正林堂 本の気休め

群馬県渋川市の小さな本屋が、本に関する話やお客さんとの会話、地域での出来事、ホームページの更新情報などを気ままに綴ります。

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贈与 その2

月夜野町(現みなかみ町)の私の実家では、
毎朝のように朝起きると玄関の前になんらかの新鮮な野菜がおかれている。
近所のひとが、自分のところで採れたものを持ってきてくれたのだ。

おそらく家の親も、お返しになんらかのものを持っていているのだろうが、
それは見たことがない。
今では、近所でも専業農家などはほとんどなく、
どの家も実態は家庭菜園程度の畑で、
出荷までしてそれを収入の足しにしているような家はほとんどない。

わが家の猫の額程度の畑の収穫ですら、
自分のところではとても消化しきれない量の野菜がとれるのだから、
かつて農業をしていた家が休耕田や畑で栽培している農産物ともなると
たとえそれが片手間程度のものであっても、
近所から親類縁者だけでなく、遠くで暮らす子どもたちに送っても
なおまだ有り余る場合が多い。

そんな残すほど無駄なことせずに
もう少し計画的な生産をすればいいのに・・・と
はたから見ていると思えてきてしまうのだが、
畑を耕している当事者たちは、そんなことはあまり気にしない。

毎朝、土にを耕し、
今年は白菜がこんなによくとれた、
今年のキュウリはどうも出来が良くない、
などと言いながら、天気をながめ、
自分の腰の疲れをかばいながら
自慢の漬け物にして、隣のばあさんに食わせてやれればうれしいのだ。

そして、こうしたものを届けてもらった側も
こんなにもらってしまって申し訳ない、困った、困ったと言っていながら
この関係にとても満足している風にもみえる。
この朝、起きる前に玄関に届いた野菜のおかげで、
そのお礼をしに昼時などにその家を訪ねると、
また、お茶をご馳走になりながら、
最近、どこどこの息子がどうした、
リュウマチの具合がどうだ、
この間のあそこんちの葬式はえがった、
などといった大事な(ときには余計な)地域情報交換が行われる。

そんな田舎のどこにでもある光景をみていると、
ここ数十年来、農業では食っていけないと
日本中で田畑を切り売りして、パートや出稼ぎをしたり、
会社勤めに転業したりしてきた流れというのが、
なんか理由がおかしいのではないかと思えてくる。

農業では食っていけない?
けっこう食っていけるじゃん!てね。

日航機事故のご縁で知るようになった上野村の、
ほんとうに都会からは隔絶された人たちのくらしなどをみていると、
水道、電気、ガス、電話、税金などの出費以外は、
手元に現金がなくてもほとんど不自由なく暮らしていくことはできる。
それが、現金収入のないことが問題であると気づかされるのは、
子どもがいた場合の教育費、
車を持った場合の購入・維持費、
それとなにか会ったときの医療費、
とくべつな個人的趣味の贅沢を望まなければ、
まとまった現金が必要になるのは、この3つだけなのです。

かつての山村では、子どもの教育費が必要なときなどのために
バックグランドに所有している山などがあり、
ときに何十年かに一度、木を伐って現金化するようなことをしてきた。
米作りひとすじの農家よりも、
米だけに依存できない、一見貧しい農家のほうが、
現金収入の道を多くもっていた例が意外と多いことを最近知った。

こうした暮らしの姿をみていると、
食っていける、食っていけない、
収入が多い、少ない
といっても、その圧倒的な部分を左右しているのは
教育、医療、車のコストで、
(これに都会であれば家賃が加わる)
これ以外の支出は、多少趣味娯楽の出費を加味してもたいした金額にはなっていない。

このことからもう一度ふりかえって
ひとが食っていけるかどうか、
収入が豊かであるかどうかを考えると、
ほんとうの「労働」や「生産」というもののとらえ方に対して
もっと別の見方があるのではないだろうかと最近思えてならない。

つまり、「働く」イコール「稼ぐ」の労働観ではなく、
先の教育、医療、車、家賃などの負担をのぞくと
稼がなくても、自然の恵み(自然からの贈与)があれば、
自然を守り育てる営みとしての労働があれば、
本来、多くのひとびとは食っていくことはできた社会があるということです。

こんなことを言うと
それは田舎の山村だからいえること、
欲のない生活を空想しているからいえることだという反論がすぐかえってきますが、
よーく、よーく考えてもらえると、
これは山村に限った構造の問題ではなく、
都会の先端資本主義の世界でも共通してた構造が見えてくるのです。

(この辺で続きは次回に)

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