、今は違うよ。
「光」
「トー兄」
「やめろ、その呼び方」
「ごめん」
今はあるよ、望み。
「トー兄。俺の望み聞いてくれる?」
「ん?」
あの時の答え。
「俺、生きたい。ずっと皆と笑っていたい」
ずっと。
そう、俺はずっと皆といたい。
それが俺の望みだよ。
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